宮国のことが気になって頭を離れなかったが、しかし、それにかかわっているわけにはいかなかった。面貸しの交渉が迫っていたからだ。
 シミュレーションの結果を見て一時的に落ち込んでいた夢丘だったが、一晩眠るとネガティヴな考えを一掃し、どうやったら集客できるか考え抜き、ある結論に達していた。 それは、今の職場と連携するというものだった。夢丘を指名してくれているお客さんを開業先に紹介してもらえたら、1人に付き1,500円を店に払うと提案したのだ。それによって利益率は低くなるが、その代わり、毎日2人以上のお客さんを見込める率が高くなるという。彼女はそれを式に当てはめていた。

(15,000円-1,500円)*2人*24日=64万円-15万円-25万円=24万円

 これなら何とか生活ができるという。そして、更に軌道に乗って毎日3人の施術ができるようになったら、(15,000円-1,500円)*3人*24日=97万円-15万円-25万円=57万円となり、本格的開業のための貯金ができるようになると目を輝かせた。

「店長ははっきり約束してくれたの?」

「はい。もちろん社長の許可が必要ですけど、たぶん大丈夫だろうと言ってくれました」

「そう。それなら大丈夫かもしれないね」

 夢丘が現在持っている指名客数を考えると、この試算は無謀なものではないと思われた。ただ、思い通りいかないことも想定しておかなければならない。そのことを念頭に、更に詳細を詰めていった。

 ・紹介に頼らない独自の集客方法→これは、東京美容支援開発が持つネット予約システムを導入することにした。SNSやブログと連携して24時間自動で予約を受け付けるだけでなく、顧客データの管理もしてくれる優れものらしい。

 ・バックオフィス機能→売上管理、経費計算、確定申告などの経理業務は東京美容支援開発が連携する会計ソフトを導入することにした。

 ・賃料の交渉→月額15万円を値切るのは難しそうだが、開業当初の集客が不安定であることを考えると、少しでも安くしていきたい。そこで、当初3カ月間は月額10万円にしてもらえないか、打診してもらうことにした。