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 沢見くんとあんな別れ方をして迎える月曜日は、今までのどの月曜日よりも憂鬱だった。少なくとも、スマホの溜めてしまった通知を見ても、何の罪悪感を感じないほどには、精神を消耗していた。
学校を休んでしまおうか。
ドライフラワーにしようと窓辺に吊るした白い薔薇を見ながら、そんな考えも過ぎったが、『佳純、生きてる?』と飛んできたメッセージに、現実に引き戻された。
『体調悪くて、スマホほとんど見てなかったの。ごめん。今から読むよ』
返信すると、一、二、三、四とすぐに既読はついた。『お大事にー』と労わる言葉をかけられ、私は重い体を起こして支度した。
登校すると、沢見くんは私より先に席についていた。友人たちと談笑している姿はいつもと変わらない。
身構えて自分の席に近づくと、気づいた沢見くんが声をかけてきた。
『おはよう』
私がおはようと返すのも待たずに、沢見くんはすぐに友人たちとの会話に戻っていく。
「お前、辛島さんと仲良かったっけ」と言う友人たちに『まあ、教科書貸してもらったりしたから』なんてそれっぽい言い訳をした。友人たちもそれ以上のことにはあまり興味はなかったようで「でさ」と、さっきまでの話題を再開したようだった。
それからも、沢見くんは毎朝私に『おはよう』と挨拶してくるものの、それ以上の会話はなかった。休み時間に少し話すことも、帰り際に声を掛け合うこともない。私が返そうとするのは一切聞かず、一方的に『おはよう』だけは言い続けてくる。
 邪険にはしないけれど、かといって親交を深めるつもりもない。彼なりの私への予防線だった。
 私は慢心していた。沢見くんは私の話を聞いて受け止めてくれていたし、沢見くんからの自己開示もあって、彼をよく知っている気になっていた。
(調子に乗るんじゃ、なかった。)
 今更後悔が押し寄せる。一度口から出てしまった言葉は取り消せないと、わかっていたはずなのに。本当に人づきあいがへたくそで、自分が嫌になる。
それを肯定するように、机の中のスマホがメッセージを受信する。最近の話題は、バレンタインデイを機に意中の先輩と付き合うことになった、もも恵のあれこれだ。
沙菜は未だ浅田くんと進展はないらしいけれど、毎日メッセージは送りあっているらしい。奈々未の恋愛も順調で、サエリは相変わらず傍観者のポジションに落ち着いていた。
おそらく、サエリには告白現場を見ていたことに気づかれてはいない。あの後もサエリの挙動には注意していたけれど、特に何かを言われることもなく、今まで通りの日常が続いている。
表のトークルームでは友人を演じ、裏ではお互いの悪口を言い合い、発散する。今までもそうであったように、いつばれるのかひやひやしながらも、自分の居場所を見出して、声を出すことへのあきらめを受け入れながら、高校生活を終えるのだろう。
けれど、そんな予想をひっくり返す出来事は、静かに、確実に、忍び寄っていた。