その日の夕方、裕基はアルバイトの帰り道にふとコンビニに立ち寄った。冷たい風が吹き付けてくる中、温かいコーヒーでも買って一息つこうと思ったのだ。仕事帰りの通勤客で混み合うコンビニの中、レジには長蛇の列ができていた。
「今日は混んでるな…」
コーヒーの紙カップを手に持ち、列の最後尾に並ぶ。レジは二台稼働しているが、どちらもスーツ姿の男性が会計に手間取っているようで、なかなか進まない。しばらく待っていると、ようやく裕基の順番が近づいてきた。
「あと一人か…」
前に並んでいたのは中年のサラリーマンで、弁当とビールをカゴに入れている。レジ担当の店員は若いアルバイトの女性で、慣れていない様子が見て取れた。商品のバーコードを読み取るたびに少し戸惑っている。
「すみません、ポイントカードはお持ちですか?」
「ええ、ここに…あれ、どこに入れたかな…」
サラリーマンがカバンの中をガサゴソと探している間、店員は少し焦った表情で待っている。裕基は自然とため息をつきそうになり、スマホを取り出して時間を確認した。
「まあ、急いでるわけじゃないし、気長に待とう。」
ようやくサラリーマンがポイントカードを取り出し、会計が進んだと思ったその時——
「ピッ…ピッ…」
レジ画面が突然フリーズし、店員が慌てたようにボタンを連打している。
「あれ、すみません、ちょっとレジが固まってしまって…」
サラリーマンも困った顔で「時間ないんだけど…」とぼやく。店員は奥にいる先輩らしき男性を呼び、操作を代わってもらうが、どうやらシステムエラーのようで、復旧に時間がかかりそうだった。
「マジかよ…」
ようやく自分の番だと思っていた裕基は、またしても順番が遠のいた気がして、がっくりと肩を落とす。もう一つのレジも列が長く、移動するのもためらわれた。
スマホを取り出して、ひとみにメッセージを送る。
「コンビニのレジ、俺の番直前でトラブル発生。もう10分くらい待ってる…」
すぐに返信が来た。
「それ、地味に辛いやつ!私も前にレジトラブルで待たされて、途中で諦めたことあるよ。」
「今さら他のレジに並び直すのも微妙でさ。コーヒーだけなのに、めっちゃ時間かかってる。」
「待たされると、余計に長く感じるよね。でも、もう少し我慢してみたら?」
「そうだな、ここまで待ったし、今さら戻れないし。」
そのやり取りが少しだけ気を紛らわせてくれる。やがて、先輩店員が「すみません、お待たせしました」と頭を下げ、レジがようやく復旧した。
「大変でしたね。」
「すみません、ご迷惑をおかけしました…」
サラリーマンがようやく会計を終え、ほっとした顔で去っていく。ようやく裕基の番が来て、コーヒーをレジに置いた。
「これお願いします。」
「かしこまりました!」
少し気まずそうに笑う店員が、素早くバーコードを読み取り、スムーズに会計を済ませた。コーヒーを手に店を出ると、冷えた指先がじんわりと温かさを感じてくる。
「やっと買えた…」
スマホを取り出して、ひとみに報告する。
「無事にコーヒーゲットしたよ。結局、レジ復旧に15分くらいかかった。」
「お疲れ様!それは長かったね。でも、ちゃんと買えて良かった!」
「ほんとだよ。寒かったから、温かいコーヒーが恋しかった。」
「ふふ、石川君、いつも我慢強いよね。」
「いや、さすがに今日は少しイライラしてたけど、三木さんに話せたから少し気持ちが軽くなった。」
「私も石川君の頑張りを聞けて、ほっとしたよ。」
その言葉に自然と微笑んだ。イライラが続くときも、こうして誰かと共有できるだけで、不思議と心が軽くなる。ひとみの存在が、日々のストレスを和らげてくれるのだと改めて感じた。
「今日はこれで良かったかもな…」
温かいコーヒーを一口飲み、ほっとした気持ちで家路を歩く。冷たい風が吹き抜ける中、コーヒーの温かさが身に染みて、自然と肩の力が抜けていった。
「次からは、混んでる時間を避けて買い物しようかな。」
そんな小さな反省をしながら、今夜はゆっくり休もうと心に決めた。少しずつ心が軽くなっていく中、夜空の星が淡く瞬いていた。
終
「今日は混んでるな…」
コーヒーの紙カップを手に持ち、列の最後尾に並ぶ。レジは二台稼働しているが、どちらもスーツ姿の男性が会計に手間取っているようで、なかなか進まない。しばらく待っていると、ようやく裕基の順番が近づいてきた。
「あと一人か…」
前に並んでいたのは中年のサラリーマンで、弁当とビールをカゴに入れている。レジ担当の店員は若いアルバイトの女性で、慣れていない様子が見て取れた。商品のバーコードを読み取るたびに少し戸惑っている。
「すみません、ポイントカードはお持ちですか?」
「ええ、ここに…あれ、どこに入れたかな…」
サラリーマンがカバンの中をガサゴソと探している間、店員は少し焦った表情で待っている。裕基は自然とため息をつきそうになり、スマホを取り出して時間を確認した。
「まあ、急いでるわけじゃないし、気長に待とう。」
ようやくサラリーマンがポイントカードを取り出し、会計が進んだと思ったその時——
「ピッ…ピッ…」
レジ画面が突然フリーズし、店員が慌てたようにボタンを連打している。
「あれ、すみません、ちょっとレジが固まってしまって…」
サラリーマンも困った顔で「時間ないんだけど…」とぼやく。店員は奥にいる先輩らしき男性を呼び、操作を代わってもらうが、どうやらシステムエラーのようで、復旧に時間がかかりそうだった。
「マジかよ…」
ようやく自分の番だと思っていた裕基は、またしても順番が遠のいた気がして、がっくりと肩を落とす。もう一つのレジも列が長く、移動するのもためらわれた。
スマホを取り出して、ひとみにメッセージを送る。
「コンビニのレジ、俺の番直前でトラブル発生。もう10分くらい待ってる…」
すぐに返信が来た。
「それ、地味に辛いやつ!私も前にレジトラブルで待たされて、途中で諦めたことあるよ。」
「今さら他のレジに並び直すのも微妙でさ。コーヒーだけなのに、めっちゃ時間かかってる。」
「待たされると、余計に長く感じるよね。でも、もう少し我慢してみたら?」
「そうだな、ここまで待ったし、今さら戻れないし。」
そのやり取りが少しだけ気を紛らわせてくれる。やがて、先輩店員が「すみません、お待たせしました」と頭を下げ、レジがようやく復旧した。
「大変でしたね。」
「すみません、ご迷惑をおかけしました…」
サラリーマンがようやく会計を終え、ほっとした顔で去っていく。ようやく裕基の番が来て、コーヒーをレジに置いた。
「これお願いします。」
「かしこまりました!」
少し気まずそうに笑う店員が、素早くバーコードを読み取り、スムーズに会計を済ませた。コーヒーを手に店を出ると、冷えた指先がじんわりと温かさを感じてくる。
「やっと買えた…」
スマホを取り出して、ひとみに報告する。
「無事にコーヒーゲットしたよ。結局、レジ復旧に15分くらいかかった。」
「お疲れ様!それは長かったね。でも、ちゃんと買えて良かった!」
「ほんとだよ。寒かったから、温かいコーヒーが恋しかった。」
「ふふ、石川君、いつも我慢強いよね。」
「いや、さすがに今日は少しイライラしてたけど、三木さんに話せたから少し気持ちが軽くなった。」
「私も石川君の頑張りを聞けて、ほっとしたよ。」
その言葉に自然と微笑んだ。イライラが続くときも、こうして誰かと共有できるだけで、不思議と心が軽くなる。ひとみの存在が、日々のストレスを和らげてくれるのだと改めて感じた。
「今日はこれで良かったかもな…」
温かいコーヒーを一口飲み、ほっとした気持ちで家路を歩く。冷たい風が吹き抜ける中、コーヒーの温かさが身に染みて、自然と肩の力が抜けていった。
「次からは、混んでる時間を避けて買い物しようかな。」
そんな小さな反省をしながら、今夜はゆっくり休もうと心に決めた。少しずつ心が軽くなっていく中、夜空の星が淡く瞬いていた。
終



