その夜、裕基は就活の疲れを癒すために、自宅で久しぶりにゲームをしようと考えていた。最近は面接や企業説明会で忙しく、趣味に時間を割けていなかったため、今日は気分転換にアクションゲームを楽しもうと思っていた。
 「よし、久々にやるか。」
 リビングのテレビをつけ、ゲーム機のコントローラーを手に取る。しかし、電源ボタンを押しても、まったく反応がない。ボタンを連打してみるが、LEDランプが一瞬も光らない。
 「え、嘘だろ…」
 嫌な予感がして、コントローラーの裏蓋を開けると、乾電池が二本収まっている。しかし、手に取ってみると妙に軽い。どうやら、電池が完全に切れているようだ。
 「まさか…電池、切れてたのか…」
 部屋の中を見回しながら、電池のストックを探す。以前まとめ買いしたはずの電池を思い出し、引き出しを引っ掻き回すが、空のパッケージだけが出てきた。
 「うわ…全部使い切ってたのか…」
 ため息をつきながら、スマホを手に取り、ひとみにメッセージを送る。
 「ゲームしようと思ったら、コントローラーの電池切れてた…予備もない。」
 すぐにひとみから返信が来た。
 「あるある!私もリモコンの電池切れて、夜中に慌ててコンビニ行ったことあるよ。」
 「そうなんだよね…電池って、あると思ってる時に限ってないんだよ。」
 「そうそう!普段意識してないから、いざという時に困るんだよね。」
 その言葉に少しだけ笑みがこぼれる。確かに、電池なんて普段は気にしないが、切れて初めてその重要さに気づかされる。ゲームを諦めて別のことをしようかとも思ったが、せっかくやる気になっていたので、コンビニまで行くことに決めた。
 「ちょっとコンビニ行ってくるわ。」
 「気をつけてね!」
 夜の街は少し冷え込んでいて、アパートを出た瞬間に肌寒さを感じた。ジャケットの襟を立てながら歩き、近くのコンビニへ向かう。途中で街灯がちらほらと光り、風が吹くたびに落ち葉が足元を転がっていく。
 「なんか、こんなことで外に出るのも馬鹿らしいけど…」
 そう呟きつつも、少し夜の散歩が気持ち良く感じられた。コンビニに入ると、明るい店内が迎えてくれる。乾電池売り場に直行し、単三電池を手に取った。
 「これでようやくゲームできる…」
 レジで支払いを済ませ、袋を片手に店を出ると、少し遠くの自販機で缶コーヒーを買ってベンチに座った。夜風が心地よく、ひと息つくと疲れがじんわりとほぐれていく。
 スマホを取り出して、ひとみにメッセージを送る。
 「無事に電池買えた。ついでに夜風に当たってる。」
 「いいね!夜の散歩もリフレッシュになるよね。」
 「そうだな、最初は面倒だったけど、外に出て正解だったかも。」
 「帰ったら思いっきりゲーム楽しんでね!」
 「ありがと。三木さんが話聞いてくれたおかげで、気持ちが切り替わったよ。」
 「ふふ、何かに集中して遊ぶのって大事だよね!」
 缶コーヒーを飲み干し、空き缶をゴミ箱に捨てると、ようやく気持ちがスッキリした。無駄足になったと思っていたけれど、外の空気を吸うことで気分転換になった気がする。
 「よし、帰ってゲームするか。」
 帰宅してすぐ、購入した電池をコントローラーにセットし、電源を入れる。無事にLEDランプが点滅し、ゲーム機が起動した瞬間、ほっと胸を撫で下ろす。
 「やっとできる…!」
 ゲーム画面が表示され、BGMが心地よく響く。久々に手に取るコントローラーの感触が、なんだか懐かしい。画面越しに見るキャラクターが、まるで「おかえり」と言っているようで、自然と笑顔がこぼれた。
 「これこれ…これがやりたかったんだよな。」
 しばらくプレイしていると、またひとみからメッセージが届いた。
 「ゲームできた?」
 「うん、今ちょうど始めたところ。やっぱりこれが最高のリフレッシュかも。」
 「良かった!たまには思いっきり遊んでね!」
 「ありがとう。次に会ったときは、このゲームの話でもしよう。」
 「うん、楽しみにしてる!」
 気の合う誰かとこうして話ができることが、何よりも心の支えになっていると感じた。面倒だと思った夜のコンビニも、結果的には良い気分転換になったし、こうしてゲームを楽しめることが何よりも嬉しい。
 「次からはちゃんと電池のストックを確認しておこう。」
 そんなささやかな教訓を胸に、ゲームの世界に没頭する。忙しい日々の中でこうして自分だけの時間を持つことが、少しずつ心を豊かにしてくれるのだと実感しながら、今日も一歩ずつ前に進んでいく。
 終