時は過ぎ、オープン前日がやってきた。風薫る5月、テレビに映るバラ園はピンクや赤い花で埋め尽くされていた。

 わたしと夢丘と富士澤の前には緊張した面持ちの美容師たちがいた。明日、特別な美容室がオープンするのだ、緊張しないわけがなかった。それでも夢丘は落ち着いていた。サロン・コンセプトを丁寧に説明したあと、施術が終わったお客様が最高の笑みを浮かべてもらえる美容室にしたいと声に力を込めた。続いて富士澤が檄を飛ばした。
 
「神山不動産との委託契約書に明記されていますが、皆さんへの報酬は完全歩合制の制度に沿って算出され、支払われます。つまり、お客様が皆さんの施術と接客に満足し、リピートされることによってのみ高い報酬が得られるのです」

 そして、厳しい目つきで美容師全員を見回すように視線を送った。

「私たちはプロです。プロには結果が求められます。ですので、結果を出せない者は退場を余儀なくされるということを忘れてはなりません。夢丘さんは『美容師の夢と希望を最大限に!』と言われていますが、それに甘えるわけにはいかないのです」

 美容師は皆、緊張した面持ちで聞いていたが、彼の言葉に怯んでいる美容師は一人もいないように見えた。全員が自分の施術と接客技術に自信を持ち、トップ美容師を目指しているからだろう。強い意志に満ち溢れた美容師たちを見て、わたしはめちゃくちゃ頼もしく感じたが、それは富士澤も同じようだった。

「そうです。その顔です。皆さんは選ばれた美容師です。最高のパフォーマンスを披露してください」

 ひときわ強い声を発した。