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「みんなどうやって好きな人と仲良くなるんだろうね」
ガーネットがカゼをひいて、お鼻のまわりが鼻水でてろり、としていたので、朔弥が獣医に連れていくことになった。春先、寒かったり暑かったりで、人間も動物もカゼをひきがちだ。家族ではまず、おじいちゃんがひいた。次にお父さんがひいた。今はお母さんがひき、ガーネットもひいた。無傷でぴんぴんしているのはおばあちゃんと朔弥である。
今まではお父さんやお母さんと一緒にガーネットを連れてきていた獣医。ひとりでガーネットを診せにくるなんて、また大人の階段をのぼったようでちょっと緊張する。
どちらかといえば内気なほうである朔弥の高校生活だが、スローペースながらにまずまず順調だ。仲よく話をしたり、趣味が読書、という子とはおすすめの本を貸し借りし合ったりして。
クラスメイトの子が、これすごくおもしろいんだよ、と朔弥に貸してくれたのは、昭和の恋愛小説だった。初めてのジャンルだった。こんなツウっぽいものを読んでいるなんて。かなり大人っぽい! 高校生になってから、クラスメイトの個性もぐっと強まっている気がする。いろんな子がいるのだ。明るい子も、おとなしい子も。愛嬌のある子も、皮肉屋な子も。子どもと大人の中間を、みんなそれぞれ楽しんでいる。
獣医に着くと、受付で診察券を出す。ガーネットの、決め顔の写真がついた診察券。
「ガーネットちゃん、今日は?」
「カゼです。鼻水出てます」
受付の人は、朔弥の言ったことを小さなメモに書き込み、診察券と一緒にクリアファイルに入れて、「おかけになってお待ちください」と言った。
優美な毛並みのゴールデンレトリーバーが、飼い主の足元で置物みたいに大人しくしている。それからすぐに、呼び出しを受けて診察室に入っていったが、そのふさふさの尻尾も、ゆらゆらとしたゆとりのある歩き方もとても優美だ。窓からの光に輝く、黄金の毛並み。
大きな犬、かわいいな~。朔弥がそんなことを考えていると、キャリーケースの中のガーネットが、ぷちゅん、とくしゃみをするのが聞こえた。朔弥はケースを覗き込み、「だいじょーぶ? 先生に診てもらおうね」とガーネットを励ました。
つやつやの合皮の待合ソファに座り、キャリーケースを膝に乗せる。
ふと、向かいのソファに座っている人の、長い脚が見えた。紺色の靴下。獣医の屋号が金色でプリントされたスリッパ。先輩みたいに、脚が長い。やはり、膝にキャリーケースを乗せている。小型犬か、猫だろう。視線を徐々に、上に持ち上げる。
「…………せ、」
先輩だった。先輩はキャリーケースの隙間に、左手の指を入れて、空いている右手でスマホを見ていた。
朔弥は、かなり驚いてしまった。だって、ここは朔弥の家から徒歩十分弱の、地元の獣医なのだ。朔弥はいつも、徒歩と電車で合計一時間かけて高校に通学している。先輩がどこに住んでいるのかもちろん知らないけれど、ペットを連れて、こんな住宅街ど真ん中の獣医に来ているということは、このへんに住んでいるということじゃないか?
緊張し、かちんこちんになった朔弥は、自分でも気づかないうちに息を止めていた。先輩がふと、スマホから視線を上げて朔弥を見る。心臓が、驚いた時のガーネットくらいの勢いでビヨン、と飛び跳ねたけれど、先輩は朔弥のことを覚えていないかもしれない。というか、覚えていない可能性のほうが高い。何しろ言葉を交わしたのは、初めて出会った図書室と中庭での出来事の時だけなのだ。
平常心、平常心。朔弥はこのチャンスにも、声をかける勇気を持てない自分の意気地のなさにしょんぼりとした。先輩がしているのと同じように、キャリーケースに指を差し入れて、ガーネットを撫でてやることで落ち着こうとする。ガーネットは賢い猫なので、朔弥の様子がおかしい気配を敏感に察知したようだ。指を、ざらり、と舐めてくれた。
「……あの」
先輩が声をかけてきた時、朔夜は心臓のみならず、ソファからお尻がちょっと浮くくらい、びよん、と跳ねてしまった。あまりに驚いたので。
「えっ!? は、はいっ」
「学校、同じじゃない? 山桜高校だろ」
「…………」
朔弥が、コクン、と頷くと、(それが精一杯のリアクションだった。緊張しすぎて……)先輩は、やっぱり、と笑った。低くて落ち着いた声は優しい。笑った時の、目元がちょっとくしゃっ、となるところ、初めて見た。
「図書室にいた子だよね。一年生だろ。あの時、起こしてくれた」
「……はい……」
「助かった。おれ、一年の時から遅刻の常習だから。先生からいい加減にしろって、怒られてるからさ」
先輩、ぼくのこと普通に覚えてるじゃん……。しかも優しい、想像の先輩よりずっと……。
朔弥が嬉しさを噛みしめていると、先輩はキャリーケースをソファに置いて立ち上がり、朔弥の膝の上にあるガーネットのケースを覗き込んだ。
「!」
「猫?」
「は、はい! 猫です」
「かわいい。美人な猫だな。名前は?」
ガーネットが器量よしの美猫であることは朔弥も重々承知しているのだけれど、こうやって先輩に褒められていると羨ましくてヤキモチのような心が生まれてしまう。猫に嫉妬とは、ちょっと恥ずかしい。
「ガ、ガーネット……です」
「宝石の?」
「はい、ぼくも、この子も一月生まれで……誕生石です。お母さんがつけたんですけど」
「へ~、すごい偶然。おれと、おれの猫も一月生まれでさ」
「えっ!?」
先輩は、ソファに置いていたキャリーケースの中にいる猫を朔弥に見せてくれた。ガーネットと同じくらいの、器量よしの美猫だった。ワッ、かわいい~。思わず微笑んだ朔弥を見て、挨拶するように小さく、「みゃぅ」と鳴いてくれる。
「名前は、ざくろ。由来はガーネット」
朔弥はそれを聞いて、そ、そんなの運命じゃない!? と思った。先輩に言いたかった。今日ここで会えたのも、一月生まれなのも、猫を飼っているのも、猫の名前が「ガーネット」と「ざくろ」なのも、全部全部、運命じゃないですか!? って。
でもほんのついさっき、先輩が「すごい偶然」と言ったのを思い出して、ぐっと堪えた。そんなに軽々しく「運命」なんて重たいことを言って、先輩をドン引きさせたくないからだ。
「松川ざくろちゃ~ん。診察室へどうぞ~」
先輩はその呼び出しを受けて、「じゃあ」と言って、キャリーケースを持って診察室へ入っていった。
朔弥はしばらく余韻に浸って、うっとりとしていた。まさかこんなところで憧れの、片想いの先輩に会えるなんて。
「……先輩、松川っていうんだ……下の名前も聞けばよかった。でも名字がわかれば、学校で調べられるかも……クラスもわかってるし……」
先輩は、五分くらいで出てきた。もっといろいろとお喋りしたかったけど、多分次はガーネットの順番だ。先輩は目が合うと、にっ、と笑ってくれた。朔弥は自分の顔が真っ赤になっているのがわかって、すごく恥ずかしい。
「三浦ガーネットちゃ~ん。診察室へどうぞ~」
「は~い」
朔弥が診察室へ入ると、もうおなじみの獣医さんが朔弥を見て、「おっ、ひとりで獣医デビュー? もう高校生だもんねぇ」と笑った。朔弥はもじもじしながら、「はい、えへへ、そうなんです」と言った。
ガーネットは軽いカゼ、ということだった。薬を出してもらう。
「……先生、あの、ぼくの前に診察した、ざくろちゃんという猫ちゃんは……」
「ん?」
「あの、ぼく、高校の先輩なんです。飼い主の人……」
「ああ、そうなの? 圭一郎くん?」
先輩、松川圭一郎っていうんだ。頭脳プレーで先輩のフルネームを手に入れた朔弥は、診察台の上でごろごろしているガーネットを撫で回しながら、ええ、はい、そうなんです、山桜高校の……とにやにや笑いを噛み殺している。ガーネットは挙動不審な朔弥を、大丈夫かコイツ、という瞳で見つめている。
先輩、名前もカッコイイ。ガーネットにキャリーケースの中に戻ってもらい、ありがとうございました、と診察室を出る。
待合室では、松川圭一郎先輩がまだ座っていた。とっくに帰ったかと思っていたのに。朔弥は嬉しいけれど、どうしていいかわからなくて、ぺこん、と小さく会釈をして、お会計の呼び出しを待つためにソファに座った。
「待ってたんだ」
「えっ?」
先輩は笑い、「きみのこと、待ってた。大丈夫だった? ガーネット」と言った。
その時の朔弥の気持ちは、言葉で言い表すのは難しい。まるで待合室の中に、埋め尽くすような花がブワッといきなり満開に咲いたような、安くておいしいことで有名なイタリアンレストラン「サイゼリヤーン」の壁の絵でしか見たことのない天使が朔弥の周りで「プオ~ン!」とラッパを吹き鳴らすみたいな、そんな生まれて初めての気持ちだ。
「は、はい! 大丈夫です、カゼです、薬をもらうので……」
「そっか。よかったね」
「はい」
朔弥は受付で、お母さんから預かったガーネットのための診察代と薬代を支払う。じゃあガーネットちゃん、おだいじに、という受付の人の言葉に、はい、はい、と頷きながらも、振り返ればそこにいる先輩のことが気になって気になって。
「名前、三浦?」
「!」
朔弥がお釣りをもたもたとお財布にしまっていると、背の高い先輩が、肩のあたりから朔弥を覗き込んだ。診察券には、「三浦 ガーネット」と書かれている。
「み、三浦でしゅ」
噛んじゃった、恥ずかしい……。先輩、本当に背が高いな、と朔弥は思う。朔弥はまだ伸び途中で、百七十センチに届かない。でも先輩は、百八十センチ以上はありそうな感じがした。
「ガーネット、診察券の写真すごい盛れてるな。モデルみたい……誰が撮ったの?」
「ぼくです。スマホで」
「えっ! すごいな。ざくろはさ、ぜんぜんうまく写真に写ってくれないんだ。ほら」
そう言って先輩が見せてくれた「松川 ざくろ 診察券」の写真は、家族の誰かであろう手が、後ろからムギュッ、と顔を固定して、むりやり前を向かせていた。ざくろはそれが不満で仕方がないのであろうことが、目つきや表情からありありと伝わってくる。かなり趣深い、いい写真だった。
「うわ~! カワイイ~!」
朔弥が笑うと、先輩も「だろ」と言って、笑う。
先輩、笑うとますますカッコイイ。朔弥が見蕩れていると先輩が、「三浦くん、下の名前は?」と聞いてきた。
「……」
朔弥が赤くなって固まっていると、先輩は思い出したように、「おれも名乗ってなかった」と言った。朔弥はすでに先輩のフルネームを知っているが、それは先輩のあずかり知らぬところで手に入れた情報である。まさかこんなにすぐに、合法に先輩のフルネームを聞けるなんて。いや別に、獣医の先生から聞いたのも違法ってわけじゃないけれど。それでも本人の許可は、取っていなかったし……。
「おれは松川圭一郎です」
「三浦朔弥です」
獣医の外に出ると、季節は梅雨に入る前のみずみずしい輝きにあふれている。季節はいつの間にか、春から初夏へと移ろっている。
「家、近いの?」
「はい。あっちのほうに、五分くらい歩くとすぐです」
「バッティングセンターあるところ?」
「あ、そうです! そこのそばです! 行ったことないけど……」
「おれもない。おれんちはね、反対のほうだ。駅のほうに歩く」
それなら、ここでお別れだ。もっとゆっくり話して、先輩と仲よくなってみたい。朔弥はそう思ったけれど、早く帰ってガーネットのことも休ませてやりたいし、先輩もざくろが心配だろうから。
「あ、あの先輩、今日はありがとうございました。ぼく……あの……」
先輩の連絡先、知りたい……。
そう思ったけれど、言い出せない。名前を知れて、(猫好きだと知れたのも大収穫だ。朔弥も猫好きなので、嬉しい共通点)今まで遠くから見ているだけだったなんて信じられないくらいいろいろおしゃべりできたのに。いきなり欲張っちゃ、だめだ、と思う。
だってだって、先輩に「なんだコイツ」って思われたら、生きていけないよ~。そんなふうにうじうじしがちなので、ぼくはだめなんだろうな……。少し落ち込んでしまう。
そんな朔弥のもだもだをよそに、圭一郎はさっぱりとした明るさで「あ、そうだ。もしよかったら」切り出した。
「連絡先、交換しよう」
「えっ!?」
ポケットからスマホを取り出した先輩は朔弥の反応を見て、「イヤだった?」と聞いた。
イヤなはずがなかった。超、嬉しい。朔弥はもたもたとポケットからスマホを取り出そうとして、あれ、入ってない、スマホ……どこやったっけ……と慌て、「あの、はい、ぜひ、あれ、スマホ、どっかいっちゃった」とがさごそし、最後には先輩がガーネットのキャリーケースを持ってくれたが見つからず、それもそのはずで、朔弥は受付にスマホを置き忘れていた。受付の人が出てきて、「あ、三浦さん、間に合ってよかった。お忘れ物です」と、朔弥にスマホを渡してくれた。
「……」
好きな人の前でおっちょこちょいを晒して、朔弥は恥ずかしかった。でも先輩は気にする様子もなく、「よかったね」と言ってくれた。優しい。
「SNS、何やってる?」
「SNS、あんまり……でも先輩が使ってるやつ、今登録します」
言ってから、いやそれ、重くない? と気づいた。先輩の使ってるSNS、今登録します、はちょっと気持ち悪くない? どうしよう。しかし中学生の時に登録していたSNSは、放置した挙句にスマホを機種変してから再インストールもしていないので、スムーズにログインできるか謎なのだ。せっかくのチャンスなのに。
先輩は、ちょっと笑っていた。
「おれもSNS、あんまりしないから、よかった。ラインは?」
「あ、やってます」
「そっか、じゃあ交換しよう……手、めっちゃ震えてるけど……大丈夫?」
「はい。お気になさらず」
「気になる。寒い?」
緊張のあまりガッタガタ震えていた朔弥のスマホを持つ手を、先輩が下から支えるように包んだ。
「!?」
「あ、ごめん。うちのざくろが注射する時みたいに震えてたから、つい……保定を……」
連絡先を交換し終わると、ときめきのキャパ超えでぽわぽわしている朔弥の肩を叩いて、「たくさん送って。ガーネットの、盛れてる写真。ざくろの写真も送るよ。盛れてないけど」と笑った。
逆方向へ帰っていく先輩に手を振り返し、朔弥はまるで夢でも見ているみたいな気分だ。
キャリーケースの中で、ガーネットが「にゃう」と鳴く。朔弥はキャリーケースを抱え直し、「お待たせガーネット、帰ったらおやつとお薬だね」と言った。
「……ガーネットのおかげだ。先輩とあんなに話せて、連絡先も交換できるなんて……」
「にぅ~」
「先輩、ぼくよりガーネットのことが気になってるみたいだけど……さすが美猫。先輩の心をあんな一瞬で掴むなんて……」
「に~ぅ~」
朔弥が話しかけると、ちゃんとお返事をするガーネット。本当に賢い猫なのだ。
その夜、朔弥は勇気を出して、先輩に初メッセージを送ることにした。ガーネットの、超盛れている写真を厳選しなければ。
「……ガーネット、どの写真もかわいいんだよな……あっ、これとかどうだろう。庭の桜と撮ったやつ。あ~これもいい。クリスマスツリーと撮ったやつ……なんてかわいいんだ、キャットフードのモデルに応募しようかなぁ」
朔弥が自室のベッドでごろごろしながら、爆盛れ愛猫写真をあれこれ選んで悩んでいると、スマホに通知があった。
「……せ」
先輩。突然届いた圭一郎からのメッセージの通知に驚いた朔弥は、ぽん、とスマホを放り投げてしまったが、うまくキャッチした。こういうのは年下のほうから、今日はありがとうございました、って送るのが礼儀なんじゃないかって思っていたけれど、朔弥がもたもたしすぎていたせいで、先輩である圭一郎のほうが先に送ってくれたのだ。
「どうしよう、どきどきして開けない」
こういうの、すぐに返したほうがいいかな!? それともあんまりすぐに返しすぎちゃ、ウザいかな!? などと考えたところで、正解がわかるはずもない。嬉しい、好きな人からの初メッセージ! 間違っても消したりなんかしないようにロックかけて、念のため紙にもプリントアウトしよう。
開封する。既読ついちゃったな、とどきどきしながら。
『今日はありがとう また学校で』
おお、短い。朔弥は、先輩に先にメッセージもらっておいてよかった、と思った。こういったことに慣れていない朔弥は加減がわからず、めちゃくちゃに長文を送って圭一郎をドン引きさせていた可能性もあるからだ。
続けて、通知がくる。ざくろの、カメラレンズに超接近しているボケボケだけどかわいい写真だ。
『ガーネットの診察券の写真みたいに撮りたいけど、ぜんぜんうまくいかない。今度コツを教えて』
朔弥はときめきのあまり苦しくなってしまい、胸をぎゅうっ、と押さえた。
先輩、カワイイ~!! あんなにかっこいいのにペットの写真を撮るのがうまくいかなくて、ぼくに撮りかたを聞いてきている。メロすぎる。先輩、絶対モテると思う。
朔弥はベッドの上で気が済むまで暴れた。薬を飲んで昼寝していたガーネットが、朔弥の奇行を心配して様子を見に来るくらい暴れた。
頬擦りしてくるガーネットを撫でてやりながら、朔弥は圭一郎への返信文を打った。
『先輩、今日はありがとうございました。先輩と話したかったので、嬉しかったです。ガーネットの写真を送ります。迷ったんですが、よく撮れていると思う写真、二枚送ります。』
文章が硬いかな……。もっと一言ずつ、分けて送ったほうが印象いい?
「う~ん、迷うな。どう思う? ガーネット」
ガーネットは朔弥への頬擦りをストップし、液晶画面をちらり、と見た。
「にゃう」
そうして、肉球で送信、のボタンをタップしたのである。二枚の写真を添付した、朔弥の初メッセージの送信ボタンを。
「あ~~っ!!」
ガーネットは賢いので、こうでもしなければ朔弥がいつまでも思い悩んで送信ボタンを押せないことがわかっていたのかもしれない。ガーネットは、まだちょっぴり鼻水で濡れている鼻を、朔弥のほっぺたにぺとり、と押し当てた。
「朔~ゴハンだよ~」
「は~い!」
送ってしまったものは仕方ない。朔弥はずっしりと重いガーネットを抱き上げて、自室を出た。
「今日、絶対ギョーザだ! においでわかる!」
「にゃおん」
「ガーネット、おまえはギョーザは食べちゃだめなんだよ」
月曜日が待ち遠しい。今までは名前もわからなかった憧れの先輩なのに、今は連絡先も知っているなんて夢みたい。胸もおなかもいっぱいな気がして、ギョーザが食べられるか不安だったけど、余裕でおかわりできた。お母さんのギョーザは、すごくおいしい。

