昼食を取るために学食に向かった。もう何回も利用しているのに、40歳で学食というのがまだ信じられなかった。
でも、ありがたかった。価格はもちろんのこと、選ぶのが大変なくらいメニューが多いのだ。
今日はカレーにしようか八宝菜丼にしようか迷った。八宝菜は最近食べていなかったので惹かれたが、値段を見て諦めた。八宝菜丼が380円に対し、カレーが300円なのだ。これから2年間収入がないことを考えて、カレーにした。
窓側の4人掛けテーブルに座ると、先ほど一緒に講義を受けた受講生が次々にやってきて、同じテーブルに座った。顔を見ると、3人とも講義で質問に答えたメンバーで、皆、賢そうな顔をしていた。それで一瞬、気後れしたが、それでも名札を指差しながら自己紹介の口火を切った。
「高彩貴光です。40歳です。医薬品メーカーで営業をやっていましたが、新たな道に進むために退職して退路を断って入学しました。皆さんよりかなり年上だと思いますが、よろしくお願いします」
「最前列に座っていて真っ先に教授に当てられた西園寺公親です。29歳です。建設会社で経理の仕事をしています。社内留学制度に合格して入学をすることができました。よろしくお願いします」
「2列目に座っていた神山醸知です。上智大学の出身です。というのは冗談で、『知を醸し出す』という想いを込めて命名された名前をとても気に入っています。33歳です。コンサルティング会社に勤務していました。私も退職しましたが、高彩さんのように退路を断って入学したわけではなく、MBA取得後は家業の手伝いをする予定です。よろしくお願いします」
「一番後ろに座っていた宮国賢治です。宮沢賢治と一字違いですが、文系の才能はまったくありません。典型的な理系人間で、製薬会社の研究部で働いています。休職と奨学金の許可が出たので入学することができました。30歳です。よろしくお願いします」
今まで講義と宿題でいっぱいいっぱいだったわたしはほとんど誰とも話すことがなかったが、一気に友人が3人もできたようで、これからのキャンパスライフに灯りがともったような気がした。それでも、優秀なライバルであることも事実なので、彼らに負けないように気合を入れることを忘れなかった。



