世捨て人龍の配信生活~迷宮の底で人型龍になったけれど生活を充実させたいので配信者します~

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「ねえ、令奈。おかしいね。私たち、こうならないように旅に出たはずだったのに」
「せやなぁ……」

 違うよ、二人とも。違うんだ。

「私ら、完全に枷なってもうてる」

 そんなこと、思ってない。そりゃ、今は二人を巻き込まないように戦ってるけど、それは領域の制限を受けたままだからで、時間的制約を考えたらどうしようもなかったことだ。
 そもそも私が二人といるのは、強いからなんかじゃない。そんなの、友人って関係を作る上じゃ、些細な問題なんだから。

「ままならんなぁ……」

 だから、そんな悲しそうな声は出さないでほしい。悔しそうな声を出さないでほしい。
 ウィンテは、令奈は、ようやく出会えた、窮屈に思わずに話せる友人なんだから。

 その言葉を届けたくても、今ある戦場は、許してくれない。猛攻を誘導しながらじゃ黙って聞くのが精一杯で、声を送ることも、配信にコメントすることもできない。
 そんなことをすればドラゴンの王たちは違和感に気が付くだろう。二人に意識が向かないようにしているが故の不自然さに、気が付いてしまうだろう。

 そして三人がかりならば、ドラゴンの王たちの牙は二人に届きうる。

「私たち、このままで良いと思う?」

 良いんだ。最後までただ傍観していようと、私たちが友人であることに代わりはない。

「悪くは、無いやろな。そもそもこれはハロが作った状況や」

 そうだよ令奈。その線で説得を重ねたら、ウィンテもどうにか引いてくれる。だから――

「でも、良くはあらへん」

 ああ、やっぱり。

「じゃあ、覚悟は良い?」
「今更聞かんでええやろ」

 令奈も、そっち側だよね。

「夜墨さん、言わないでください。分かってます。ハロさんが私たちに求めてるのは、そんなことじゃないってことくらい」

 知ってる。それも、知ってた。
 分かった上で、その上で、力でも常に私の隣にいようとしてくれてるって。

 この瞬間もなお降り注ぐ三つの殺意を捌きながら、画面の向こうに伸ばしそうになった手を引っ込める。

「でも、これは必要なことなんです。私たちのためにも」

 その言い方は、ずるい。

「えらい怒られるやろな」
「だろうね。だけど、仕方ない」
「せやな」

 二人は特に示し合わせることもなく、同時に障壁を越えた。夜墨が止めてくれることを願ったけど、そうはしない。つまり、夜墨もそうするのが最善だと思ったってこと。

 ……いや、違う。それもあるだろうけど、一番の理由は、私だ。私が、嬉しく思ってしまったからだ。

 それが分からない夜墨じゃない。

「まったく、三人とも、後でまとめてお説教だ」

 口角が上がるのを自覚しながら魔力のチャージを開始。動きを止めて、今まさに吐き出され落ちてくる黄金の炎へ龍眼を向ける。左右へ別れた気配は気にしない。

 逃げ場を封じ、アバデアとユドラス君の動きを隠すような業火。都市を焼き尽くし、怠惰な人間に裁きを与える黄金。加えて破滅の化身が控えているとなると、絶体絶命の言葉が大げさではない状況に見える。

 だけど違う。これは狼煙だ。護りの時は終わり、攻めに転ずべきとする合図だ。
 他でもない友人達の思いが、そうと変えてくれた。

「だったら応えないと、私こそ二人の横にいる資格がないね!」

 解き放つのは私たち龍が持つ最大の暴力。ドラゴンのそれと同じく存在そのものが持つイメージに圧倒的な力を与えられ、そして種族としての権能がより絶対的な現象を生み出す一息。

 全てを飲み込む黄金と、全てを塗りつぶす白がぶつかった。人々のイメージによって与えられた力はほとんど互角。ならば、雌雄を決するのは付加価値。

 じりじりと、僅かずつ、しかし確実に白が黄金を押し返す。奔流となった魔力そのものに込めたのはドラゴンキラー、竜殺しの概念だから、これは単純に、出力の差。ドラゴンブレスに付随する、私たち自身という付加価値の差。

 もしこれで物理的なエネルギーを具現化するような情報を加えていたなら、もっと勢いよく押し返していただろう。

「ぬぅ……!」

 サマエレアのうめき声を龍の聴覚が拾った。いくら力んでも目の前の現実は変わらない。
 これが一対一ならとっくに離脱してるだろう。でもそうしない。理由は明白。こうして釘付けにするのが、彼の目的だから。

「塵となるがいい!」

 同じ高度の左右、サマエレアの炎が届かない距離から、二つの攻撃が向けられた。黒紫の火炎と神々しい光が迫る。
 両者はちょうど私の位置で交差するような軌道。サマエレアとブレスをぶつけ合う今、回避の間に合う速度でもない。

 ユドラス君の光線はともかく、アバデアのブレスを受ければ相当なダメージを受ける。私のブレスは途切れ、そのまま黄金にも焼かれて終わり。それが彼らの描いた勝利の未来。

 彼らはずっとこの構図を狙っていた。だからそうならないように動いていた。
 でも、どこかのおバカさんたちのせいで、その必要がなくなった。

 頼んだよ、二人とも。

「まったく、あんだけ戦わせんようしといて、調子ええなぁ」

 ブレスのチャージを始めた時点で察していたんだろう。力の制限された中でできる限りの準備を終えて、令奈が神器を解放する。

「守り幸えよ、八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)!」

 途端、輝くのは令奈の腕を飾る翡翠。かつて天照さんを守っていた神器が柔らかな緑の光を発し、球となって私たちを包む。
 その障壁は、本来持ち主だけを守るらしい勾玉の力を拡張したもの。当然令奈だけを対象としたときよりも強度は落ちるけど、それでもいつか配信越しに見たときよりもずっと強い力を感じる。

 それはつまり、令奈の研鑽のたまもの。彼女が力を磨き続けてきた証。
 ユドラス君にこれが破れるはずはなく、あっさりと防ぐ。しかしそれでも破滅の炎を受け止めるには足りない。

 翡翠の輝きと黒紫の闇がぶつかった。僅かに拮抗して威力を削ぎ、そして粉々に砕かれる。依然私の鱗を焼き尽くすには十分な熱と滅びを保っていて、どんどん近づいてくるのが見なくても分かる。

「ま、無理やろなぁ」

 試すまでもなく分かっていたと言外に言う令奈の声音はしかし、絶望の色には染まらない。

「ほな任せるわ」
「任されました!」

 すぐ横に滑り込んだのは射干玉と、白衣の白。ちらりと見れば、彼女は真剣な表情で銅鏡を掲げ、黒紫を映す。

 鏡が陽光に煌めいたかと思った次の瞬間、迫る破滅の闇は矛先を変え、術者であるはずのアバデアへ向かった。

「なっ!?」

 思わぬ事態に反応が遅れたのか、黒紫の炎がアバデアの片腕と片翼を掠めた。墨のように色を変えてボロボロと崩れ始める異形の肉体。それは焼かれた範囲に留まらず、徐々に広がる。

「ちっ」

 アバデアがすぐに腕と翼を切り落とさなかったら、あのまま全身崩れて死んでいただろう。
 真っ赤な竜眼が忌々しげにウィンテを睨む。当の本人の表情は、思った以上に険しい。

「ギリギリですね。不甲斐ない」

 何が不甲斐ないものか。実験に付き合ったから知ってる。神器、八咫鏡(やたのかがみ)が跳ね返せる条件は対象の全体を映せることと、持ち主の力に比例する許容量以内の威力であること。つまり、ウィンテは大幅に力を封じられた今でなお、あれを跳ね返せるだけの許容量を鏡に与えられているってことだ。

 とはいえそれを伝えたところで何の慰めにもならない。なら、今は目の前の戦いに集中する。

 更に出力を上げれば、不意に抵抗がなくなった。白い奔流が黄金を貫き、遙か彼方の宙へ消える。サマエレアが離脱したんだ。

 彼はブレスの軌道から外れた位置で僅かに息を乱しながら、こちらを見下ろしていた。

「文句は全部終わった後に聞いたる」
「そっちの覚悟もちゃんとしてたんだ。なら安心だね」
「なんや、聞いとったんか」

 それも分かってるくせに。

「死んだら承知しないよ」
「わかっとる」
「当然です」

 なら良いんだ。最終ラウンドの三対三。一切の遠慮無く、全力で、完全勝利をもぎ取りにいこう。