========== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
 茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。チエを「お嬢」と呼んだり、「小町」と呼んだりしている。
 小雪(嵐山小雪)・・・チエの小学校同級生。舞妓を経て、芸者をしている。
 遊佐圭祐・・・チエの幼なじみ。大学同級生。CATV『きょうとのテレビ』の広報課課長。

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 午後1時。CATV『きょうとのテレビ』の広報課。
 「こないだ、ごめんな。圭祐らが止めてくれへんかったら、順番に殴るとこやったわ。」
 「ははは。チエちゃん、昔から喧嘩強かったもんなあ。よう庇うってもろた。」
 「先生、成仏してくれたかなあ。」「ああ。大丈夫。このポスター。管内だけやなくて、表の掲示板パネルにも置いとく?」
 「うん。頼むわ。」
 その時、悲鳴が聞こえた。
 2人がスタジオに駆けつけると、収録中の番組の観客とスタッフが隅に寄っている。
 ステージの番組DJの白鷺敏夫が喉にナイフを突き立てられている。
 「止めなさい!」チエは、ハンドバッグを後ろ手にして近寄った。
 「止める訳ないやろ?こいつのお陰でウチは、200年続いた老舗は倒産するんや!」
 チエはピンと来た。先日、医薬品メーカーが販売していたサプリの麹菌に異物が入っていて、嘔吐下痢を起こした、として厚労省が調査に入った、とニュースで流れていた。
 『京都4枚漬け』に麹菌が使われているから、同類の菌であるかのような風評が流れた。無論、医薬品メーカーも『京都4枚漬け』も『中傷被害者』だ。
 人は、自分で確認出来ないことは『多数決』で事実と認識したがる。
 だから、デマ、つまり『出任せ情報』は絶えず産まれ、拡散する。
 『かも知れない』が『らしい』に替わり、『に違い無い』に変わって行く。
 牛が一頭病気で死んでも、いつの間にか『猟奇連続殺人事件』になって行くのだ。
 マスコミでもネットでも、口コミでも広がって行く。
 この男が『デマ元』か。
 チエは叫んだ。「あ、停電や!!」
 入り口近くの遊佐は、丁度天井灯スイッチの側にいた。
 咄嗟の判断で、遊佐はスイッチをオフにした。
 数秒後。遊佐がスイッチをまた入れると、『京都4枚漬け』社長は、チエの尻の下にいた。近くの白鷺の顔には、『赤い紅葉』がプリントされていた。
 駆けつけた警備員と部下に、遊佐は警察を呼ぶよう依頼した。
 そして、「今日の番組は中止とします。観覧に来たお客様には、お帰りになる前に、ノートにお名前と住所を書いて頂ければ、後日クーポン券をお送りします。」と言い、部下に目で合図をした。
 部下は、すぐに準備をしに、走った。
 30分後。やって来た茂原は、白藤と社長の股間を確認し、「良かった」と思わず溜息と共に言った。
 午後2時半。東山署。
 取り調べ室から、署長の神代と副署長の船越が出てきた。
 「お嬢。よう我慢したな。」と船越が言うと、「暇無かったから。」と、横を向きながらチエは応えた。
 「白藤は、デマを流したことに対して各メディアを通じて発表するそうや。遊佐君の判断で、白藤はクビ。『京都4枚漬け』社長の奥の院すぐるは、起訴はされるが書類送検。『きょうとのテレビ』には示談金を払うことになった。良かったな、チエ。あ。それから、4枚漬けは夕方から半額セールするそうや。」
 「みんな、半額や!!」入り口の執務コーナーで聞いた女性警察官達は、一斉に立ち上がって、走りだした。
 「みんな、現金やなあ。」と言いながら、船越はスマホを取り出して自宅に電話した。
 「もしもし。お母さん?」
 チエが署の外に出ると、パトカーもミニパトもバイクも1台も無かった。
 通りかかった小雪がチエに尋ねた。「大事件?チエちゃん。」
 チエが耳打ちすると、小雪は裾をたくし上げて、走り出した。
 「確かに、大事件や。」と、チエは呟いた。
 ―完―