「えっ、由希って宇佐美先輩とつきあってんの?」

 無事に文化祭を終えた放課後、僕たちはファストフード店に訪れていた。
 僕と紗倉さんがソファ席に座り、池田くんは反対側の椅子に腰掛けている。

 ポテトを食べながら固まっている池田くん。
 僕も彼の立場なら、とても驚くだろう。
 ストローで炭酸飲料を飲みながら、僕はちらりと隣の紗倉さんを盗み見した。

「やっぱりびっくりするよね? 私なんて目の前で三好くん連れて行かれたからね。映画かと思ったんだから」
「あの時は僕も驚いたよ」
「宇佐美先輩って俺の知ってる、基本無気力で恐ろしく顔綺麗な人で合ってる? あの人由希のこと連れ去ったりすんの?」
「先輩、無気力かなあ。よく笑うけど」
「いや、それ三好くんの前だからだよ。普段はあんまり笑ってる印象ないよ」

 確かに僕も先輩と仲良くなる前は、静かで感情表現が控えめな人だと思っていた。
 蓋を開ければとても喜怒哀楽が豊かだったけれど。

「そっかあ、由希って宇佐美先輩と付き合ってるんだ。お土産も先輩から貰ってたんだな、納得」
「うん、あの時は言えなくてごめん」
「気にすんなって。それより、俺はなんで二人が仲良いのかっていうほうが実は気になってた」

 僕と紗倉さんは見つめ合って、同時に笑った。
 そういえば、池田くんにはまだほうき星の話をしていなかった。

「実は僕たち推してるバンドが同じなんだ」
「ほうき星っていうんだけど、池田くんも聴いてみない?」

 紗倉さんが池田くんにイヤホンを貸して、曲を選ぶ。
 僕が誰にもバレたくなかった趣味は、今こうして新しい輪を広げようとしている。

 マスクを外して、思いっきり笑える日常が僕にとっての宝物だ。