翌週の火曜日、わたしと夢丘は神山不動産の応接室にいた。事前に用件を伝えていたから、単刀直入に話を切り出した。彼は真剣に耳を傾けてくれた。

「話はよくわかりました」

 それまで黙って聞いてくれていた神山が頬を緩めて、頷きを返してくれた。しかし、すぐに穏やかな表情は顔から消えた。

「ただ、われわれの投資先はあくまでも企業であって、個人には行っていませんので、前例がありません。検討はさせていただきますが」

 そこで声を切った。難しいことを承知してもらいたいというように。

 わたしは頷きを返して、横に座る夢丘を見た。瞬きもせず、じっと神山を見つめていた。 目を離したらすべてが終わってしまう、そんな気持ちがそうさせているようだった。 わたしはもう一度、神山に視線を戻した。

「無理な頼みだとはわかっているけど、個人への投資という観点ではなく、美容室事業への投資、もしくは女性向け事業への投資という観点で検討してくれないかな。なんとか、よろしく頼みます」

 頭を下げると、夢丘もすぐに追随した。

「よろしくお願いいたします」

「わかりました」

 神山の声は穏やかだった。