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 薄暗い、けど広大な洞窟の中、魔力に分解されていく白蛇を眺めながら大きく息を吐く。
 
 このまま倒れ込んで眠ってしまいたい所だけど、残念。今配信中なんだよね。

「いやー、手強かったねー」

 頬を緩め、たつもりで後ろのカメラへ手を振る。
 巨大なだけあって未だに分解され中の八岐大蛇の姿は、リスナー諸君にも見えているだろう。

 てかコメントの流れ凄いな?

『緊張したああああ!』
『いや勝って良かった』
『心臓に悪い。ていうかなんで片腕消し飛んでてそんな平然としてられるの』
『良かったですほんと』
『ハロさんの戦闘でこんな緊張することがあるとは…』

「私もドキドキだったよ。え、楽しんでた? それはそう。当たり前じゃん?」

 全力を出すだけでも滅多に出来ないのに、全力をぶつけ合えるなんて楽しく無いわけないじゃん。
 いやー、良かった良かった。

『当たり前か、そか』
『当たり前じゃ無いと思います』
『まあ、ハロちゃんだし?』
『ハロさんだしなぁ、、、』
『さすハロ案件』
『さすハロさすハロ』

「これは私怒っていいやつ?」

 と言いつつ視線だけで辺りを見回す。

 アレだけ暴れたのに、周囲にかけられた注連縄は無傷っぽいんだよね。
 さすが迷宮。不思議だね。

『すみませんでした!!』
『ごめんなさい!!』
『怒っちゃだめです!』
『すみません! (八岐大蛇とやり合って勝つ人怒らせるなんて出来るわけねぇ)」
『謝ります!(そんな命知らずなやつ、いねぇよなぁ⁉︎』

 こいつら……。

 まあいっか。
 無意味に怖がられるのもやり辛いし。

 そういえば、あの助言をしてくれた初見さん、アレ以来コメント無いな?
 んー、まあ、そういう事もあるか。
 少し引っかかるけど。

 お、やっと分解が終わったね。
 ドロップは……。

「樽……?」

 何故に樽?
 八岐大蛇からの戦利品と言えば草薙の剣とかじゃ無いの?
 特別な櫛もありだ、よ……?

 いや待てこの匂いは!

『急に猛ダッシュハロさん』
『剣じゃないのか』
『樽で、ハロさんが反応する…。つまり?』
『酒だな』
『酒か』
『酒だわ』

「酒だぁ!」

 おー。
 これはあれだね、素戔嗚さんが八岐大蛇退治で使った火酒。

 ドロップ品だし、たぶん黄泉竈食ひ的にはノーカンだよね?
 ノーカンて事にしよう。
 ノーカンだ。

 そか、よくよく考えたらここは根の国、死後の世界だ。
 つまり今の大蛇は素戔嗚さんに倒された後の大蛇で、尻尾にあるって剣は取り出された後なんだ。

 納得。
 納得したところで、味見を一つ。

『めっちゃ嬉しそう』
『躊躇なく飲んだな』
『抱えるくらいの樽からそのままかよ』
『凄い飲みっぷりですね?』
『美味そうに飲むなぁ……。』

「ぷはぁっ! ナニコレめちゃ美味しい。酒精は超強いけど」

 これは八岐大蛇も夢中になって首落とされるわ。
 片手で飲みにくいのとか関係ないね。

 おん?
 なんか、胸の奥というか、魂が軽くなったような?
 魔力が増えた感も。
 あと左腕がムズムズする。

 こういう時はあれだ、ステータス画面。
 んー、変わった所は、特に……あ、これか。

 称号にあった伏せ字オンリーが[龍***]になってる。
 龍ほにゃらら?

 んー、まあ、いっか。

 ちなみに魔力は元々最大のSSだから変化してなくて当然。

「しかし、疲れた。ちょっと早いけど今日はここまでかな。明日も配信予定」

『ほーい』
『お疲れ様です』
『腕どうするん?』
『その腕で続けるんですか?』
『腕、はハロさんなら生えてきそう』
『トカゲの尻尾みたいにな』
『有り得る』

 なんか好き勝手言われてるんだけど。
 流石に腕一本生やすってなったら何日かかかると思うよ?

「それじゃ、またねー」

 配信停止っと。
 
 いや、本気で疲れた。
 腕は、一番強いポーションでどうにかなるかな?

 なりそう?
 夜墨に聞いて……ってもうスレッドに情報書き込んでくれてる。
 さすが夜墨。出来る従者。

 ふーん、私くらいの魔力量だと最上級でも直ぐには無理なんだ。
 まあ、効果はあるみたいなので一つ交換してぐびっと。

 味は、なんかヨウ素系の薬みたい。
 変な味……。

 こういうのは美味しい物で上書きしよう。
 ちょうど手元にとびきり美味しいお酒があるし。

 本当、超美味しいね、これ。

 とりあえず、倒れ込む。
 割と勢いよくいったのでパタンって音がしたけど、痛く無いからまあ良し。

 覚悟はしてたけど、思った以上にしんどかったよ、さっきの戦い。
 楽しかったけど、だからこそ疲れた部分はあるね。

 明日からどうしようかなー。
 片腕使えないし、魔法メインで戦闘かな。

 まあ、そんなに問題ないと思うけど。
 
 いくら何でも百六十階層の守護者と差があり過ぎた。
 たぶん、百七十階層っていう十七のつく階層だったから特別強かったんだと思う。

 だとしたら百八十階層はもっと楽な筈。
 道中の敵も、百六十階層台とそこまで変わらないと見た。

 んー、何でもいいか。
 兎に角今日は疲れたよ。

 お腹空いたけど、食べるのが面倒くさい。
 このまま寝ちゃおうかな。

「ふわぁ……」

 よし、寝よう。
 おやすみ世界……。


 おはよう世界。
 うん、よく寝た。
 もう朝だね。

 思ってた以上に疲れてたのかな?
 まあ、結構頑張って戦ったしなぁ。

 体の調子は、うん、良いね。
 問題なさそう。

 そういえばドロップ品のお酒、飲みかけだったなぁ。
 まだ残ってる、ね?

 これ、どうしよう。
 一回出て外に置いてくる?

 飲み干しても良いけど、これ、全部飲んだら私でもガッツリ酔いそうなんだよなぁ。

 よし、外に置いてこよう。
 盗られないよう対策はするけど。

 ……でもちょっとだけなら大丈夫だよね、うん。

 しっかり抱えまして、いただきま、す……?

「え、ん? え?」

 どうして?