========== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
 白鳥純一郎・・・チエの許嫁。京都府警勤務の巡査。実は、大前田警視正の息子。母の旧姓を名乗っている。
 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
 茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。

 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。

 船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。
 楠田幸子・・・チエの相棒の巡査。
 中町圭祐・・・下鴨署からの転勤。巡査部長。

 明日菜葉子・・・明日葉病院院長。チエは、明日葉病院の前身の明日葉診療所で生まれた。
 大前田弘警視正・・・京都府警警視正。大きな事件では本部長を勤める。白鳥の父。
 灘康夫・・・京都府知事。元作家。「康夫ちゃん」のニックネームがある。
 古屋冴子・・・いにしえ山科旅館の女将。京大OB。
 ジョンシー・マッケンジー・・・日本駐在のアメリカ人ジャーナリスト

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 ※京都府広報監まゆまろ。
 約2000年前に、繭が京都に伝来し、ある日ひとつの繭が大きな光を放ち、命を吹き込まれた・・・そうです。

 午前10時。京大正門前。
 チエは、私服の小雪と張り込んでいた。
 裏門の方は、茂原、中町、楠田が張り込んでいた。
 昨夜、芸者ネットワークから、ある旅館の宿泊客が「京大を汚してやる」と電話で会話しているのを聞いた、という情報があった為である。
 チエは、毎年、卒業式で「仮装」する卒業生がいるのを苦々しく思っている。
 京大卒と言えば、『日本第二の大学』として、尊敬される。
 だが、変な仮装も有名になってしまい、話のついでに出てしまう。
 そんなことで「切れる」訳にもいかない。
 それで、苦々しく思っていた。
 情報から、襲撃されるターゲットは分かっていた。『まゆまろ』の仮装だからである。
 まゆまろは、正門から、堂々と出てきた。
 そこへ、バイクで登場した沖田総司の仮装した者が、日本刀で切りつけた。
 小雪が茂原に連絡している間、チエは、沖田総司を袈裟固めで落した。
 付近にいた学生が119番をした。
 まゆまろの学生は、脇腹を押えて蹲ったが、どくどくと血を流していた。
 裏門から、茂原達が駆けつけた。
 「日本刀は本物や。まゆまろの学生は、本物の血を流している。」
 中町が、沖田総司に手錠をかけた時、救急車が到着した。
 「ばらさん。後、頼むわ。」「了解。」
 午後2時。手術室。
 院長の明日菜が出てきた。
 「傷は深いわ。思ったより着ぐるみって、柔らかいのね。切り口は偶然だけど、日本刀は偶然とは言えないわ。1日様子を見るしかない。」
 悲しい顔で去った院長と入れ替わりに、茂原がやってきた。
 「お嬢。近くにいた同級生から証言が取れました。ガイシャは、富山哲。今年の卒業生です。同級生の桜井省吾が提案した、『寸劇』の予定で、着ぐるみの中には、『血糊』が仕込まれていました。刺した沖田総司役の大貫茂市は、日本刀を何者かにすり替えられた、と主張しています。芸者ネットワークに情報提供した旅館の話ですが、殺害計画らしきことを話したのは、アメリカ人留学生ではないか?ということでした。英語と日本語で話していたそうです。」
 「ばらさん。桜井と富山、大貫の写真を持って、見かけた者はいないか調査して。私は、芸者ネットワークに、当該旅館を紹介して貰って、アメリカ人留学生のことを聞いて見る。それと、遊佐君が偶然撮影した映像の解析を急がせて。」
 CATVの社員遊佐は、チエの幼なじみで、京大卒業式の取材に来ていた。
 「了解しました。」
 午後4時。山科区。いにしえ山科旅館。
 番頭が、1人の男を連れて来た。いや、ツレも来たから3人がやって来た。
 「こんな別嬪の刑事さんやったら、何でも言うこと聞きまっせ。」と、真ん中の男が言い、デジカメを再生した。
 「私ら、一週間の旅行で来てましてね。当日の外人さんやったら、この人だけですわ。」
 「これ、お借り出来ますか?ダビングしたら返しますよって。」
 「どうぞどうぞ。」と、3人組は揃って言った。
 3人組のいる前で、白鳥は短時間でダビング終了した。
 そして、白鳥が「はい。お返しします。」と、差し出すと、「え?もう?警察に持って帰るのと違うんですか?」と、右端の男が言った。
 「『文明の利器』っちゅう奴ですね?」と、大女将がにっこり笑って言った。
 「チエちゃん。ちゃんと逮捕してあげて。あんたの後輩の為に。」
 「オバサンの後輩の為でもありますね。」
 3人組が首を傾げるので、「大女将も京大卒です。」と、白鳥が言った。
 チエは、どこかへ電話をした。
 相手は、京都文化芸術会館を指名した。
 午後5時。京都文化芸術会館。
 「CIAに調べさせればエエんやね。よう覚えてたね。」府知事は、にっこり笑った。
 翌朝。朝早く。致傷事件は、致死事件に変わった。
 テレビでは、朝のトップニュースで取り上げられた。
 午前11時。東山署。会議室。
 神代警視正、つまり、神代署長が大前田警視正、つまり、京都府警本部長と電話をしている。
 「昨日、明らかになった、被疑者の・・・何て言うた?」
 「ジェイ・ホプキンスです。」と、副署長がフォローした。
 「被疑者のジェイ・ホプキンスは、CIAが追い掛けている、シリアルキラーらしい。留学生のスタック・モローという留学生に成り済ましていたが、30過ぎのおっさんや。で、そのおっさんの目撃者情報が芸者ネットワークに入ったので、チエが向かった。」
 正午。新京極ゴージャススペースホテル。食堂。
 女性警察官が、アメリカ人の客に手錠をかけた。
 "What are you doing?" アメリカ人は尋ねた。
 “The CIA is waiting.” チエは返答した。

 男は逃げ出した、いや、逃げ出そうとした。
 チエは男を引き寄せ、アッパーカットを見舞った。
 男が吹っ飛んだ先で、CIAエージェントが、もう一方の手錠の輪を自らの手に嵌めた。
 「では、警視。後は我々が・・・。」
 「よろしく。今日は『友引』じゃないけど、” send someone to hell?“(地獄行き) ジョンシー。」
 「いや、”He is going to penitentiary.”(監獄行き) 」
 『旧知』の2人は、微笑みを交わした。
 ジョンシーは、日本に不慣れなジャーナリストではなく、CIA捜査官だった。
 以前、芸者ネットワークが関わった事件で2人は知り合っていた。
 「さ、クレープでも食いに行こうか、楠田。」
 「はい、先輩。」
 ホテルの客は不思議そうに眺めていた。
 ―完―