========== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
 茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。チエを「お嬢」と呼んだり、「小町」と呼んだりしている。
 白鳥純一郎・・・チエの許嫁。京都府警勤務の巡査。実は、大前田警視正の息子。母の旧姓を名乗っている。

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 午前9時。中京区木屋町通四条上る鍋屋町。
 10年前。路上で、会社役員の男性(当時29歳)が4人組の若い男に絡まれ、殴る蹴るの暴行を受け死亡した。
 そして、同じ場所で、4人の男が路上に転がっていた。
 いずれも、股間に入れ墨があった。
 午前10時。東山区。東山署。
 「ちゃん。なんで、ウチが行かなくてはならんのでしょうか?」
 「チエ。外では『ちゃん』は止めてな。」
 側にいた、船越が、笑いを堪えた。
 そして、「まあ、股間繋がりかな、思し召しは。」と、船越は言った。
 「股間繋がり、ってウチがレイプ犯みたいやん。ウチ、痴女とチャウで。」
 「痴女とチャウで、美女やで、とか。」茂原が笑いながら署長室に入って来て、言った。
 「署長。大前田さんから、正式な協力要請が来ています。」と、茂原は署長に書類を差し出した。
 「反社と半グレか。10年前の半グレの会社の社長の『暴行殺人事件』の被疑者が、今朝の路上殺人の被害者や。チエ。黙って放っておくか?」
 「イケズ。言って来まーす。」と言って、チエは茂原が持って来た書類を神代からひったくって出て行った。
 「エライ素直ですな。」と、船越が言ったが、「白鳥君の推薦ではな。」と、神代は笑った。
 午前11時。木屋町署。
 今回の本部長は、大前田警視正だ。
 チエは、白鳥の横に、既に座っている捜査員の刑事を強引に退かせて座った。
 白鳥は、黙って捜査資料をチエに渡した。
 真っ先に被疑者として上がって来たのが、10年前に殺された、『一般社団法人平和の会』社長、天宮圭祐の弟、天宮祐介だ。
 当時は15歳。未成年だったが、今は25歳、立派な大人だ。
 会社は解散したが、祐介は地道に捜査、復讐の機会を狙っていた。
 そう目されている。ただ、祐介の職業は、警察官だった。
 祐介は、調査の為に警察官を選んだのだ。
 警察官になった時から、公安がマークしていた。
 殺された4人は、別件で逮捕拘留の上、起訴、刑が確定して服役していた。
 そして、出所したのが、先月だった。
 4人組が所属していた『縄名和会』は、『迎え』を出した。
 出所した時、祐介は、じっと見守っていた。
 離れた所で、公安の刑事が祐介を見守っていた。
 10年前の事件当時。天宮は縄名和会の傘下に入ることを拒んだ。
 その報復のリンチ殺人だった、と言う情報がまことしやかに流れた。
 午後7時。中京区梅之木町。先斗町公園。
 縄名和会の隠れ事務所に、会長以下幹部が入ろうとした時、会長に声をかける者がいた。
 「会長さん、名和仁朗さん。」制服警察官の祐介だった。
 気配を察した子分達が立ちはだかった。
 「そこまでにしとき。」と、チエが言った。
 祐介の横に並んだ白鳥が言った。
 「この中に、4人を殺した者がいるのかな?」
 祐介は、驚いて白鳥を見た。
 「取り敢えず、全員逮捕連行する。公務執行妨害や、後、強姦未遂な。」
 チエが言うと、茂原以下警官隊が逮捕連行していった。そして、事務所は所謂『ガサ入れ』をしに警察官が向かった。
 「祐介。確認したかったんやろ?兄貴をやった奴を。それを指示した奴を。」
 「暴れん坊小町、か。腕力だけでなく、敏腕なことを知りました。参りました。」と、祐介はチエに敬礼をした。
 チエは、敬礼を返し、「いつか一緒に捜査しよな。」と、言った。
 ―完―