========== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
 船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。
 白鳥純一郎・・・チエの許嫁。京都府警勤務の巡査。実は、大前田警視正の息子。母の旧姓を名乗っている。
 楠田幸子・・・チエの相棒の巡査。
 中町圭祐・・・下鴨署からの転勤。巡査部長。
 嵐山幸恵・・・小雪の母。

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 午前9時。中京区。ある喫茶店。
 「町ヤン、出世したいか?」「はあ、まあ。出来れば。」
 「いつでも私を踏み台にしてエエで。」
 「無茶言わないで下さいよ。」
 「ばらさんに何て言われたん?」「ちょっと間、辛抱しいや。」
 水を持って来たウェイトレスは、何と小雪だった。
 「えらい話が弾んでますなあ。」
 「嫌味に聞こえますけど・・・。」と。中町は小雪に反論した。
 新しい客が、入り口に立った。
 チエはオーダーもとらず、水とおしぼりを取りに厨房に戻った。
 その新しい客が席に着くと、小町が水を運んで来た。
 チエは、その新しい客にコップの水をかけ、向かって言った。
 「キャー!!痴漢よお!!」
 付近の客が総立ちした。
 中町が、新しい客のバッグを開けた。
 「これは、白いけど、おしろいじゃないよね。」
 新しい客の顔は引きつっていた。
 チエは、芸者ネットワークの情報で、張り込みをしていたのである。
 壁に耳あり障子に目あり。芸者ネットワークへの通報は、警察が嫌いな人間でも使える通報先だ。
 午前10時。東山署。取り調べ室。
 署長自ら、取り調べをしている。
 「あんた。もうじき定年やろ。勿体ないな。付き合ってるツレが悪い。裁判になったら、証言したるよ。まさか小学校同級生が半グレに入ってるとはなあ。特殊詐欺、何軒かましたんや。」
 「三軒です。高齢者欺して、心は痛まなかったんか。」「痛みました。離婚した後で、金に困ってました。演劇部の部活やってたんやから、簡単やろって。警察官の役で。」
 「で。半グレは、どこの会社や。」「え?分かったから逮捕されたんやなかったんですか?」
 「警察はナア、色んな情報網持ってるんや。あんたを尾行する方法より、あんたを少しでも助ける方法をとりたかったんや。」
 「武ムササビ商会です。今日も午後3時過ぎに電話しまくると思います。」
 「銀行員に気づかせん為か。一緒やけどな。」
 午後3時過ぎ。西京区の雑居ビル。
 数人の男達が出てくる。サラリーマン風の若者が1人混じっている。受け子だ。
 連中の乗ったクルマが、進行方向を迂回した。交通警官が、「事故があったから迂回して欲しい。」と言ったからだ。
 男達はヒヤヒヤした。
 ところが、迂回した先は袋小路になっていて、小さな公園があった。横には市営住宅らしき建物があった。
 男達は、慌てて電話をし、時間の変更を言おうとしたが、横から女性警察官がそのスマホを奪い、脇から出てきた警察官に目で指示をした。
 「もしもし、今どこにおられます?」
 午後4時半。東山署。取り調べ室。
 中から悲鳴が聞こえる。
 「今日は大漁やで。」と、副署長が言った。
 所謂ガサ入れをし、半グレの社員達は『檻の中』だった。
 中の声が静まり、チエが出てきた。
 中町は、白鳥に渡されたオムツを持って、取り調べ室の中へ消えた。
 「大分、慣れて来たみたいやな。ほな。」
 小雪が顔を出し、『芸者の制服』を翻して白鳥に挨拶をし、署の外に出た。
 午後7時。神代家。
 「今時、オレオレ詐欺にかかる人、まだおるんや。」と、チエが言うと、「『本物の俳優』使うケースもあるみたいやな。ヨソの管内であったらしい。」と、神代はメザシを囓って言った。
 「町ヤン、慣れたみたいやな。」「茂原よりええか。」「いや、ばらさん程根性座ってへんやろ。」
 相変わらず、パンイチでチエは言った。
 チエは、父親への『サービス』の積もりらしい。
 神代は、いつか白鳥にバトンタッチするのだから、と諦めていた。
 ―完―