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 翌日に入った三十階層台からは山のエリアに変わり、一気に探索速度が落ちた。
 森林や洞窟が増えたため、徒歩に切り替える必要があったからだ。

 空を行って見落としては、逆に時間がかかりかねない。

『ところでそれ、美味しいの?』
『しれっと食べてるよね』
『蜥蜴肉ってどんな味なんだろう。。。?」
『そのサイズどこに入ってんの?』

「ん? これ? 意外と美味しい。ジューシーな鶏むね肉っぽい。普通の蜥蜴の肉は知らないけど」
 
 頬張っているのは、三十階層の守護者だった大蜥蜴の尾の肉だ。
 歩きながら魔法で焼いて齧りつくのに丁度良さそうだったから、試してみた。

 胡椒をかけたりマヨネーズを付けたりして味変しながら食べてるんだけど、私の両腕程もあったのがもうなくなりそう。
 我ながら胃袋の構造が気になる案件だ。
 コメント欄でも少し引いてる人がいる。

「おっと、危ない」

 森に入ってすぐ、上から降ってきた気配に身を捻る。
 人間を丸のみ出来そうな巨大な蛇だ。

 けっこう隠密性が高そう。
 私には通じないけど。

「このお肉は私のだ、よっ?」

 足元から飛び掛かろうとしていた大蛇の頭を足で押さえつけ、そのまま踏み抜く。
 さすがの生命力か、死体痙攣か、頭がつぶれた後も胴体はびったんびったんとのたうち回っていた。

「そんなにこのお肉が欲しかったのね。どんまい?」

『絶対違う』
『肉は肉でもハロさん肉だと思う。。。』
『絶対分かってて言ってるよこの人、いやこの龍』
『蛇も鶏肉みたいな味なんだっけ』

 聞いたことあるね。
 ん-、鶏肉か。

「好きなんだよね、鶏肉。じゅるり」

『まだ食べる気か』
『くちでじゅるりって言ったな?』
『ハロさん実は食いしん坊?』
『少なくとも食事への拘りは強いぞ』
『まさかの夜墨様降臨。レアすぎるスクショしたい』

 夜墨何やってるのかな?
 まあ、暇なんだろうね。
 あっちも私と同じような状況だろうし。

 余裕が無さそうならモデの仕事しなくていいとは言ってあるけど、そんな階層に行くまでどれ程かかるやら。

「夜墨、そっちは何階層?」

『二十三階層だ』

 思ったほど行ってない。
 低階層は樹海って聞いてたけど、薙ぎ払いながら進んでる訳ではないのかな。

「ん、了解」

 まあいっか。
 それよりも今は蛇肉ですよ。

 お腹がめちゃめちゃ空いてるわけじゃないけど、単純に気になる。
 何事も経験。

 という訳で、サクッと皮を剥ぎまして、小骨も抜きまして、と。
 とりあえず丸焼きとかば焼きかな。

『こうして見ると普通に美味そう』
『魚っぽいとも聞いたけどどうなんだろう』
『腹減ってきた。でも今迷宮内なんだよなぁ』
『迷宮内で配信見るのは止めとけー? わんちゃん死ぬぞ』
『確かに。デモ見たい。でも命には代えられんか。また後でー』

「はいはーい。死んだら元も子も無いんだから、ちゃんと生きて帰るんだよー?」

 収入源には私が原因で無駄に減って欲しくないんでね。

 ん、良い匂いがしてきた。
 まだかかりそうだけど、期待大じゃないかな。

「あら、お客さんが沢山だね?」

 匂いに釣られたのか、狼やら何やらの獣まで気配を現した。
 山エリアに入ってから姿を見るようになったやつらだ。
 熱に釣られたらしき蛇の気配もある。

「じゃ、食事の前の運動といきますか」

 こちらが気づいてると見たのか、イノシシ型の魔物が突進してきた。
 私の背丈近くある大猪だ。
 その衝撃といったら、車に轢かれるよりも凄まじいだろう。

 まあ、龍の私からすれば、だからどうしたって話なんだけど。

「ふっ!」

 迫りくるイノシシの鼻に向けて、思いっきり拳を合わせる。
 魔力による強化は殆どしてないけど、それでも突進の勢いが手伝って、頭蓋骨を砕く感触がした。
 悲鳴と共に後ろへ転がっていく猪に、コメント欄が騒然となる。

 そこへ、左右から挟み込むように飛び掛かってきたのは灰色の毛の狼たちだ。
 こちらは普通の大型犬とあまり変わらない程度。
 気持ち大きいかな?

 連携の取れた攻撃は厄介、なんだろうけど、悲しいかな。
 彼らの牙じゃ、私の鱗を貫けない。

 両腕に噛みついた二匹をグルんと振り回し、近くの木や岩に叩きつける。
 今の音は、背骨か(あばら)かが砕けたかな。

 最後の一匹は、未だ気配を殺し、隠れているつもりの蛇。
 そちらへ視線を一つやると、バレているのを悟ったのか、そのまま森の奥へ消えていった。

「ん、いい感じに焼けたかな?」

『相変らずの無双』
『やっぱつえー』
『猪、普通のちっさいのでも普通に骨折れるしなんなら死ねるからな?』
『狼に噛まれて無傷って・・・』
『ハロさんの鱗で装備作りたい』

 なんか色々言ってるけど、気にしない。
 あ、そういえば猪肉も食べてみたかったんだよね。

 ん-、でも流石にお腹いっぱいになるかな?
 お腹いっぱいになるかー。

 残念だけど、諦めよう。
 またその内出て来るでしょ。
 暫くは迷宮から出ないつもりだし。

 死体は普段なら放置するところだけど、魔力として再吸収されないように燃やしてく。
 消し炭にするなら火力を際限なく上げればいいので直ぐだ。

「よし、それじゃあいただきます!」

 まずは丸焼きから。
 塩だけ振って食べる。

「んん、思ったより味がしっかりしてる。淡泊ではあるんだけど、ちゃんと甘いというか」

 確かにこれは鶏肉と魚の間くらいだ。
 美味しい。

 という事は、つまり。

「やっぱりかば焼きも美味しいね、最高。お酒が欲しくなるよ」

 流石に迷宮内だとね……て、いや、待てよ?
 この階層なら飲んでもいいんじゃない?

 どうせ私にダメージを与えられるやつなんて居ないし。

 ……よし。

『主、無言で日本酒を交換するの巻』
『一升瓶かよ』
『ハロさんだけ違うゲームやってるんじゃない・・・?』
『流石というかなんというか』
『ここ迷宮だよね? 近所の山のキャンプ場とかじゃないよね?』

 ハハハ、気にするなリスナー諸君。
 気にしたら負けだ。

「くぅ! やっぱり合うね! うま!」

『一升瓶らっぱて』
『豪快』
『凄い光景』
『出雲神話ならこの後首落とされるやつだな』
『良い子はマネしないように』
『真似したくても出来ん』

 よしよし、いいね。
 気分が乗ってきた。

 この調子で攻略していこう。
 ついでにこの蛇を見かけたら確実に仕留めよう。

 だって美味しかったんだもの。