その日の夕方、裕基はバイト帰りに街中を歩いていた。就活用の資料をまとめようと、文具店でノートや付箋を購入し、少しずつ準備を進めている。カバンの中には面接対策ノートがぎっしり詰まっており、気合が入っている証拠だった。
 「次の面接は絶対に失敗したくないからな…」
 歩きながら、ひとみに励ましのメッセージをもらっていたことを思い出し、スマホを取り出して確認しようとしたその瞬間——
 つるり。
 手が滑り、スマホがふわりと宙を舞った。スローモーションのように空中を回転し、アスファルトの地面へと急降下していく。裕基は思わず声を上げた。
 「うわっ!」
 無情にも、スマホはアスファルトに「ガツン」と音を立てて落下した。反射的に拾い上げ、画面を確認すると、心臓がバクバクと高鳴っている。
 「頼む…割れていないでくれ…」
 恐る恐る裏返してみると、ガラスフィルムには無数のヒビが走っていた。しかし、よく見ると、それは画面本体ではなく保護フィルムだけが割れているようだった。
 「なんとか助かったか…」
 息を吐き出しながら、腰が抜けそうになる。ヒヤヒヤとした心臓の鼓動がようやく落ち着き、スマホを慎重に握りしめた。
 「マジで焦った…」
 スマホを確認しながら、ひとみにメッセージを送る。
 「スマホ落として、画面割れたかと思って焦った。でも、フィルムだけで済んだ。」
 すぐに返信が来た。
 「えっ、それは心臓に悪いね!無事で良かったけど、めっちゃドキドキしたでしょ?」
 「本当にヤバかった。拾った時、画面がバキバキで冷や汗出たよ。」
 「私も一回やったことあるから分かる!一瞬で血の気が引く感じだよね。」
 「うん、地面に落ちる瞬間がスローモーションに見えたよ。」
 「でもフィルムだけなら、また貼り直せば大丈夫だし、スマホが無事で本当に良かったね!」
 その言葉に自然と笑みがこぼれ、少しだけ肩の力が抜けた。ひとみの共感が、緊張をほぐしてくれるのがありがたい。
 「そうだよな。次からはちゃんとケース付けようかな。」
 「うん、私もそれで学んでから手帳型ケースにしたよ!」
 「手帳型か…考えたことなかったけど、安全面では良さそうだな。」
 「そうそう、画面を覆えるから、もし落ちても安心感があるよ。」
 そのアドバイスに納得し、次にスマホショップで手帳型ケースを探してみようと心に決めた。今日はたまたまフィルムだけで済んだけれど、次に割れてしまったら取り返しがつかない。
 「三木さんのおかげで、次の対策が見えたよ。ありがとう。」
 「無事で本当に良かった!石川君のスマホ、情報いっぱい入ってるから、壊れたら困るよね。」
 「そうなんだよ。就活関連のデータも全部入ってるし、壊れたら一大事だ。」
 「バックアップも取っておいた方がいいかもね。」
 「うん、それもやっておくよ。」
 ひとみの冷静なアドバイスが、妙に頼もしく感じられた。普段なら動揺してしまうところも、こうして客観的に話を聞いてもらえることで、すぐに次の行動を考えられる。
 駅に着き、電車に乗り込むと、もう一度スマホを確認する。画面そのものは無事で、操作にも問題はない。保護フィルムがクッションの役割を果たしてくれたおかげで、最悪の事態は免れた。
 「ほんとに、危なかったな…」
 電車が動き出し、揺れに身を預けながら、スマホを握りしめた。就活が続く中で、スマホは情報収集やスケジュール管理の必須アイテムだ。万が一にも壊れると困るので、今後はもっと慎重に扱おうと心に誓った。
 「ちゃんとケース買おう…」
 次の駅で乗り換えのために降りると、再びひとみからのメッセージが届いた。
 「家に着いたら、スマホのバックアップ取っておくと安心だよ!」
 「そうだな、今まで何もしてなかったけど、これを機にやっておく。」
 「やっぱり石川君って、行動が早いよね。すごいと思う!」
 「いや、三木さんに言われなかったら多分そのままだったよ。」
 「そうかな?でも、無事で良かった!」
 自然と笑みがこぼれ、少しだけ心が温かくなった。誰かにこうして心配してもらえるだけで、些細なトラブルも乗り越えられる気がする。普段の自分なら、こういう時に一人で悶々としてしまうが、ひとみがいるだけで心の支えになっているのだと実感した。
 「今日はこれで良かったかもな。」
 少しずつ冷え込んできた夜の街を歩きながら、スマホを大事にポケットにしまい、慎重に歩を進めた。今度は絶対に落とさないように、そう心に決めながら、家路を急ぐ。
 「次からはもっと気をつけよう。」
 自分の不注意を反省しながらも、無事に済んだことに感謝しつつ、今日もまたひとみのおかげで救われたことを噛みしめた。終わり良ければ全て良し。そんな気持ちを胸に、少しだけ軽やかな足取りで家に帰った。
 終