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 東の空が薄ぼんやりと明るくなってきた。
 夜墨と別れてからは一時間だ。
 
「ほっ」

 山梨辺りの上空から投げた白槍は、秋田の都市を襲おうとしていた邪鬼の頭を貫いて絶命させる。
 この場に陣取ってからずっと繰り返してきた事だ。

「よっと」

 英雄の種がどう頑張っても倒せないような魔物でも、私にとっては投擲一つで仕留められる獲物に過ぎない。

「ん、マズいのはコレで最後かな?」

 埼玉方面に向かう竜が絶命した事を確認し、一息つく。
 今交換したお茶を飲みながら望遠の魔法を使うと、戦いを終え、島民に労われる人魚の小娘の姿が見えた。
 頭も悪く品の無い女王ではあるが、その健気さは民衆受けが良いらしい。

 他のいくつかの地域も既に戦いが終わっているみたいだね。
 四国と、北陸も後始末を始めている。

 東北もそろそろ終わるかな。
 エルフ達が南部に増援を送っていたお陰で、思ったよりは楽が出来た。

 私と夜墨の手助けが無かった地域も、強敵は始祖達が中心になって対処している。
 
 うん、私の役目は終わりかな。

「んーっ、疲れたぁっ!」

 意外と強めのが多かったなぁ。
 確実に仕留めないといけない相手だけど、やり過ぎると人間達を巻き込んじゃうから神経を使ったよ。

 もう二度とやらない。
 私が気付いた範囲でスタンピードを起こしていた迷宮を書き出しておくから、次は自分たちでどうにかして欲しい。

 起こるとしても何十年、何百年後になるとは思うけどね。
 小さいのなら十年もあれば起きうるか。

 まあ良いか。
 兎も角、これでもう私は自由だ!

「と、最後まで気を抜いちゃいけないね」

 全戦闘終わったのを確かめて、それから終戦宣言の配信をしたら漸く終わりだ。
 暇だし、なんかそれっぽい演出でも考えておこうかな。
 信賞必罰の賞の代わり?

「どんなのが良い―― 」

 姿勢を胡座に変えて、思考を巡らせようとした時だった。

 その気配は急に現れた。

 威圧感は、八岐大蛇と同等。
 そんな迷宮、あったか?
 あの百七十階層のような特殊条件?

 場所は……。

「ちっ」

 思考を打ち切り、全速力で飛行する。

 ソレが現れたのは、秋田と青森の県境にある大山林、白神山地の中心部。
 エルフ達の作った集落のすぐ近くだ。

 非常にマズい。
 今エルフの里にはあまり戦力が残っていない。
 南部への援軍が仇になった。

 始祖のハイエルフは残っているが、彼女の力じゃ時間稼ぎが精々だ。
 せめて戦力が万全なら、まだ戦いようがあったけど……。

 いや、無いもの強請(ねだ)りをしても仕方ない。
 望遠の魔法で確認すると、プレッシャーだけで防衛部隊の半数以上が気絶してしまっていた。

 これは、戦うにしてもエルフ達を避難させないとか。

 夜墨は、そこそこ強いのと戦ってる。
 あれは放置できない。
 
 急げ。
 流石に全滅されたら寝覚が悪い。

 私の気配に気付いたのか、ハイエルフの女王は全力で防御に徹し始めた。
 あの女王、防御の方が得意なのか。
 これなら間に合う。

 よし、見えた。
 あれは、熊?
 鹿の角が生えた熊だ。

 目が十二対。
 体色は、コールタールのような黒色だ。

 二階建てほどの体高の熊が、様々な色の瞳でハイエルフの女王の作った結界を睨んでいる。

 とりあえず足止めプラス奇襲と全力で槍を投擲したが、簡単に避けられた。
 まあ、予想通り。
 足止めの目的は果たせているので問題ない。

「ふぅ、到着。それじゃあ、遊ぼうか」