その日の夜、裕基はバイトを終えて帰宅した。疲れた体をベッドに投げ出し、スマホを手に取りながら、ふと数日前に見かけた動画のことを思い出した。就活の面接対策として、社会人マナーや受け答えのポイントを解説している動画で、保存しておこうと思っていたのだが、その時は「あとで見ればいいか」とタブを閉じてしまった。
 「確か、おすすめに出てきてたんだよな…」
 YouTubeを開き、履歴を遡ってみるが、動画のサムネイルがどうしても見つからない。関連動画も片っ端から探しているうちに、似たような別の動画ばかりが表示されて、だんだん焦りが募ってくる。
 「くそっ、なんで見つからないんだよ…」
 数日前の自分を責めながら、何度も検索ワードを変えて探してみる。しかし、膨大な数の動画がヒットし、肝心の動画には辿り着けない。気づけば30分以上経っており、疲労感がさらに増していた。
 「どうしても、あの動画が見たいんだよ…」
 あの時、すぐに保存しておけばよかったという後悔が頭をよぎる。思わずため息をつき、スマホを置いた。もやもやした気持ちを抱えたまま、ひとみにメッセージを送る。
 「数日前に見かけた就活動画を探してるんだけど、どうしても見つからなくてさ…」
 すぐに返信が来た。
 「それ、すごく分かる!『あとで見よう』って思ったやつ、見つからないとモヤモヤするよね。」
 「ほんとそれ。面接対策で使えそうだったから、ちゃんと保存すればよかったのに…」
 「私も料理動画とかでよくやっちゃう。結局、同じキーワードで探しても出てこないんだよね。」
 「そうなんだよ。あの時すぐにブックマークしとけばよかった。」
 「でも、ちょっと試してほしいことがあるんだけど、『高評価した動画』とか『あとで見るリスト』もチェックしてみた?」
 「それは見てなかったかも。ちょっと確認してみる。」
 言われた通りに、「高評価した動画」や「あとで見るリスト」をチェックしてみたが、そこにも該当の動画はなかった。やっぱり、あの時にちゃんと保存しなかった自分をまたしても責めたくなった。
 「やっぱり、なかったよ…」
 「そっか、残念だね。でも、その動画の内容、なんとなく覚えてる?」
 「確か、面接時の立ち振る舞いとか、目線の使い方を解説してたんだよな。」
 「それなら、似たようなキーワードで探してみるといいかも!最近は関連動画がどんどん更新されちゃうから、ちょっと違うワードを入れてみるといいよ。」
 「なるほど、確かにそうだな。」
 新たに「面接 立ち振る舞い 目線」などのワードで検索をかけてみると、似たような動画が何本か表示された。その中の一つを再生してみると、やや内容は異なるものの、基本的なマナーをわかりやすく解説してくれていた。
 「これ、意外といいかも…」
 すぐにブックマークし、高評価をつけて保存する。これで、次回から探す手間が省ける。
 「見つけたわけじゃないけど、似たような内容のやつ見つけたよ。」
 「良かった!それなら安心だね。動画って流れていっちゃうから、すぐに保存しないと危ないよね。」
 「ほんとだよ。今度からは、気になったらすぐにブックマークすることにする。」
 「うん、それが一番だね。でも、似たようなのが見つかって良かった!」
 その言葉にほっと胸を撫で下ろす。やっぱり、ひとみに相談すると、気持ちがすぐに落ち着く。自分だけで抱え込んでいたら、焦りだけが募っていたかもしれない。
 「三木さんがアドバイスしてくれたから、冷静になれたよ。ありがとう。」
 「私もよくやっちゃうから、共感できるだけだよ。石川君が落ち着けて良かった!」
 ようやく解決策が見つかり、気持ちが前向きになってきた。つい、効率ばかりを求めてしまって、その場ですぐ保存するという基本を忘れてしまっていた。次からは、見かけたらすぐに対応しようと心に決めた。
 「こういう小さな失敗が、意外と後々響くんだよな…」
 ベッドに横になり、イヤホンで動画を再生しながら、少しずつ気持ちを落ち着かせていく。ひとみがそばにいることで、どんなに小さなトラブルでも、前向きに受け止められる。それが、自分にとってどれだけ大切なことか、改めて感じた。
 「次は絶対に、すぐ保存しよう。」
 少しだけ自分を反省しながらも、今日の出来事を教訓に変えていく。音声が心地よく耳に響き、少しずつ眠気が訪れる。やがて、動画の声が遠く感じ始め、ゆっくりと瞼が閉じていった。
 「今日はこれで良かったかもな…」
 スマホを手にしたまま、いつの間にか眠りに落ちていた。夜の静けさが包み込み、ほんの少し成長できた自分を感じながら、明日を迎える準備をしていた。終