63
「んーっ……と」
久しぶりの外の空気を胸いっぱいに吸い込みながら、伸びをする。
この辺りの十一月らしく、どんより曇っていて昼間の明るさではない。
けど、火酒を持って出た時以来だ。
その間いた根の国の陰鬱な空気に比べれば、何十倍も清々しい。
今の所、迷宮が溢れたって話は聞いていないので、とりあえず火酒を我が家に持って帰ることにする。
魔石も使って温度を保った状態で封印していたから、傷んではいない筈。
何もしなくても保存は大丈夫な気がするけど。
拝殿の隅に隠した樽を持ち上げる時に少し襟が乱れてしまったが、配信はもう閉じているから、問題無し。
通るのも遙か上空だし。
さて、大迷宮組はどんな感じかな?
移動しながら開いた連絡用のスレッドには以前、余裕が出来たら進捗を伝えるよう書き込んでおいた。
ふむ、夜墨は二百三十階層の守護者までを倒して雑魚掃討に移行。
玲奈、ワンストーン組は二百階層まで討伐して雑魚狩りに移行予定と。
それぞれ二ヶ月前と半年前の連絡だから、そろそろ皆迷宮から出てくるかな?
私の方も書いておかないとね。
脱出済み、と。
で、人間達は、少なくとも発見した迷宮に関しては大丈夫そうか。
今でもチラホラ新しく発見してるみたいだから、油断は出来ないけど。
それはそれとして、気になる事が一つ。
「んー、それっぽいの、無いなぁ……」
私の見れる範囲で色んなスレッドを確認してみたけど、見つからない。
この三年で少しくらいは怪しい動きがあるかなって思ってたんだけど。
うん、何も無いんだよ、絶兄が関係してそうな話。
スタンピードは流石に不利益の方が大きいって協力してくれてるなら良いんだけど、そうで無かったら怖い。
何かしらマッドな実験してそうなイメージ。
宣告配信で言っちゃった手前、彼方が何かするなら動かないといけないなぁ。
祈るだけ祈っておこう。
お、富士山まで来たね。
夜墨、出てこないかな?
なんて、噂をすれば影がさす。
見覚えのある黒い影が山頂辺りから飛んできた。
「やあ、お疲れ様。なんか強くなった?」
「ロードの影響だろう」
久しぶりにあった従者の頭の上に移動して胡座をかく。
火酒が気になってるみたいだけど、帰ったらだよ。
「称号の影響って夜墨にも出るんだね」
「私はロードより生まれた存在故にな」
なるほどね。
まあ、戦力が上がる分には大歓迎だ。
純粋な力なら八岐大蛇より強くなってるんじゃない?
複数の頭によるブレス連射がある分、あっちの方が私には戦いづらいけど。
魔力が増えた分を考えたら、次はもう少し楽に勝てるだろうけどね。
経験値的にも。
「で、どうだった?」
「ロードが来なくて正解だな」
富士山の迷宮の話だ。
序盤は森ってだけ聞いてる。
「迷宮の壁扱いの木々が並ぶ迷いの樹海が百階層まで続いていた。単純な広さも近江の迷宮より広いだろう」
「うへぇ……」
うん、夜墨に任せてよかった。
近江の迷宮の木々はその辺の岩と同じような扱いだったから簡単に切り倒せたけど、迷宮の壁扱いじゃ相当なエネルギーが要る。
破壊しながら進むのは難しい。
口振りからして方向感覚を狂わせる迷いの魔法の中進まなきゃいけないんだろう。
それで近江のより広いとか、私じゃ確実に迷うね。
迷いの魔法が無くても方向感覚消え去るでしょなんて言ってはいけない。
事実は時に人を深ーく傷つけるんだ。
「で、出てきたって事は暫く大丈夫なんだよね?」
「ああ。少なくとも数百年は問題無かろう」
「なら良いね」
人間には麓の樹海を越える事すら難しいから。
ん、もう直ぐ関東に入るかな?
て、あら、これは……。
「あそこ、溢れてるね」
「そのようだ」
山梨と東京の県境から少し西に行った山の中。
迷宮の外の魔物としては強すぎる気配が幾つも現れ、広がっていく。
まだ低階層の魔物のようで、今の人間達なら楽に対処できる程度だ。
けど、そろそろ大変なのも出てくるかな?
「処理しておこうか」
問題の群れを視界に収め、魔法を使う。
迷宮上空に黒い雲がかかった。
その向こうで、青白い光と銅鑼を鳴らすような音が響く。
それは短い間隔で何度も繰り返されていた。
「これでよし」
あの規模の迷宮なら、強いのが何体か漏れたところで大丈夫だろう。
蟻の子一匹逃さん! ってなると面倒だし、ある程度は現地の人々に頑張って欲しい。
「八岐のに使っていた魔法か?」
「それの簡易版。ちょっと術式弄って、維持に使う魔力を節約してみた」
あの地を襲う雷雨は、一時間程続くはずだよ。
「あ、玲奈さん達も出たみたいだね。ワンストーンさんはそのまま京都周辺を手伝うのか」
お疲れ、さ、まっと。
これで悪夢の日にはならないかな。
ふー。
しかし疲れた。
一週間くらいはスレッドを監視しながらゆっくりしよう。
その後は、鍛錬をしつつ本番を待つ。
さっきのスタンピードで確信したよ。
二ヶ月後、発見できなかったそれなり以上の規模の迷宮が一斉に溢れる。
そうなったらヤバい所には手助けに行かないとね。
それまで日本中を回りながら、小さいスタンピードを間引いていこう。
同時に、絶兄も警戒。
多少の犠牲は仕方ないとして、それ以外何事もなく終われば良いんだけどね。
「んーっ……と」
久しぶりの外の空気を胸いっぱいに吸い込みながら、伸びをする。
この辺りの十一月らしく、どんより曇っていて昼間の明るさではない。
けど、火酒を持って出た時以来だ。
その間いた根の国の陰鬱な空気に比べれば、何十倍も清々しい。
今の所、迷宮が溢れたって話は聞いていないので、とりあえず火酒を我が家に持って帰ることにする。
魔石も使って温度を保った状態で封印していたから、傷んではいない筈。
何もしなくても保存は大丈夫な気がするけど。
拝殿の隅に隠した樽を持ち上げる時に少し襟が乱れてしまったが、配信はもう閉じているから、問題無し。
通るのも遙か上空だし。
さて、大迷宮組はどんな感じかな?
移動しながら開いた連絡用のスレッドには以前、余裕が出来たら進捗を伝えるよう書き込んでおいた。
ふむ、夜墨は二百三十階層の守護者までを倒して雑魚掃討に移行。
玲奈、ワンストーン組は二百階層まで討伐して雑魚狩りに移行予定と。
それぞれ二ヶ月前と半年前の連絡だから、そろそろ皆迷宮から出てくるかな?
私の方も書いておかないとね。
脱出済み、と。
で、人間達は、少なくとも発見した迷宮に関しては大丈夫そうか。
今でもチラホラ新しく発見してるみたいだから、油断は出来ないけど。
それはそれとして、気になる事が一つ。
「んー、それっぽいの、無いなぁ……」
私の見れる範囲で色んなスレッドを確認してみたけど、見つからない。
この三年で少しくらいは怪しい動きがあるかなって思ってたんだけど。
うん、何も無いんだよ、絶兄が関係してそうな話。
スタンピードは流石に不利益の方が大きいって協力してくれてるなら良いんだけど、そうで無かったら怖い。
何かしらマッドな実験してそうなイメージ。
宣告配信で言っちゃった手前、彼方が何かするなら動かないといけないなぁ。
祈るだけ祈っておこう。
お、富士山まで来たね。
夜墨、出てこないかな?
なんて、噂をすれば影がさす。
見覚えのある黒い影が山頂辺りから飛んできた。
「やあ、お疲れ様。なんか強くなった?」
「ロードの影響だろう」
久しぶりにあった従者の頭の上に移動して胡座をかく。
火酒が気になってるみたいだけど、帰ったらだよ。
「称号の影響って夜墨にも出るんだね」
「私はロードより生まれた存在故にな」
なるほどね。
まあ、戦力が上がる分には大歓迎だ。
純粋な力なら八岐大蛇より強くなってるんじゃない?
複数の頭によるブレス連射がある分、あっちの方が私には戦いづらいけど。
魔力が増えた分を考えたら、次はもう少し楽に勝てるだろうけどね。
経験値的にも。
「で、どうだった?」
「ロードが来なくて正解だな」
富士山の迷宮の話だ。
序盤は森ってだけ聞いてる。
「迷宮の壁扱いの木々が並ぶ迷いの樹海が百階層まで続いていた。単純な広さも近江の迷宮より広いだろう」
「うへぇ……」
うん、夜墨に任せてよかった。
近江の迷宮の木々はその辺の岩と同じような扱いだったから簡単に切り倒せたけど、迷宮の壁扱いじゃ相当なエネルギーが要る。
破壊しながら進むのは難しい。
口振りからして方向感覚を狂わせる迷いの魔法の中進まなきゃいけないんだろう。
それで近江のより広いとか、私じゃ確実に迷うね。
迷いの魔法が無くても方向感覚消え去るでしょなんて言ってはいけない。
事実は時に人を深ーく傷つけるんだ。
「で、出てきたって事は暫く大丈夫なんだよね?」
「ああ。少なくとも数百年は問題無かろう」
「なら良いね」
人間には麓の樹海を越える事すら難しいから。
ん、もう直ぐ関東に入るかな?
て、あら、これは……。
「あそこ、溢れてるね」
「そのようだ」
山梨と東京の県境から少し西に行った山の中。
迷宮の外の魔物としては強すぎる気配が幾つも現れ、広がっていく。
まだ低階層の魔物のようで、今の人間達なら楽に対処できる程度だ。
けど、そろそろ大変なのも出てくるかな?
「処理しておこうか」
問題の群れを視界に収め、魔法を使う。
迷宮上空に黒い雲がかかった。
その向こうで、青白い光と銅鑼を鳴らすような音が響く。
それは短い間隔で何度も繰り返されていた。
「これでよし」
あの規模の迷宮なら、強いのが何体か漏れたところで大丈夫だろう。
蟻の子一匹逃さん! ってなると面倒だし、ある程度は現地の人々に頑張って欲しい。
「八岐のに使っていた魔法か?」
「それの簡易版。ちょっと術式弄って、維持に使う魔力を節約してみた」
あの地を襲う雷雨は、一時間程続くはずだよ。
「あ、玲奈さん達も出たみたいだね。ワンストーンさんはそのまま京都周辺を手伝うのか」
お疲れ、さ、まっと。
これで悪夢の日にはならないかな。
ふー。
しかし疲れた。
一週間くらいはスレッドを監視しながらゆっくりしよう。
その後は、鍛錬をしつつ本番を待つ。
さっきのスタンピードで確信したよ。
二ヶ月後、発見できなかったそれなり以上の規模の迷宮が一斉に溢れる。
そうなったらヤバい所には手助けに行かないとね。
それまで日本中を回りながら、小さいスタンピードを間引いていこう。
同時に、絶兄も警戒。
多少の犠牲は仕方ないとして、それ以外何事もなく終われば良いんだけどね。



