========== この物語はあくまでもフィクションです =========
 ============== 主な登場人物 ================
 戸部(神代)チエ・・・京都府警警視。東山署勤務だが、京都市各所に出没する。戸部は亡き母の旧姓、詰まり、通称。
 神代宗佑警視正・・・京都府警東山署署長。チエの父。
 船越栄二・・・東山署副署長。チエを「お嬢」と呼んでいる。
 茂原太助・・・東山署生活安全課警部補。チエを「お嬢」と呼んだり、「小町」と呼んだりしている。
 楠田幸子巡査・・・チエの相棒の巡査。
 金城神父・・・チエが日曜学校に通っていた頃の神父。

 =====================================

 ※2019年7月18日昼前、京都アニメーション第1スタジオに男X(当時41歳)が侵入、バケツからガソリンを建物1階にまいてライターで着火したことにより、爆燃現象が発生した。結果としてスタジオは全焼、社員36人が死亡、33人が重軽傷と、日本国内の事件では過去に例を見ない大惨事となった。「京都アニメーション」の第1スタジオが放火され、社員36人が亡くなり、32人が重軽傷を負った。現場となったスタジオ跡地では、亡くなった社員の遺族や京都アニメーションの八田英明社長など会社関係者およそ140人が出席して追悼式が開かれた。


 2023年7月18日。午後1時。京都市伏見区。京都アニメステーションスタジオ跡。
 チエは、追悼式に参加したかったが、父の警視正から、警備を命じられた。
 京都府警宛てに、脅迫文らしき手紙が届いたからだ。
 「5年前の悲劇は繰り返す。」
 文面には、そうあった。チエは、小雪の影響で、アニメ会社のアニメが好きだった。
 犯人は、「創作を送ったが、正当な評価は受けなかった。それどころか、私の創作の盗作を作品にした。」と言っていた。
 当時、会社では一般公募は行っておらず、犯人に対して会社は「公募は行っておりません。従って、内容如何にかかわらず評価は出来ません。悪しからずご了承下さい。」と返答した。
 他の会社の公募に応募してはどうか、という1文も添えたらしい。
 放火をし、自分も大やけどを負った犯人の自宅からは、犯人が盗作と指摘した、同社の作品の電子版と、犯人が創作したと主張する文章がパソコンに残されていた。
 捜査員は、首を捻った。両者は、アイディアの一部は似通った部分はあっても、盗作と言える程の共通した内容では無かった。
 犯人の「妄想」に違いない、と司法の判断があった。
 あれから5年。多くの犠牲者を出した事件の模倣犯か?
 模倣犯には2種類ある。世間の注目を集めたいが為の「愉快犯」と、犯人を崇拝して、似た事件を起こす「信者犯」だ。
 どちらにせよ、事件は起こしてはならない。だが、「初動の遅れ」と非難されても、事件が起ってからしか警察は動けない。
 チエは、そのため、いつも苛立っていた。
 警備をしている内、ミニパトに連絡が入った。
 「先輩。山科の会社で、立てこもり事件発生。被疑者は、会社のビルの玄関に灯油をばら撒いて、何か喚いてるそうです。」
 午後2時。山科。京都教育ビル。
 「京都シナリオ教室という会社の自社ビルや。外階段はない。内階段はらせん階段や。犯人は、自分は盗作されたが、相手にしない会社に実行手段に出た、と言っている。」
 先に到着している、茂原刑事が言った。
 30分後。交渉に当たっている、他の刑事を尻目に、電動キックボードに乗ったチエは、消火器を背負って、強行突入した。
 茂原刑事は、目を覆って、その場にしゃがみ込んだ。
 到着するや否や、チエは、消火器で産卵する灯油の上に撒き、被疑者の体全体に吹きかけた。
 平手打ちをしようとしたが、その右手に左手を添えて、万歳の格好をした。
 「お手上げや。頭のおかしい相手は苦手や。ウチも大概頭がおかしいけどな。」
 後を、刑事達に任せて、外に出たチエは、群衆の中の神父に体面した。
 「はたかへんかったで。エエ子やろう、先生。」
 「ああ、エエ子や。」と、金城神父はチエの頭を撫でた。
 夕食後。
 神代は、チエの後ろに回って、「エエ子や。神父さんに聞いたで。よう我慢したな。」と、言ってチエの頭を撫でた。
 チエは、赤面しながら、衣類を投げ捨て、父の手を引き、風呂場に向かった。
 親子は、まだ、チエが幼児の時のままだった。
 風呂場では、チエの歓声が響いた。
 ―完―