その日の午後、裕基は就活の面接を終え、少し気持ちが軽くなっていた。面接の出来は上々で、質問にも的確に答えられた感触がある。久しぶりに「今日はやれた」という充実感を味わいながら、駅前のカフェに立ち寄った。
 「やっぱり、面接後は甘いものが欲しくなるな…」
 メニューを見て悩んだ末、期間限定のキャラメルフラペチーノを注文することにした。名前だけで甘さが伝わってくるようなドリンクで、見た目も華やかだ。店内の混雑を避け、テイクアウトにして外のベンチに腰掛けた。
 「こういう時間があると、ホッとするな…」
 受け取ったフラペチーノの蓋には、ストローを差し込むための小さな穴がついている。何気なくストローを手に取り、蓋の位置を確認せずに差し込んだ。
 「ん…?」
 違和感を覚えながら口元に持っていくが、ストローが見当たらない。首を傾げて確認すると、なんとコップの飲み口の反対側にストローが刺さっているではないか。
 「えっ…これ、どうしてこうなった?」
 改めて確認すると、蓋には二か所穴が開いており、ストローを入れるべき穴を見誤っていたのだ。慌ててストローを引き抜き、正しい穴に差し直す。
 「マジで恥ずかしい…」
 幸い、周りに人はいないが、一人でドタバタしている自分が情けなくなった。やっとのことでストローを差し直し、改めて一口飲む。キャラメルの甘さが口いっぱいに広がり、少しだけ気持ちが落ち着く。
 「こんな失敗、久しぶりだな…」
 スマホを取り出し、ひとみにメッセージを送る。
 「カフェでフラペチーノ買ったんだけどさ、ストローを反対側の穴に刺しちゃって、めっちゃ恥ずかしかった。」
 すぐに返信が来た。
 「それ、あるある!私も一度やったことあるよ。反対側にストロー差して、全然飲めなくて焦った。」
 「そうなんだよ。なんで反対側に刺しちゃうんだろうな…」
 「たぶん、蓋のデザインが分かりにくいのかも。私も一瞬、どっちが正しい穴か迷う時あるし。」
 「それ聞いて少し安心した。自分だけかと思って恥ずかしかったからさ。」
 「大丈夫だよ!むしろ、ちょっと可愛いミスだと思う。」
 「可愛いって…いや、恥ずかしいだけだよ。」
 「ふふ、石川君がそういうミスするの、ちょっと意外だったから新鮮かも。」
 その言葉に少し照れくささを感じながらも、心が軽くなった。ひとみと話していると、どんな些細な失敗も笑い話に変わっていくから不思議だ。
 「三木さんがそう言ってくれると、ちょっと気が楽になる。」
 「いいじゃん、甘いものが似合う石川君って感じで可愛いよ。」
 「いやいや、さすがにそれは違うだろ…」
 甘いドリンクをすすりながら、少しずつ気持ちが和んでいく。面接後の緊張感が解けたのか、体がじんわりとリラックスしていくのがわかった。
 「やっぱり、こういう何気ないやり取りが一番癒されるな…」
 ストローを噛みながら、ふと考える。面接ではしっかりと受け答えできたのに、こういう些細な部分で抜けてしまう自分がいる。しかし、その不完全さが自分らしさなのかもしれない。
 「まあ、失敗も含めて自分だよな。」
 スマホを手に取り、ひとみに再びメッセージを送る。
 「今日は面接うまくいったし、ストローのミスも含めて良い一日かも。」
 「それなら良かった!石川君が頑張った分、甘いもの食べて元気出してね。」
 「ありがとう。やっぱり、こうやって話すとホッとする。」
 「うん、私も石川君が頑張ってる話を聞けると嬉しいよ。」
 そのやり取りが自然と笑みを誘い、気持ちが少し温かくなった。些細なミスも笑い飛ばせる関係が、今の自分にとってどれだけ心強いか、改めて感じた。
 「今日はこれで良かったかもな…」
 冷たいフラペチーノをすすりながら、夕暮れの空を見上げた。ほんの少し赤みがかかった空が広がり、心の中のモヤモヤも徐々に晴れていくようだ。今日もまた、小さな失敗を一つ学んだ。次はもっと慎重に、でもそのミスすらも楽しめるように、自分らしく歩んでいけばいい。
 「やっぱり、こういう日も大事だよな。」
 穏やかな気持ちで最後の一口を飲み干し、カップを手にベンチから立ち上がった。次の一歩を踏み出すために、失敗も成長の糧として捉えられるように、これからも日々を大切にしていこうと心に決めた。
 「明日も、こうやって笑えたらいいな。」
 気持ちが軽くなった裕基は、駅に向かって歩き出した。秋の風が心地よく、背中を押してくれるような気がした。終