次の日の朝、裕基は少し早めに起きた。カーテンを開けると、昨日よりも明るく晴れ渡った空が広がっている。冷え込んだ空気がまだ部屋の中に残っているが、太陽の光がその冷たさを少しずつ溶かしているようだった。
 「今日は面接か…」
 昨日の説明会の帰り道、ひとみと「次も一緒に頑張ろう」と励まし合ったことで、少しだけ前向きになれた裕基は、今日の面接に向けて再び気合を入れていた。スーツを整え、ネクタイを結びながら、スマホで面接企業の情報をチェックする。
 「たしか、応募要項のスクショを撮ってたはず…」
 アルバムを開き、スクリーンショットを探す。だが、いくら探しても見当たらない。焦りが募り、指先が少し震える。
 「え…撮ったはずなのに、ない?」
 画面をスクロールしても、どこにも見つからない。確かに昨日、企業サイトを見て「スクリーンショットを撮った」と思ったのだが、どうやら撮れていなかったらしい。裕基は慌ててブラウザを開き、検索履歴を辿ってもう一度サイトを探そうとする。しかし、そのサイトも見つからない。
 「なんでだよ…」
 心の中で焦りが膨れ上がる。面接の持ち物や注意事項を確認しないまま出かけるのは不安だ。何とか冷静になろうと深呼吸を繰り返し、もう一度検索し直す。
 「頼むから出てくれ…」
 指先がスマホ画面を滑り、ようやく企業の公式サイトを見つけた。面接情報を確認し、再び慎重にスクリーンショットを撮る。今回はしっかりと保存されているのを確認し、ほっと胸をなでおろす。
 「これで大丈夫…」
 冷静になって考えれば、最初からもう一度調べればよかったのだが、焦っているとそんな当たり前のことも見えなくなる。裕基は少し自己嫌悪を感じつつ、鞄に資料を詰め直した。
 駅に向かう道すがら、スマホをポケットにしまいながら、ふと昨日の出来事を思い返す。どうしてこう、うまくいかない日が続くのだろう。裕基はため息をつきながら、少しうつむき加減に歩く。
 そんな時、スマホが再び震えた。画面を見ると、ひとみからのメッセージが届いている。
 「おはよう、今日は面接だよね?緊張するけど、お互い頑張ろうね!」
 その一言が、まるで温かな毛布のように心を包み込む。裕基は自然と微笑みがこぼれた。
 「ありがとう。実は、さっきちょっと焦ったけど、なんとか準備できたよ。三木さんも頑張って!」
 そう返信を送り、再び歩き出す。駅に着くと、ちょうど電車が入ってきた。少し混んでいたが、なんとかドア付近に立ち、電車の揺れに身を任せる。
 「今日は、うまくいくといいな…」
 自分に言い聞かせるように呟きながら、バッグの中の履歴書を確認する。準備は整っているはずだが、やはり不安は拭えない。窓に映る自分の顔が少し強ばっているのに気づき、深呼吸してリラックスを心がける。
 電車が目的の駅に到着し、裕基は人混みをかき分けて改札を出た。会場までの道を確認するためにスマホを取り出すと、再びひとみからメッセージが届いていた。
 「私も今、駅に着いたところ。お互い、笑顔で頑張ろうね!」
 その言葉が、不思議と勇気をくれる。自分ひとりではない。誰かが同じように頑張っている。それを知っているだけで、自然と背筋が伸びた。
 会場に向かう道は、朝の光が差し込み、街路樹の葉が輝いている。裕基はその光景を見ながら、今日の自分を信じて前に進むことを決めた。失敗するかもしれない。でも、挑戦しなければ何も変わらない。そう自分に言い聞かせながら、会場のビルを見上げる。
 「よし、やるぞ」
 心の中で固く誓い、ビルの自動ドアをくぐった。緊張と不安が入り混じった気持ちを抱えながらも、ひとみの言葉が背中を押してくれている気がした。今日もまた、小さな一歩を踏み出す裕基だった。
 終