その日の夜、裕基は一日の疲れを癒そうと、ソファに腰を下ろした。就活の準備やバイトで忙しく、今日はやっとリラックスできる夜だ。久しぶりに録画しておいたドラマを観ようと、テレビをつけようとしたが——
 「あれ、リモコンどこだ?」
 いつもならテーブルの上かソファの横に置いているはずなのに、見当たらない。クッションの間やテーブルの下を探しても、リモコンは見つからない。少し焦りながら、リモコンが入りそうな場所を一つずつ探し始めた。
 「昨日、確かにここに置いたはずなんだけどな…」
 ふと、昨夜のことを思い出す。バイト終わりに疲れて帰ってきて、ビデオ通話をしながらソファに座っていた。その後、リモコンを手にしたまま、どこかに置きっぱなしにした記憶がある。
 「まさか、どこかに埋もれてるとか?」
 ソファを動かし、カバーを外してクッションの隙間を探すが、出てきたのは細かいゴミと数枚のレシートだけ。ため息をつきながら、今度はカバンの中を確認する。
 「もしかして、持って出たとか?」
 念のため、玄関周りや靴箱も確認してみるが、リモコンはない。再び部屋に戻り、テレビ台の裏側も探ってみたが、埃が積もっているだけだった。
 「もう、どこ行ったんだよ…」
 仕方なく、スマホを取り出して、ひとみにメッセージを送る。
 「テレビのリモコンが見当たらなくて、ドラマが観られない…」
 すぐに返信が来た。
 「それ、わかる!私も前に同じことあって、結局冷蔵庫の中に入ってた。」
 「冷蔵庫って…なんでそこに?」
 「アイス食べながらテレビ観てたら、一緒に入れちゃったみたいで…」
 「それは斬新だな。いや、でも確かにありそうかも。」
 「意外と普段使わない場所に紛れちゃうこと多いよね。クローゼットとか。」
 「クローゼットか…試しに見てみる。」
 半信半疑ながら、クローゼットを開けてみた。中には就活用のスーツがかかっているが、リモコンの気配はない。ポケットを一つ一つ確認しても、もちろんない。
 「うーん、違うか。」
 「それじゃ、寝室とか?意外とベッド周りに紛れてたりしない?」
 「そうかも。」
 ベッドルームに移動し、枕の下や掛け布団を持ち上げる。すると、掛け布団の隙間から黒い物体がひょっこり顔を出した。
 「まさか、こんなところに…」
 手を伸ばして取り出すと、確かにそれはテレビのリモコンだった。どうやら、昨夜寝る前にドラマを観ようとして、そのまま布団に持ち込んだらしい。
 「やっと見つけた…」
 すぐにひとみに報告する。
 「ベッドの中にあったよ。どうやら寝る前に持ち込んでたみたい。」
 「それなら納得!意外と寝る直前って、無意識にいろんな物持ち込んじゃうよね。」
 「ほんとだよ。寝ぼけてたのかもしれない。」
 「でも、見つかって良かったね!これでゆっくりドラマ観られるじゃん。」
 「うん、ありがとう。三木さんがヒントくれなかったら、もっと時間かかってたかも。」
 「私も前にリモコン探して家中ひっくり返したから、気持ち分かるよ。」
 その共感が、なんとも心地よい。焦っているときに誰かが冷静にアドバイスをくれるだけで、こんなにも気持ちが楽になるのだと感じた。
 「やっぱり、三木さんがいると助かるな。」
 「ふふ、また何かあったら言ってね。」
 「もちろん。今からドラマ観るよ。」
 「楽しんでね!」
 その言葉にほっとしながら、リモコンを握りしめ、テレビの電源を入れる。録画リストから見たかったドラマを再生し、ようやくソファに腰を落ち着けた。
 「ふう、やっとリラックスできる…」
 ドラマの主人公が活躍するシーンが流れ、自然と笑みがこぼれる。ほんの些細なことだけれど、誰かに話すだけでこんなにも心が軽くなるのかと改めて思う。
 「やっぱり、こういう時間が一番いいな…」
 テレビの音が心地よく、温かい部屋の中で、少しだけ疲れが和らいでいく。次からはリモコンの定位置を決めようと心に決めた。何かあったとき、すぐに対処できる準備をしておけば、今日のような焦りは減るだろう。
 「次は、もう少し整理しておかないとな。」
 ほんの少し学んだ気持ちと、ひとみの支えに感謝しながら、今日もまた一つ成長できた気がした。穏やかな夜が続き、ドラマの物語に引き込まれながら、いつしか心が癒されていた。
 「今日はこれで良かったかもな…」
 そんなささやかな幸せを噛みしめながら、ソファでくつろぐ。小さなトラブルも笑いに変えられる、そんな日々がこれからも続いていけばいいと願いながら、画面に集中した。終