夕方、裕基は面接を終え、最寄り駅に向かって歩いていた。面接は無事に終わったが、予想以上に緊張してしまい、喉がカラカラに乾いている。早く冷たい飲み物が欲しいと思いながら、駅前の自動販売機に向かった。
「何にしようかな…」
並んだ缶コーヒーや炭酸飲料を眺めた結果、疲労回復を狙ってエナジードリンクを選ぶことにした。ボタンを押し、財布から小銭を取り出して投入。ガタンと音を立てて、缶が取り出し口に落ちた。
「よし、これで一息つける…」
そう思って取り出し口に手を伸ばしたが、思った以上に奥まっていることに気づく。仕方なく手を深く突っ込むが、指先にわずかに缶の感触が触れるだけで、しっかりとつかむことができない。
「なんだこれ、取りづらい…」
もう一度、手をめいっぱい伸ばしてみるが、缶が微妙に転がり、ますます手が届かない。イライラしながら、指先でちょんちょんと突いてみるが、余計に缶が奥に入り込んでしまった。
「くそっ、なんでこんな取りづらいんだよ…」
隣にある別の自販機をちらりと見ると、取り出し口はもっと手前にあるのに、この機種だけが異様に奥まっている。設計ミスじゃないかと思うほどの不便さに、自然とため息が漏れる。
スマホを取り出し、ひとみにメッセージを送った。
「自販機でジュース買ったんだけど、取り出し口が奥すぎて全然取れない…」
すぐに返信が来た。
「それ、わかる!なんであんなに奥なのか謎だよね。私も前に手が届かなくて、指先だけでちょっとずつ転がして出したよ。」
「まさに今、その状態だよ。なんか悔しい…」
「奥に入りすぎてるときは、手を水平に突っ込んで、指先で引っ掛ける感じにすると取りやすいかも。」
「なるほど、やってみる。」
ひとみのアドバイスを思い出し、手を水平にして取り出し口に突っ込み、指先で慎重に缶を引っ掛けてみた。少しずつだが、確かに缶が前に動いてきた。
「お、いけるか…?」
最後の一押しで手のひらに缶が収まり、ようやく取り出すことができた。手の甲には少し擦れた痕が残っているが、無事に取り出せた安堵感の方が勝っている。
「取れた!アドバイス通りにしたら、なんとか出せたよ。」
ひとみから「やったね!石川君、頑張ったね(笑)」と返信が届き、思わず笑ってしまう。
「こんなことで苦戦するなんて思わなかったよ…」
「でも、頑張って取ったジュースはきっと美味しいはず!」
缶のプルタブを引き、勢いよく一口飲む。冷たい炭酸が喉を潤し、疲れた体に染み渡る。ふぅっと息をつきながら、苦労した分だけこの一口が格別に感じられた。
「ほんとだ、めちゃくちゃ美味しい。」
駅前のベンチに腰掛けて、缶を手に取りながらぼんやりと景色を眺める。人々が忙しそうに通り過ぎる中、自分だけが時間をゆっくり楽しんでいるようで、少し優越感すら覚える。
「今日もなんとか乗り切れたな…」
ひとみに再びメッセージを送る。
「今日はこれでリフレッシュできた。ありがとな、三木さん。」
「どういたしまして!石川君が頑張ってるの知ってるから、私も応援したいんだよね。」
その言葉に胸がじんわりと温かくなり、自然と笑顔がこぼれる。日常のささいなトラブルでも、こうして誰かと共有できることがどれだけ救いになるかを改めて感じた。
「三木さんがいてくれると、本当に助かるよ。俺、すぐ焦っちゃうからさ。」
「そんな石川君も可愛いと思うけどね。」
「からかうなよ…」
ひとみとのやり取りが妙に心地よく、少し照れくささを感じながら缶を傾ける。仕事や面接で失敗しても、こうして誰かと笑い合える時間があるだけで、気持ちが楽になるのだ。
缶を飲み干し、最後の一口が喉を通ると、少しだけ元気が湧いてきた。今日一日の疲れが和らぎ、もう少し頑張ろうという気持ちが自然と湧き上がる。
「よし、もう一踏ん張りだ。」
駅に向かって歩き出し、周囲のざわめきが心地よく耳に届く。日常の小さな出来事を笑い飛ばせるようになったのは、きっとひとみがいてくれるからだ。そんなささやかな幸せを感じながら、裕基は次の目的地へと歩みを進めた。
終
「何にしようかな…」
並んだ缶コーヒーや炭酸飲料を眺めた結果、疲労回復を狙ってエナジードリンクを選ぶことにした。ボタンを押し、財布から小銭を取り出して投入。ガタンと音を立てて、缶が取り出し口に落ちた。
「よし、これで一息つける…」
そう思って取り出し口に手を伸ばしたが、思った以上に奥まっていることに気づく。仕方なく手を深く突っ込むが、指先にわずかに缶の感触が触れるだけで、しっかりとつかむことができない。
「なんだこれ、取りづらい…」
もう一度、手をめいっぱい伸ばしてみるが、缶が微妙に転がり、ますます手が届かない。イライラしながら、指先でちょんちょんと突いてみるが、余計に缶が奥に入り込んでしまった。
「くそっ、なんでこんな取りづらいんだよ…」
隣にある別の自販機をちらりと見ると、取り出し口はもっと手前にあるのに、この機種だけが異様に奥まっている。設計ミスじゃないかと思うほどの不便さに、自然とため息が漏れる。
スマホを取り出し、ひとみにメッセージを送った。
「自販機でジュース買ったんだけど、取り出し口が奥すぎて全然取れない…」
すぐに返信が来た。
「それ、わかる!なんであんなに奥なのか謎だよね。私も前に手が届かなくて、指先だけでちょっとずつ転がして出したよ。」
「まさに今、その状態だよ。なんか悔しい…」
「奥に入りすぎてるときは、手を水平に突っ込んで、指先で引っ掛ける感じにすると取りやすいかも。」
「なるほど、やってみる。」
ひとみのアドバイスを思い出し、手を水平にして取り出し口に突っ込み、指先で慎重に缶を引っ掛けてみた。少しずつだが、確かに缶が前に動いてきた。
「お、いけるか…?」
最後の一押しで手のひらに缶が収まり、ようやく取り出すことができた。手の甲には少し擦れた痕が残っているが、無事に取り出せた安堵感の方が勝っている。
「取れた!アドバイス通りにしたら、なんとか出せたよ。」
ひとみから「やったね!石川君、頑張ったね(笑)」と返信が届き、思わず笑ってしまう。
「こんなことで苦戦するなんて思わなかったよ…」
「でも、頑張って取ったジュースはきっと美味しいはず!」
缶のプルタブを引き、勢いよく一口飲む。冷たい炭酸が喉を潤し、疲れた体に染み渡る。ふぅっと息をつきながら、苦労した分だけこの一口が格別に感じられた。
「ほんとだ、めちゃくちゃ美味しい。」
駅前のベンチに腰掛けて、缶を手に取りながらぼんやりと景色を眺める。人々が忙しそうに通り過ぎる中、自分だけが時間をゆっくり楽しんでいるようで、少し優越感すら覚える。
「今日もなんとか乗り切れたな…」
ひとみに再びメッセージを送る。
「今日はこれでリフレッシュできた。ありがとな、三木さん。」
「どういたしまして!石川君が頑張ってるの知ってるから、私も応援したいんだよね。」
その言葉に胸がじんわりと温かくなり、自然と笑顔がこぼれる。日常のささいなトラブルでも、こうして誰かと共有できることがどれだけ救いになるかを改めて感じた。
「三木さんがいてくれると、本当に助かるよ。俺、すぐ焦っちゃうからさ。」
「そんな石川君も可愛いと思うけどね。」
「からかうなよ…」
ひとみとのやり取りが妙に心地よく、少し照れくささを感じながら缶を傾ける。仕事や面接で失敗しても、こうして誰かと笑い合える時間があるだけで、気持ちが楽になるのだ。
缶を飲み干し、最後の一口が喉を通ると、少しだけ元気が湧いてきた。今日一日の疲れが和らぎ、もう少し頑張ろうという気持ちが自然と湧き上がる。
「よし、もう一踏ん張りだ。」
駅に向かって歩き出し、周囲のざわめきが心地よく耳に届く。日常の小さな出来事を笑い飛ばせるようになったのは、きっとひとみがいてくれるからだ。そんなささやかな幸せを感じながら、裕基は次の目的地へと歩みを進めた。
終



