その日の夕方、裕基は会社説明会を終え、駅ビルに立ち寄っていた。少しだけ気分転換をしようと、本屋で就活関連の書籍を物色し、その後にカフェで一息ついた。少し頭を整理したい気分だったが、時間も押してきたため早々に帰路につくことにした。
「今日はこれくらいでいいか…」
駅ビルのエレベーターに乗り込むと、他に人はいなかった。ボタンを押し、中の鏡に映った自分の姿を見て軽くネクタイを直す。ふと「閉」ボタンを押して扉がゆっくりと閉まりかけたその瞬間、エレベーターの外から慌てた足音が聞こえた。
「すみません、待ってください!」
反射的に「開」ボタンを押そうとしたが、扉はすでにほぼ閉まりかけている。わずかな隙間から、女性が駆け寄ってくる姿が見えたが、扉が無情にもカチリと音を立てて完全に閉まってしまった。
「あ…やっちゃった…」
裕基は思わず舌打ちしそうになり、少し後悔が胸を刺した。ほんの一瞬、迷わず「開」ボタンを押せていれば乗れたはずだ。それなのに、「閉」ボタンを押した後の僅かなタイムラグが、その女性を締め出してしまった。
「まさか、あんなタイミングで来るとは…」
次の階までの短い時間、反省の気持ちがぐるぐると頭を巡る。降りた時にその女性が待っていたら、きっと気まずいだろうなと思いながら、スマホを取り出してひとみにメッセージを送る。
「エレベーターで閉ボタン押した瞬間に、誰かが乗ろうとしてて、結局乗せられなかった…」
すぐに返信が来た。
「それ、めっちゃ気まずいよね!私も同じことやっちゃって、降りた時にめっちゃ睨まれたことある。」
「やっぱりあるんだ…どうしていいかわからなくて、すごく申し訳ない気持ちになってる。」
「仕方ないよ!タイミング悪かっただけだし、相手もそこまで気にしてないかも。」
「そうだといいけど…降りた時にいたらどうしよう。」
「その時は素直に謝れば大丈夫だよ。悪気があったわけじゃないんだから。」
その言葉に少し心が軽くなった。確かに、わざと閉めたわけではない。とはいえ、自分のせいでその女性が一つ遅れることになったのは事実だ。次の階で扉が開いたが、幸いにも女性はそこにはいなかった。
「助かった…」
エレベーターを降り、駅の改札へと向かう。少し早足になってしまう自分が、なんだか小心者に見えて恥ずかしい。しかし、ひとみに相談できたことで、少しだけ気持ちが楽になった。
「三木さん、無事に降りれたよ。あの人、別のエレベーターに乗ったみたい。」
「良かったね!変に気まずい空気にならずに済んで安心したよ。」
「本当に。次からはもっと余裕を持って、閉める前に周りを確認しようと思う。」
「そうそう!エレベーターって意外と急ぎたくなるけど、ゆっくりで大丈夫だよ。」
そのやり取りに自然と笑みがこぼれた。急いでいると、どうしても「閉」ボタンを先に押してしまう癖がある自分に反省しながらも、次からは少し気をつけようと心に決めた。
「でも、急いでる時ってどうしても焦るよな…」
「うん、特に一人の時って気が抜けちゃうからね。でも、今日は無事に乗れたし、それでOK!」
「ありがとう。こうして話せたから、少し気持ちが楽になったよ。」
「ふふ、石川君って本当に優しいね。そうやって反省できるの、素敵だと思う。」
その言葉が胸にしみて、自然と顔が熱くなる。自分ではそんなつもりはないが、ひとみがそう言ってくれるだけで救われた気持ちになる。
駅のホームに立ち、次の電車を待ちながら、また少し反省した自分がいる。焦ってしまう癖を直すためには、日頃からもう少し心に余裕を持つことが大切だ。
「やっぱり、落ち着くことが大事だな…」
電車がホームに滑り込み、ドアが開く。乗り込むと座席が空いていたため、腰を下ろし、ようやく心が落ち着いた。
「今日はこれで良かったのかもな。」
ひとみにもう一度メッセージを送る。
「今、電車乗った。焦らずに行動するように心がけるよ。」
「うん、それが一番だよ。石川君ならきっと大丈夫!」
その返信を見て、もう一度深呼吸をした。ささいな出来事が、こうして自分の行動を見直すきっかけになるのは、ひとみがそばで支えてくれるからだ。自分がどれだけ彼女に助けられているかを、改めて実感した。
「よし、次はもう少し余裕を持って動こう。」
電車が揺れながら走り出し、窓の外に流れる街並みが夕焼けに染まっている。今日もなんとか乗り切れたことに感謝しながら、裕基は穏やかな気持ちで帰路に着いた。
終
「今日はこれくらいでいいか…」
駅ビルのエレベーターに乗り込むと、他に人はいなかった。ボタンを押し、中の鏡に映った自分の姿を見て軽くネクタイを直す。ふと「閉」ボタンを押して扉がゆっくりと閉まりかけたその瞬間、エレベーターの外から慌てた足音が聞こえた。
「すみません、待ってください!」
反射的に「開」ボタンを押そうとしたが、扉はすでにほぼ閉まりかけている。わずかな隙間から、女性が駆け寄ってくる姿が見えたが、扉が無情にもカチリと音を立てて完全に閉まってしまった。
「あ…やっちゃった…」
裕基は思わず舌打ちしそうになり、少し後悔が胸を刺した。ほんの一瞬、迷わず「開」ボタンを押せていれば乗れたはずだ。それなのに、「閉」ボタンを押した後の僅かなタイムラグが、その女性を締め出してしまった。
「まさか、あんなタイミングで来るとは…」
次の階までの短い時間、反省の気持ちがぐるぐると頭を巡る。降りた時にその女性が待っていたら、きっと気まずいだろうなと思いながら、スマホを取り出してひとみにメッセージを送る。
「エレベーターで閉ボタン押した瞬間に、誰かが乗ろうとしてて、結局乗せられなかった…」
すぐに返信が来た。
「それ、めっちゃ気まずいよね!私も同じことやっちゃって、降りた時にめっちゃ睨まれたことある。」
「やっぱりあるんだ…どうしていいかわからなくて、すごく申し訳ない気持ちになってる。」
「仕方ないよ!タイミング悪かっただけだし、相手もそこまで気にしてないかも。」
「そうだといいけど…降りた時にいたらどうしよう。」
「その時は素直に謝れば大丈夫だよ。悪気があったわけじゃないんだから。」
その言葉に少し心が軽くなった。確かに、わざと閉めたわけではない。とはいえ、自分のせいでその女性が一つ遅れることになったのは事実だ。次の階で扉が開いたが、幸いにも女性はそこにはいなかった。
「助かった…」
エレベーターを降り、駅の改札へと向かう。少し早足になってしまう自分が、なんだか小心者に見えて恥ずかしい。しかし、ひとみに相談できたことで、少しだけ気持ちが楽になった。
「三木さん、無事に降りれたよ。あの人、別のエレベーターに乗ったみたい。」
「良かったね!変に気まずい空気にならずに済んで安心したよ。」
「本当に。次からはもっと余裕を持って、閉める前に周りを確認しようと思う。」
「そうそう!エレベーターって意外と急ぎたくなるけど、ゆっくりで大丈夫だよ。」
そのやり取りに自然と笑みがこぼれた。急いでいると、どうしても「閉」ボタンを先に押してしまう癖がある自分に反省しながらも、次からは少し気をつけようと心に決めた。
「でも、急いでる時ってどうしても焦るよな…」
「うん、特に一人の時って気が抜けちゃうからね。でも、今日は無事に乗れたし、それでOK!」
「ありがとう。こうして話せたから、少し気持ちが楽になったよ。」
「ふふ、石川君って本当に優しいね。そうやって反省できるの、素敵だと思う。」
その言葉が胸にしみて、自然と顔が熱くなる。自分ではそんなつもりはないが、ひとみがそう言ってくれるだけで救われた気持ちになる。
駅のホームに立ち、次の電車を待ちながら、また少し反省した自分がいる。焦ってしまう癖を直すためには、日頃からもう少し心に余裕を持つことが大切だ。
「やっぱり、落ち着くことが大事だな…」
電車がホームに滑り込み、ドアが開く。乗り込むと座席が空いていたため、腰を下ろし、ようやく心が落ち着いた。
「今日はこれで良かったのかもな。」
ひとみにもう一度メッセージを送る。
「今、電車乗った。焦らずに行動するように心がけるよ。」
「うん、それが一番だよ。石川君ならきっと大丈夫!」
その返信を見て、もう一度深呼吸をした。ささいな出来事が、こうして自分の行動を見直すきっかけになるのは、ひとみがそばで支えてくれるからだ。自分がどれだけ彼女に助けられているかを、改めて実感した。
「よし、次はもう少し余裕を持って動こう。」
電車が揺れながら走り出し、窓の外に流れる街並みが夕焼けに染まっている。今日もなんとか乗り切れたことに感謝しながら、裕基は穏やかな気持ちで帰路に着いた。
終



