========== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
 白鳥純一郎・・・チエの許嫁。京都府警勤務の巡査。実は、大前田警視正の息子。母の旧姓を名乗っている。
 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
 茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。
 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
 島代子・・・芸者ネットワーク代表。
 大前田弘警視正・・・京都府警警視正。大きな事件では本部長を勤める。白鳥の父。

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 ※「暴れん坊小町」は2023年の時間軸設定ですが、題材の「事件」は2025年のデータを採用しています。また、詳細を書くと犯罪に繋がるので、「架空の寺」にしています。

 午前9時。東山署。会議室。
 芸者ネットワーク用のIP電話が鳴った。
 チエが受話器を取ると、代子が憤慨した口調で言った。
 「永久山永劫寺が侵入されるらしいの。昨日、外国人が『定休日でも、楽に入れるから日本の寺は平和』って言っているのを聞いた人がいるの。既に何カ所か侵入して写真や映像撮ったらしいの。」
 電話を切ると、署長である神代警視正が言った。
 「いよいよ、自動翻訳機の出番やな、チエ。」
 チエは、自分1人が逮捕可能な通訳では、追いつかないからと府警の大前田本部長を通じて、府知事と市長に『警察官の自動翻訳機携行』を提言していた。
 東京の警察庁の判断を待っていられないので、「テストケース」という名目で、大きな署に2台ずつ配備された。東山署だけは1台で、茂原が携行している。
 何故、1台か?「生きた通訳」がいるからだ。
 正午。永久山永劫寺。
 寺の門や駐車場は閉まっているが、横手の塀からはみ出た木に登れば、簡単に入れそうだ。
 "What are you doing?"
 木に登ろうとしている外国人の1人が、英語で何か言い訳をした。
 チエは、茂原に顎で合図した。
 翻訳された、その言葉は、「英語は、得意じゃありません。」だった。
 そして、フランス語で何か言った。
 「ばらさん、フランス語。」と、チエは指示した。
 翻訳された、その言葉は、「木に登るだけで犯罪か?」だった。
 「はい。犯罪です。木の持ち主は、お寺。住居侵入は犯罪です。」チエはそう言ってから、"Trespassing is a crime."と言い直した。
 「日本語も知ってるよね。前もって、今日が休山日ってこと知ってたよね。『出来心』じゃないよね。後で、ゆっくり話を聞かせて貰おうか。」
 チエは、もの凄い形相で睨んだ。
 午後5時。東山署。取調室の外。自動販売機横。
 白鳥と茂原と小町が、休憩コーナーで寛いでいる。
 外まで聞こえていた断末魔が途絶えた。
 「行ってきます。」と、茂原は白鳥と小町に会釈して取調室に入って行った。
 小町が、自動販売機で缶コーヒーを出した。
 オムツを持って入った茂原と入れ替わりに、チエが出てきた。
 缶コーヒーを受け取ったチエに、「今日はエライ手間取ったんやナア。」と小町が言った。
 「3人とも人種が違うからでしょ。アメリカ人、フランス人、ドイツ人。パスポートでは、そうなってる。」と、白鳥が言った。
 「流石、ダーリン。別々の言語で言い返してやった。まあ、自動翻訳機も使ったりしたけど。」
 チエの言葉に、「チエちゃんが、提言してくれたお陰だよ。父に報告したら、市長と知事に連絡するって言ってた。」と、白鳥が言った。
 「観光客対策、駐車場だけの問題じゃないのよね。」
 そう言って、チエは缶コーヒーを飲み干した。
 午後7時。神代家。
 「大前田が、エライ褒めてたで。京都が一番先に対策の第一歩を踏み出した、って。」
 チエは、珍しくソファーでうたた寝をしていた。
 「今日は、バターカツカレーやな。」と言って、神代はダイニングキッチンに向かった。
 チエは、薄目を開け、ニッと笑った。
 ―完―