怒りならばまだ良かったと思う。ケンカなら謝れる。けれどもあれは、失望。
自室の勉強机に座って、表情のない天井を見上げる。
もう他人だと言うことだろうか。
いやいや、そもそも他人だっただろう。でも、『わたしだ』って言ってくれた。いや、それも一方的な話だった。勘違いだったのかもしれない。考えてもみれば、圧倒的に一方的だったじゃないか。向こうから、勝手に同一視して……
「嬉しかったな」
どんな形であれ、認められたのだ。
璃愛さんと僕は天と地ほど離れた存在だ。お義父さんに気を遣って、やりたいことさえやらないで、言い訳ばかりの僕とはまるで違う。本来なら一緒に居てはいけないはずだ。そんな彼女が『わたし』と呼んで認めてくれた僕なら自分でも認めてあげられると思った。少し好きになれそうだと思った。
なんで好きになれそうなのだろうか。
「……『わたし』、か」
答えは単純明快だった。
僕は椅子から立ち上がって、自室を出て、父の部屋へと向かった。



