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 新潟を発ち、北陸の大地を通過して東北へ。
 噂の魔族の町だか村だかを探して飛び回ってみたけど、見つけられないままに日は沈もうとしていた。

「うん、本気で見つからない」
「魔物どもの気配ばかりだな」

 今の私なら、もうちょっと簡単に見つけられると思ったんだけどなぁ。

 結界か何かで隠してあるんだとは思うけど、それらしい痕跡もない。
 とは言え、オムカデアにそんな嘘を吐く理由はない。

 あのカメレオンの魔人を思えば、私たち龍の目を誤魔化せる魔族がいてもおかしくは無いとも思う。

「せめて人間の町でもあればね」

 噂くらいは聞けるかもしれないのに。

 今の東北で人間が生きるのは難しいだろうなぁ。
 ここまで見てきた感じ、複数パーティで百階層の守護者を突破出来たらかなり強い方みたい。

 そう考えたら、中野の新兵が二パーティで五十階層クラス攻略はちょっと不自然かもしれない。

「ん? あれ、村だよね? それも人間の」

 見つけたのは、山の中にある小さな農村。
 昔ながらの木造づくりの家々が並んでいる。
 
「そのようだ。この辺りに住める人間がいるとは」

 びっくり。
 百階層以上の魔物がゴロゴロいる地域なのに。

「そういえば、五十年前の戦いの時にこの辺で強い気配を幾つか感じた記憶が」

 あるような無いような。
 
「あれがそうか」

 あったらしい。
 強いって言っても、私からしたら誤差みたいなものだったから正直忘れてた。

 上から見た感じ、住んでいるのは妖怪や人間系の種族で、魔族の町ではない。
 化けているようにも見えないし、ちょっと下りて聞いてみようかな。

「夜墨、下りるよ」
「ああ」

 少し離れたところに下りて、人化した上で村を目指す。
 村全体に目隠しの魔法と、周囲一帯に迷いの魔法が掛けられていたけど、樹海のそれほど強力ではない。
 まあ、百階層クラスの魔物相手なら十分かなってくらい。

 一回だけ道間違えたけど。
 こういう場所でまず逆方向に向かってしまうのは何故なのか?

「門番の類は無し、と」
「だが我々が来たことには気が付いているな」

 そのようで。
 全員がそれなりの実力者って感じだね。

 二百階層クラスと戦えそうなのは、一人か。
 隠神刑部(いぬがみぎようぶ)や赤竜と同格だ。

 気配は妖怪っぽいけど、もしそうなら始祖ではない。
 隠神刑部が[始祖妖怪]の称号を持ってるらしいから。

 妖狐みたいに神獣の要素が混ざってたら別枠判定なんだろうけど、その感じもない。

「始祖のボーナス無しに、自分の才と努力のみでここまで強くなったんだ」
「中々の器だ」

 まあ、とりあえずお邪魔しようか。

「お邪魔しますっと、あら、手厚い歓迎で」

 光の縄だったり羽根だったり氷だったり水だったり、個性豊かなことで。
 なんか、ねちょねちょしてるのもある。
 
 全部拘束目的の術だね。
 全てまともに受けたら数秒くらいは捕まるかな?

 面倒だからテキトーに干渉して消そう。
 ばっちいのもあるし。

「なっ!?」
「貴様、何をした!」

 なんか旧世代には珍しい言葉遣い。
 若い人かな?

「何をしたって、攻撃されたから打ち消しただけ。別に敵意は無いよ。ただの通りすがり」

 妖怪が多め。
 カラス天狗みたいなのに、雪女、あっちは河童か。
 あれは、夜雀? 鳥の姿をしてるバージョン。

 人間や鬼、獣人もいるね。
 こんな小さな村なのに。

「ちょっと探し物があるんだけど、長はあの家にいる人で間違いない?」

 村の住人達は顔を見合わせ、それから猿のような妖怪に注目する。

「すまんが、俺にもこの女の心は読めねぇ。だが、悪いやつじゃなさそうだ」

 心を読むとなると、(サトリ)かな。

「……分かった。案内しよう」

 そう言ってくれたのは河童の、たぶん少年。
 彼の後をついて、村の奥へ向かう。

「何を探してるのかは知らねぇが、ジジイを怒らせねぇでくれよ。普段は温厚なんだが、怒ると加減を忘れる」
「はいはい」

 私の返事に不安そうな河童君。
 悪いね、何かあってもちゃんと止めるから安心しておくれ。

 それより、違う事が気になるんだよ、私は。

「おーい、ジジイ! 客だ! 探し物だってよ!」

 最奥のひと際大きな古民家に入ると、暗い室内で淡く緑色に光る大きな目が、一対見えた。
 ふむ、大河童的な妖怪かな?

「なんじゃ。……ほう、これは随分とまぁ珍しい客が来なすった」

 正体はバレたみたいだね。
 人化しただけだし、彼くらいなら簡単に見破れるだろう。

「この遠野の地で、一体何をお探しで?」

 大河童が下手に出るものだから、河童少年は訝し気に私を見てくる。
 正体を明かす気は無いというか、また人化したり戻ったりが面倒なので無視するけど。

「この辺というか、東北のどこかに魔族の町があるって聞いたんだけど、知ってる?」

 大河童は目を細め、じっと私を見ると、ゆっくり口を開いた。

「それを知って、どうするおつもりで?」
「別に、どうも。ただ興味本位で見てみたいだけ。魔族だからどうするって言うんだったら、この村の住人は既に減ってるよ」

 少年、ぎょっとするのは良いけれど、リアクションが良すぎるね。
 外と関わる事も考えるのなら、腹芸の一つでも覚えた方が良い。

「……ふむ。残念ながら、わし等もどこにあるかまでは知りませぬ」
「けど、あるにはあるんだ」
「はい」

 つまり、単純に私が見つけられなかっただけって事だ。
 面倒だね。

「ありがとう。十分だ。ところで、彼はどういう経緯で魔族になったのか聞いていい?」
「貴女には構わないでしょうよ。アレは元々、九州の方のヤクザもんでね、敵対勢力の粛清をしてたらなっちまったってんでさ」
「なるほどね」

 そういう事情か。
 昔、誰かが危惧していた事例だね。

「助かった。それじゃあ、私はもう行く」
「何よりで」

 大河童の家を出て、小さくため息を吐く。
 ふーむ、私が見つけられなかっただけかー。
 これは腰を据えて探さないとダメかな?

 とりあえず、北海道の方を見てしまおう。
 まずは。獣人たちからだね。
 
 戦争が始まる前にこの旅行を終わらせたい。