朝日を背に、チェーンをガシャガシャと鳴らして坂道を下っていく。いつもは追い抜く背中に声を掛ける。
「おはよう」
未尋は肩をびくつかせ、一瞬遅れで振り返った。
「おはよう!?」
「なんで聞くの」
僕が笑うと彼女は恥ずかしそうに目を伏せた。
「未尋、ありがとう」
「どう……いたしまして?」
「聞くなよ」
「だって!」
なんか懐かしいな。そう思って笑みを零すと、彼女の頬も緩んだ。
「未尋のおかげで、ちゃんと告白できたよ。未尋が勇気を出してくれなかったら、僕も勇気を出せなかったんじゃないかなと思う」
「うん。それでどうだったの?」
「撃沈した」
「やったぜ」
「おい」
「うそうそ」
嘘と言いながらも彼女はどこか嬉しそうだ。
「でもまだその人のこと好きなんだ」
「そうなんだ」
「その人は、他に好きな人ができるまで好きでいて良いって言ってくれたんだ。だからまだ、彼女のことを好きでいる」
自転車を自転車置き場に置いて、未尋の元へ戻る。
「未尋はまだ僕のことが好きなの?」
「え、あ、うん……」
「じゃあ、好きでいて良いよ。誰かを好きになるそのときまで」
僕が笑うと未尋も笑った。でも質が違う。なんだかニヤニヤしている。
「雪春くん、それって超回りくどくナンパしてない?」
「なんでそうなるの?」
「だって、それってこれからアタシがどれだけ雪春くんにアタックしてもいいってことでしょ? ってことはいつか雪春くんはアタシと両想いになるよね」
「なんでそうなるの!?」
「なんでも! 好きに理由なんてない、でしょ?」
僕は失笑して、「そうだね」と返した。
「そう言えばこの前教えてくれたコーヒー、どこに行っても置いてないんだけど」
「じゃあ今度一緒に飲みに行こうか」
「本当!? やったぁ!」
澄んだ空に彼女の声は良く透った。
恋はコーヒーだ。冷めてしまったら後味の悪いえぐみだけが残る。けれど僕の気持ちは違った。ならば恋ではないのか。いや、きっと僕の恋はプリンセサワイニーだったのだ。どれだけ時間が経過しても劣化せず、変化を楽しむことができるのだから。
もしもあなたへの思いを一杯のコーヒーに例えるなら、それはきっとプリンセサワイニーになるのだろう。冷めてから、甘やかに香るような。
「おはよう」
未尋は肩をびくつかせ、一瞬遅れで振り返った。
「おはよう!?」
「なんで聞くの」
僕が笑うと彼女は恥ずかしそうに目を伏せた。
「未尋、ありがとう」
「どう……いたしまして?」
「聞くなよ」
「だって!」
なんか懐かしいな。そう思って笑みを零すと、彼女の頬も緩んだ。
「未尋のおかげで、ちゃんと告白できたよ。未尋が勇気を出してくれなかったら、僕も勇気を出せなかったんじゃないかなと思う」
「うん。それでどうだったの?」
「撃沈した」
「やったぜ」
「おい」
「うそうそ」
嘘と言いながらも彼女はどこか嬉しそうだ。
「でもまだその人のこと好きなんだ」
「そうなんだ」
「その人は、他に好きな人ができるまで好きでいて良いって言ってくれたんだ。だからまだ、彼女のことを好きでいる」
自転車を自転車置き場に置いて、未尋の元へ戻る。
「未尋はまだ僕のことが好きなの?」
「え、あ、うん……」
「じゃあ、好きでいて良いよ。誰かを好きになるそのときまで」
僕が笑うと未尋も笑った。でも質が違う。なんだかニヤニヤしている。
「雪春くん、それって超回りくどくナンパしてない?」
「なんでそうなるの?」
「だって、それってこれからアタシがどれだけ雪春くんにアタックしてもいいってことでしょ? ってことはいつか雪春くんはアタシと両想いになるよね」
「なんでそうなるの!?」
「なんでも! 好きに理由なんてない、でしょ?」
僕は失笑して、「そうだね」と返した。
「そう言えばこの前教えてくれたコーヒー、どこに行っても置いてないんだけど」
「じゃあ今度一緒に飲みに行こうか」
「本当!? やったぁ!」
澄んだ空に彼女の声は良く透った。
恋はコーヒーだ。冷めてしまったら後味の悪いえぐみだけが残る。けれど僕の気持ちは違った。ならば恋ではないのか。いや、きっと僕の恋はプリンセサワイニーだったのだ。どれだけ時間が経過しても劣化せず、変化を楽しむことができるのだから。
もしもあなたへの思いを一杯のコーヒーに例えるなら、それはきっとプリンセサワイニーになるのだろう。冷めてから、甘やかに香るような。



