========== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
 茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。
 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。

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 午後1時。京都大学。キャンパス内の食堂。
 「今からお昼ですか?」チエは小鳥遊教授に声をかけた。
 「コレハコレハ神代警視・・・かな?」と小鳥遊は冗談を言った。
 「戸部警視で通しています。父と同じ職場ですし。」
 「よく同じ職場になれたね。普通は、身内は同じ職場に配属されないんじゃないの?」
 「裏金積んで・・・嘘―。」
 「ははは。学生時代と変わらないね。『斎王様』に選ばれた時も驚いたが。あれも、裏から手を回した?」
 「はい。」
 「君には勝てないね。」「相変わらずハムサンドですか?」
 「君が勧めてくれたんだよね。今でも美味しいよ。また、『形而上学』談義をするかね?」
 「先生。悪い奴って、どうして無くならないの?」
 「いきなり、難問だね。警察官としての悩み?乙女としての悩み?」
 「両方。」「両方かあ。卑怯な答だなあ・・・。後者の方は、他の人に相談して。前者の方は、人間が『こころ』を持った生物だから、というのが、答の一つだね。」
 「答の一つ?」
 「そうだ。君は初対面の時、『ゲージジョーガクって何ですか?』って聞いて、僕は笑い転げたよね。あの時も答えたことだが、『形而上学』とは、可能性を考える哲学だ。アリストテレスが『あらゆる存在者を存在者タラシメテイル根拠』を探求して以来ある学問だ。答は、常に一つじゃないことを前提に考える。算数のように固定された答なら、探求する価値はない。神代君。君が職業にした警察官も、可能性を探究する仕事じゃないのかね。犯人が、何故その犯行をしたのか?防ぐ手立てが無かったのか?動機は正しいのか?犯行結果は正しいのか?ジャッジメントするのは、最終的には裁判所の仕事だ。起訴立件したら、君らの仕事は終りだ。」
 「だから、殺したんですか?奥さんを。犯罪を食い止めようとしなかったんですか?殺すことでしか食い止められなかったんですか?」
 チエは涙声になっていた。
 「やはりな。お縄に・・・は古いか。逮捕連行されるなら、君ほど私にとって相応しい相手はいない。」
 小鳥遊は、残ったハムサンドを一気に食べ、水を飲み干した。
 チエは心配していたが、杞憂だった。小鳥遊は、自殺を図らなかった。
 罪を償う気持ちは、はっきり表れていた。
 チエは、思い切り小鳥遊に平手打ちを・・・いや、グーパンチをした。
 唖然としている周囲の雰囲気の中、チエはスマホを取り出した。
 「ちゃん。終ったで。」
 午後3時。東山署。取調室の外。
 「お嬢、ええんか?恩師やろ?」と茂原は声をかけた。
 「うん。ちゃんに、署長に任せた。」
 「そうか。今日は、オムツ要らんな。」
 茂原は、チエを一瞥して、取り調べ室に入った。
 小雪がやって来た。小雪は、チエの涙を拭き、メイクをしてやった。
 「チエちゃん、拘置所行く時は、この顔で行きや。」と、小雪は手鏡をチエに向けた。
 「うん。」
 取り調べは、案外長かった。
 出てきた小鳥遊は、チエに深く礼をして、「神代君。ありがとう。」短くそう言って、連行された。
 ―完―