========== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
 白鳥純一郎・・・チエの許嫁。京都府警勤務の巡査。実は、大前田警視正の息子。母の旧姓を名乗っている。
 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
 茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。
 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
 島代子・・・芸者ネットワーク代表。
 船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。
 楠田幸子・・・チエの相棒の巡査。
 中町圭祐・・・下鴨署からの転勤。巡査部長。
 遊佐圭祐・・・チエの幼なじみ。大学同級生。CATV『きょうとのテレビ』の広報課課長。
 大前田弘警視正・・・京都府警警視正。大きな事件では本部長を勤める。白鳥の父。

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 ※「都をどり」とは
 現在、京都には5つの花街があり、その中で最も大きい花街が、祇園甲部になります。
 その祇園甲部の芸妓・舞妓が、毎年4月1日~30日の1ヵ月間開催している舞踊公演を「都をどり(みやこをどり)」と言います。
 「都をどり」は、1872年(明治5年)に初演を行い、昨年の2024年の公演が通算150回目となり、京都の春の風物詩となっております。
 お座敷などでしか観ることができない芸妓・舞妓の舞を、気軽に観ていただくことができるのが、特徴です。
 「都をどりは、ヨーイヤサー」というかけ声とともに、左右の花道から鮮やかな藍色の揃いの衣裳をまとった芸妓・舞妓が、桜・柳の団扇を持って登場します。
 舞はもちろんのこと、衣裳は京友禅(着物)と西陣織(帯)となっていますので、日本の伝統の美も堪能いただけます。
 舞台は全8景(8つの場面)で構成され、初演から一貫して春夏秋冬を長唄・浄瑠璃などで紹介しながら舞で表現しています。
 フィナーレは、桜が咲き誇る舞台で総勢約50名の芸妓・舞妓が艶やかに舞い踊る瞬間は圧巻です。京舞の技を極めた芸妓・舞妓の日々の鍛練が満開に咲き誇るさまは感動いただけると思います。
 ※「暴れん坊小町」は2023年の時間軸設定ですが、都をどりスケジュールは2025年のデータを採用しています。

 午前9時。東山署。会議室。
 芸者ネットワーク用のIP電話が鳴った。
 チエが受話器を取ると、代子が緊張した声で言った。
 「清水寺でね。昨日、外国人が『都をどりを潰してやる。芸者はレ〇プされて商売しているんだから』なんて『片言の日本語』で言ってたらしいの。おかあさんが聞いて、『祇園甲部歌舞会』の皆さんが困っているって言うの。どうしよう?」
 「公演スケジュールは?」
 「1回目が12時半から13時半、2回目が14時半から15時半、3回目が16時半から17時半。」
 「今日も、3回公演?」「いいえ、今日は4月14日やから休演日。」
 「・・・当日券は?」「あるにはあるけど、普通は電話予約かオンラインチケットで買うわ。」
 「よし。いちかばちかやるか。」
 電話を切ると、副署長が言った。
 「お嬢。何か企んでるな。私らも『共犯』になっていいかな?」
 「オッチャン、ノリノリやな。」チエはにやりと笑った。
 ここの署の署員は、チエが幼い頃から顔なじみだ。副署長と言えど、チエは「オッチャン」である。
 午前10時。祇園甲部歌舞練場。
 外国人5人が、当日券を買った。売り子は「少なくとも40分前までには、席に着いておくれやす。」と注意をした。
 彼らが去ると、売り子はさっさと店仕舞いをし、どこかに電話をした。
 売り子は楠田だった。
 午後12時半。
 舞台の緞帳が上がると、舞妓・芸妓が艶やかな衣装で揃っていた。
 男達は、ズボンを脱いで、舞台に上がろうとした。
 が、舞妓・芸妓は逃げなかった。
 着物の袖から拳銃を出して、男達の股間に照準を合わせた。
 "Hold up!!"
 男達の後ろから、チエが言った。
 "Attempted rape." (強姦未遂罪ね。)
 午後3時。東山署。取り調べ室外の自販機前。
 外国人の男達の断末魔の声が響く。
 「まさか、ウチらが女性警察官の真似するやなんて。ばれたら、どうするの、チエちゃん、って言ったら、『かめへん。余興や。『都をどり』宣伝の為のパフォーマンスや。女性警察官に舞妓さんや芸者さんの格好させるのも考えたけどな。』
 「その為に、僕を担ぎ出したんやろ?ちゃんと撮影したで。当たり障りのないように。踊ってる部分は、また改めて撮影出来るように、了解は取ってある。」と、遊佐が言った。
 「将来の嫁は、有能過ぎるな。チエちゃん、男の子産んでなって言ったら、手帳にメモしてた。」
 大前田が、白鳥と一緒にやってきて、笑った。
 「チケットじゃあるまいし、無理だよって言ったら、願ったら叶うかも知れん、って言ってた。」白鳥も調子を合わせて言った。
 断末魔の声が止んだ。
 そこへ、茂原と中町が大人用オムツの袋を幾つも持って、取り調べ室に消えた。
 「ああ、父さん。これが原因です。アメリカの、ゴシップ誌。」と、白鳥が大前田に雑誌を渡した。
 「戦後80年。まだ、偏見持ってるアメリカ人がいるんやな。」と、大前田が溜息をついた。
 「そういうことです、お義父さん。」と言いながら、茂原達と入れ替わりに出てきたチエは言った。
 チエは、小雪が渡した缶コーヒーを飲み干し、プハーっと息を吐いた。
 皆、必死に笑いを堪えた。
 ―完―