翌日の夜、夢丘に伝えると、大喜びするかと思ったが、力ない声が口から漏れた。

「知らなかった……」

 驚くというよりも、自分にがっかりしているようだった。業界のことは知っているつもりだったのに、面貸しという制度は聞いたこともなかったという。

「それは仕方ないよ。君が勤める美容室は予約が難しいほどの人気店なんだから、そんな情報が入ってくるわけないよ」

「それでも……」

 開業に向けて必死になって情報を収集してきたのに、こんなことも知らない自分にガッカリしているようだった。

「でも、早く知ることができて良かったと思うよ。とにかく、一筋の光が見えたんだから、すぐに当たってみようよ」

 神山が教えてくれた業者との面談を進めることを強く促した。

「そうですね。せっかくのチャンスなのだから、動かないといけないですよね」

 気持ちを切り替えたのか、やっと笑みが漏れた。

「うん。じゃあ進めるね」

 面談日が決まったら連絡することを伝えて、喫茶店をあとにした。