卒業してから一度も足を踏み入れたことがなかった懐かしい母校を一瞥して、昔はここで泣いたり笑ったり、なかなか忙しい中学生活を送ったものだなぁとしみじみ思いにふける。

 雲一つない青空にじりじりとこちらに向かって攻撃的な熱を放つ太陽。けたたましく響く蝉の鳴き声。遠くの方で聞こえる野球部の大きな掛け声が聞こえる。

(変わらない夏なのね)

 蜃気楼が揺れる。

 朦朧とした頭でぼんやり思いながら、なぜ自分はこんなところにいるのだろうかと今さらながらに現在おかれている状況を考えることとなった。

 いや、考えるほどのことでもない。

 気付いたらここにいたのだ。

 実は思っていた以上に振られたショックは大きかったため、思い出の詰まった母校まで無意識のうちに来てしまったのかとも漠然と考えていた。

 しかしながら異変に気付いたのは、そのすぐ後だった。

 なぜならこの母校は、わたしたちが高校二年生に上がる頃、隣の中学校と統合されるとかなんとかで校舎拡大のため立て直しになったと聞いていた。

 取り壊すことになると聞いて、最後に見に行こうとあわてて開かれた同窓会もあったほどだ。

 わたしは都合が合わず、そのときは参加をすることはできなかったけど、何もなくなってしまったこの場所を後日自分の目で確認することはできた。にも関わらず、当時と変わらないその姿が目の前に存在することに違和感を覚えるしかなかった。

 そして、夏休みのように見えるが、幾人すれ違う生徒たちの視線を感じ、気付いたことがいくつかあった。

 そりゃここでは場違いな高校の制服を着た女子がいきなり校内をうろうろしていたら目に付くだろうとは思うけど、その中に、何人か見知った顔の人間がちらほらいたからだ。

 見知った彼女たちよりも少し幼く見える……というかむしろどう見ても今最近目にした雰囲気ではないかつての旧友たちの姿に目を疑った。

 姉妹や親族なのかとも思えたが、どうもそうでもないらしい。

 現に、すれ違ったほとんどの人間が知り合いたちの兄弟姉妹なはずがない。

 恐ろしくめまいがするほどの現実と向き合う必要がありそうだった。

 気味が悪くなり、早くこの場から立ち去ろうと校門へ向かうが、向かう途中でまた同じ場所に戻ってきてしまうというまったく信じたくない状況にわたしは陥っていた。

 困惑とパニックでいっぱいになりながらも諦めずに校門へ向かうこと数回。

 すべては失敗に終わった何度目かの挑戦の末、楽しそうに友人たちと談笑しながら歩いてくるある人物と見つけることになる。

 それは怒りの発端である張本人だ。

 いや、今よりもかなり子供じみていて、最近ではあまり見かけなくなった馬鹿笑いをしながら周りを盛り上げていた。

 信じられなかったが、わたしがこの人の姿を間違えるはずない。

 中学生の基樹だとすぐにわかった。

 この時、なぜだかわからないけどわたしはこの人に仕返すためにここへ来たのだと、神さまから与えられた試練を確信した。

 そして、現在に至る。