就職活動がようやく終わりを迎えたある日の午後、裕基は久しぶりに大学のキャンパスを訪れていた。就活用の黒いスーツではなく、普段着のカジュアルなシャツとジーンズ。空は澄み渡り、春の柔らかな陽射しが木々の間から降り注いでいる。
「ようやく、終わったんだな…」
内定が決まり、これまでの努力が報われた安堵感と、これから社会に出る期待感が混じり合っている。少しだけ肩の力が抜け、自然と深呼吸ができるようになった。
キャンパス内を歩きながら、これまでのことを振り返っていた。あの時、何度も面接で失敗して落ち込んだ日々。ちょっとしたトラブルが続き、投げ出したくなることもあった。でも、そのたびに支えになってくれたのは、ひとみだった。
「三木さん、今頃何してるかな…」
ふとスマホを取り出し、ひとみにメッセージを送る。
「就活、終わったよ。内定もらえた。」
すると、すぐに電話がかかってきた。
「もしもし、石川君!?おめでとう!」
「ありがとう。やっと決まったよ。」
「すごい!本当に頑張ってたもんね。嬉しいな…」
電話越しに聞こえるひとみの声が、いつも以上に弾んでいる。裕基はその明るさが心に響き、自然と笑顔になった。
「いや、三木さんがいたからここまで来られたんだよ。何度も励ましてくれてさ。」
「そんなことないよ。私なんて、ただ応援してただけだし…」
「それが一番助かったんだ。ほんとに感謝してる。」
「…そっか。石川君がそう言ってくれるなら、私も嬉しい。」
ふと、電話の向こうで少し沈黙が流れた。裕基はその一瞬の空白が気になり、声をかけた。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない。ただ…なんか安心したっていうか。石川君がちゃんと未来に向かってるのが嬉しくて。」
「三木さん、泣いてない?」
「泣いてないよ!もう、バカにしないで…」
少し笑いながらも、声が震えているのがわかる。裕基は、その涙が喜びから来ていることを感じ取り、胸がじんわりと温かくなった。
「三木さん、今どこにいる?」
「図書館にいるよ。レポート書いてたんだけど、石川君からの連絡で全部吹っ飛んじゃった。」
「今から行ってもいいか?」
「うん、待ってる。」
電話を切り、裕基は足早に図書館へ向かった。緑に囲まれたキャンパスの道を駆け抜け、建物の中へ入ると、静かな空気の中でひとみが座っているのが見えた。彼女は窓際の席で、少しうつむきながらスマホを握っている。
「三木さん。」
声をかけると、ひとみは驚いたように顔を上げた。その瞳は少し赤く、涙の跡が残っていた。
「本当に、よく頑張ったね。」
「ありがとう。三木さんが応援してくれたから、最後まで諦めずにいられた。」
「私、何もしてないよ。ただ…ずっと心配してた。石川君が頑張りすぎて壊れないかって。」
「大丈夫だったよ。むしろ、三木さんがいてくれたから、最後まで頑張れた。」
その言葉に、ひとみの瞳が再び潤んだ。
「ごめん、変だよね。私、石川君が頑張ってるの見て、ずっと応援してたのに…終わったら急にホッとして、涙が出ちゃって。」
「変じゃないよ。むしろ、そんな風に思ってくれることが嬉しい。」
そう言って、裕基はそっとひとみの肩を抱いた。ひとみは驚きつつも、安心したように身を預けた。
「これから、社会に出てもさ、また色々あるだろうけど、三木さんにはたくさん話聞いてほしい。ダメかな?」
「ううん、もちろん。私も、ずっと応援してるから。これからも一緒に頑張ろうね。」
ふわりと春の風が窓から吹き込み、図書館のカーテンが揺れる。その柔らかい光の中で、二人は自然と笑い合った。これから訪れる新しい日々が、不安だけではなく希望に満ちていると感じた。
「今日は、これで良かったかもな。」
裕基がつぶやくと、ひとみも小さく頷いた。お互いの存在が、これまでの困難を乗り越える力になっていたことに気づき、心の中に小さな幸せが芽生えた。
「これからも、こんな風に話しながら、少しずつ前に進んでいこう。」
裕基の言葉に、ひとみが微笑みながら答えた。
「うん、私も一緒に歩んでいきたい。」
未来に向かうための扉が開かれ、二人はその道を共に歩き出す。支え合い、笑い合い、たまには泣きながらも、これからの人生を共有する。その温かさが、裕基の胸にしっかりと刻まれていた。
終
「ようやく、終わったんだな…」
内定が決まり、これまでの努力が報われた安堵感と、これから社会に出る期待感が混じり合っている。少しだけ肩の力が抜け、自然と深呼吸ができるようになった。
キャンパス内を歩きながら、これまでのことを振り返っていた。あの時、何度も面接で失敗して落ち込んだ日々。ちょっとしたトラブルが続き、投げ出したくなることもあった。でも、そのたびに支えになってくれたのは、ひとみだった。
「三木さん、今頃何してるかな…」
ふとスマホを取り出し、ひとみにメッセージを送る。
「就活、終わったよ。内定もらえた。」
すると、すぐに電話がかかってきた。
「もしもし、石川君!?おめでとう!」
「ありがとう。やっと決まったよ。」
「すごい!本当に頑張ってたもんね。嬉しいな…」
電話越しに聞こえるひとみの声が、いつも以上に弾んでいる。裕基はその明るさが心に響き、自然と笑顔になった。
「いや、三木さんがいたからここまで来られたんだよ。何度も励ましてくれてさ。」
「そんなことないよ。私なんて、ただ応援してただけだし…」
「それが一番助かったんだ。ほんとに感謝してる。」
「…そっか。石川君がそう言ってくれるなら、私も嬉しい。」
ふと、電話の向こうで少し沈黙が流れた。裕基はその一瞬の空白が気になり、声をかけた。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない。ただ…なんか安心したっていうか。石川君がちゃんと未来に向かってるのが嬉しくて。」
「三木さん、泣いてない?」
「泣いてないよ!もう、バカにしないで…」
少し笑いながらも、声が震えているのがわかる。裕基は、その涙が喜びから来ていることを感じ取り、胸がじんわりと温かくなった。
「三木さん、今どこにいる?」
「図書館にいるよ。レポート書いてたんだけど、石川君からの連絡で全部吹っ飛んじゃった。」
「今から行ってもいいか?」
「うん、待ってる。」
電話を切り、裕基は足早に図書館へ向かった。緑に囲まれたキャンパスの道を駆け抜け、建物の中へ入ると、静かな空気の中でひとみが座っているのが見えた。彼女は窓際の席で、少しうつむきながらスマホを握っている。
「三木さん。」
声をかけると、ひとみは驚いたように顔を上げた。その瞳は少し赤く、涙の跡が残っていた。
「本当に、よく頑張ったね。」
「ありがとう。三木さんが応援してくれたから、最後まで諦めずにいられた。」
「私、何もしてないよ。ただ…ずっと心配してた。石川君が頑張りすぎて壊れないかって。」
「大丈夫だったよ。むしろ、三木さんがいてくれたから、最後まで頑張れた。」
その言葉に、ひとみの瞳が再び潤んだ。
「ごめん、変だよね。私、石川君が頑張ってるの見て、ずっと応援してたのに…終わったら急にホッとして、涙が出ちゃって。」
「変じゃないよ。むしろ、そんな風に思ってくれることが嬉しい。」
そう言って、裕基はそっとひとみの肩を抱いた。ひとみは驚きつつも、安心したように身を預けた。
「これから、社会に出てもさ、また色々あるだろうけど、三木さんにはたくさん話聞いてほしい。ダメかな?」
「ううん、もちろん。私も、ずっと応援してるから。これからも一緒に頑張ろうね。」
ふわりと春の風が窓から吹き込み、図書館のカーテンが揺れる。その柔らかい光の中で、二人は自然と笑い合った。これから訪れる新しい日々が、不安だけではなく希望に満ちていると感じた。
「今日は、これで良かったかもな。」
裕基がつぶやくと、ひとみも小さく頷いた。お互いの存在が、これまでの困難を乗り越える力になっていたことに気づき、心の中に小さな幸せが芽生えた。
「これからも、こんな風に話しながら、少しずつ前に進んでいこう。」
裕基の言葉に、ひとみが微笑みながら答えた。
「うん、私も一緒に歩んでいきたい。」
未来に向かうための扉が開かれ、二人はその道を共に歩き出す。支え合い、笑い合い、たまには泣きながらも、これからの人生を共有する。その温かさが、裕基の胸にしっかりと刻まれていた。
終



