「ああ。赤信号を無視した車に轢かれてな」

「そう…。それで気づいたら、幽霊になってたってこと…？でも幽霊なんてこの世にいないはずじゃ…」

「知らねぇよ。俺だってそんなもの信じたことなかったけど、俺がここにいることがその証拠だろ」


あっけらかんと言い放つ鳴海くんに、本当に今目の前にいるのが鳴海慎なのだと実感する。


「でも、どうして私にだけ見えるんだろう…？私別に霊感が強いわけでもないし、今まで幽霊なんて見たことがなかったのに」

「さあ…。何にしても、災難だったな。せっかく俺が死んだことで厄介なやつの面倒ごとを頼まれることもなくなったっていうのに、また再会することになって」

「な…っ、そんなこと、思ってな…」

「嘘つくなよ。おまえだって俺のことが嫌いだっただろ？」


鳴海くんに冷たく鋭い瞳で睨みつけられ、それ以上言い返すことができなかった。


「俺は嫌いだった。何をされても言われても、ヘラヘラ笑っていい子ちゃんでいるおまえも、噂で俺を軽蔑して突き放してくるクラスメイトも、やる気のない担任も、関心のない親も、なんのために生きてるかわからない自分も全部大嫌いだった。だから、どんな形にしろこんな簡単に死ぬことができて今すげぇ嬉しいんだ」


鳴海くんの半透明な体が、夜の闇に呑み込まれてしまいそうな気がした。


「…鳴海くんが死んじゃって、きっと親御さんは悲しんでるよ」

「…はっ、おまえが俺の何を知ってる？母親は俺が小さい頃によその男と浮気をして出ていって、残された父親も俺に全く興味がないのか何も話してくれなくなった。喧嘩してもタバコを吸っても、何も言ってこない。俺のことがどうでもいいと思ってるから」