「死ぬなよ。おまえの人生はまだこれからなんだから。おまえの両親はただ賞賛や羨望を集めたいだけじゃないかもしれない。少し行き過ぎた子どもへの干渉というか、過保護というかそういうのは感じるけど、おまえを“いい子”にしたかったのは、おまえのためでもあるのかなって話聞いてて思ったよ。俺とは反対におまえへの興味がありすぎるからこそ、おまえを苦しめてしまっていることに変わりはないんだけどな」

「…え?」


たしかに、考えもしなかった。

二人は私を利用しているのだとばかり思っていたし、本当の気持ちを聞くことも歩み寄ることも諦めてしまっていたから、そんな見方があったことに今初めて気づいた。

それに私は何一つ自分の言葉にして現状を変えようとしなかった。

言わないと、お互いわかるわけがないのに…。


「…鳴海くんこそ、本当はお父さんは鳴海くんのことを大切にしてたんじゃないかな。突然息子と二人きりになって、どうやって接したらいいのかわからなかったとか、何か理由があったのかもしれない。この世界は綺麗なことばかりじゃないから、子どもを大切にしてくれない親だってもちろんいる。だけど、私たちが親からの愛を信じないで勝手に決めつけて、本当はあったかもしれない愛情に気づけないままなんてそんなの、悲しいじゃん…」


ぽろっとあまりにも自然に瞳から涙がこぼれるものだから、自分が泣いていることに気づくのには少し時間がかかった。

涙を流したのもいつぶりだろう…。


「なんでおまえが泣くんだよ。そうだな、もしかしたら親父にも親父なりの思いがあったのかもしれない。…でももう遅いんだ。死んでから気づいたって、もう遅い。その点おまえはこれからいくらでもやり直せるんだ。俺みたいになるなよ。もしまたいい子ちゃんを演じてたら、幽霊のこの姿で“嫌いだ”って言ってやるよ」


にっと無邪気に笑う鳴海くんの顔は今まで見てきた無愛想で睨みつけてくるような冷たい表情なんかじゃなくて温かくて、初めて笑いかけてくれたことが嬉しくて、それなのにすごく悲しい。矛盾した気持ちに余計涙が止まらない。

一度崩壊してしまったら止められないダムのように、私の涙は地面に水溜りを作ってしまうんじゃないかというくらいとめどなく溢れていた。