その日の夜、裕基はバイトから帰宅し、部屋に入るなりため息をついた。外は急に冷え込み、部屋の中もひんやりとしている。厚手のコートを脱ぎ捨て、手早くエアコンをつけようとリモコンを探した。
 「確か、テーブルの上に置いてたはずなんだけど…」
 手探りでテーブル周辺を探すが、リモコンが見当たらない。テレビの横やソファの隙間を覗き込むが、どこにもない。冷たい空気がじわじわと部屋に染み込み、焦りが募ってくる。
 「なんで、こんな時に限って見つからないんだよ…」
 寒さで手がかじかむ中、カバンの中や棚の上も一通り確認するが、リモコンの姿はない。ふと、朝の出がけに急いでいたことを思い出す。
 「まさか、どこかに放り投げたとか…?」
 一旦冷静になって、昨夜の自分の行動を振り返る。夜更かしして映画を観た後、そのままソファに倒れ込んで寝た記憶がある。
 「もしかして、ソファの下か?」
 ソファを動かしてみると、ホコリまみれの中に何かがキラリと光った。しゃがみこんで手を伸ばすと、予想通りそこにはエアコンのリモコンが転がっていた。
 「やっぱり…ここだったか。」
 ホコリを払い、リモコンを握りしめてエアコンの電源を入れる。冷えた部屋に暖かい風が吹き始め、ようやくほっと胸を撫で下ろす。
 「やっと暖かくなる…」
 少し安心したところで、スマホを取り出し、ひとみにメッセージを送る。
 「エアコンのリモコンがどこにもなくて焦ったけど、ソファの下から見つかった。」
 すぐに返信が来た。
 「あるある!私もリモコンをよくソファの隙間に落として、朝から大捜索してるよ。」
 「ほんと、それ。焦るし寒いしで、最悪だった。」
 「でも見つかって良かったね!エアコンないとこの時期はキツいよね。」
 「そうなんだよ。もう少しで凍えるところだったよ。」
 「リモコンって、なんであんなに失踪しがちなんだろうね?」
 「ほんとそれ。テレビのリモコンもよく失くすし、普段から決まった場所に置かなきゃダメだな。」
 「分かる!私もリモコン置き場を決めたら、少しだけマシになったよ。」
 「なるほど、その手があったか。」
 ひとみのアドバイスに頷きながら、次からはリモコン置き場をちゃんと作ろうと心に決めた。確かに、無意識に適当に置いてしまうことが多いから、探し物が絶えないのだ。
 「三木さんがいると、こういう時助かるよ。」
 「ふふ、私も石川君に相談すると安心するから、お互い様だよ。」
 その言葉が嬉しくて、自然と笑みがこぼれた。何かトラブルがあるたびに、ひとみに相談できることが心強い。彼女の何気ない言葉が、気持ちをすっと軽くしてくれる。
 「やっぱり、こういう日常が大事だな…」
 暖かい風が部屋中に広がり、じわじわと体の芯から温まっていく。冷たい空気でこわばっていた肩も、ようやくリラックスしてきた。
 「次からは、リモコン置き場を決めるってことで解決だな。」
 スマホを手に、もう一度ひとみに報告する。
 「とりあえず、リモコンの置き場所を固定することにするよ。」
 「うん、それが一番!また失くしたら大変だからね。」
 「本当に助かった。三木さん、ありがとう。」
 「いいえ、どういたしまして!石川君が無事に暖まれたなら安心だよ。」
 そう言ってくれる彼女の優しさが、暖房の風よりも暖かく感じた。誰かに支えられながら、こうして日々を乗り越えていくことが、どれだけ心強いかを実感する。
 「今日はこれで良かったかもな…」
 冷え切った体が徐々に解凍され、心もほぐれていく。エアコンの風が静かに部屋を満たし、穏やかな夜が訪れる。トラブルはあったけれど、それでも解決できた安心感が、今日一日の疲れを癒してくれる。
 「やっぱり、こうやって少しずつ改善していけばいいんだよな。」
 リモコンをきちんとテレビ台の上に置き、次に探すときの手間を省くために、そこを定位置にすることに決めた。部屋が暖まり、体も心もリラックスモードに入っていく。
 「明日も、こんな感じで乗り越えよう。」
 心の中でそう誓いながら、ゆっくりと温かい空気に包まれて目を閉じた。ひとみのアドバイスがあったからこそ、今日もまた小さな成長を感じることができた。終