その日の夜、裕基は久しぶりにゆっくりと自宅で過ごしていた。就活が続き、気持ちも体も疲れ果てていたため、今日はリラックスして映画でも観ようと思い立った。家の近くのレンタルショップで借りてきたかった映画があり、スマホで在庫状況をチェックすると「在庫あり」と表示されている。
 「よし、これで決まりだな。」
 ひとみにメッセージを送りながら、リュックを背負ってアパートを出た。
 「今日は映画観てリフレッシュすることにした。面白そうなやつ見つけたんだよ。」
 ひとみからすぐに返信が来た。
 「いいね!映画は気分転換に最高だよね。どんなの観るの?」
 「ちょっと話題になってたアクション映画。ストーリーも面白そうでさ。」
 「おお、いいね!楽しんできてね!」
 商店街を抜けてレンタルショップに到着すると、店内には平日の夜にもかかわらず意外と人が多い。映画コーナーに直行し、目的のアクション映画を探す。ところが、棚を見渡しても、肝心のパッケージが一つもない。
 「え、まさか…」
 レンタル済みの札がかけられた場所ばかりが目につく。スマホで確認した時は「在庫あり」となっていたのに、どうやらタイミングが悪かったらしい。
 「うそだろ…全部貸出中って…」
 肩を落としながら、念のため他の棚や特集コーナーも探してみたが、やはりどこにも見当たらない。少し前まで話題になっていた映画だから、やはり人気が高いようだ。
 「こんなに全部持っていかれるなんて…」
 仕方なく、他の映画を探すが、今日はどうしてもそのアクション映画が観たかったため、他のタイトルが目に入ってこない。無理して別の映画を選ぶのも気が進まない。途方に暮れてスマホを取り出し、ひとみに報告する。
 「映画、全部貸出中だった…マジでショック。」
 するとすぐにひとみから返信が来た。
 「ええっ、せっかく気合い入れて行ったのに、それは悲しいね…」
 「在庫ありって出てたのに、到着したら全部ないってどういうことだよ…」
 「人気の映画って、ほんとタイミングだよね。でも、他に何か面白そうなのあった?」
 「うーん、あんまり気分が乗らなくてさ。」
 「じゃあ、今日は映画じゃなくて、ちょっと別のことしてリフレッシュするのもアリかも?」
 そのアドバイスにハッとする。確かに、映画に固執しすぎて視野が狭くなっていたかもしれない。リフレッシュする目的を忘れて、映画そのものにこだわっていた自分に気づき、少し反省する。
 「そうだな、無理して探しても疲れるだけだし、今日は別のことにしようかな。」
 「うん、それがいいかも!たまには違うことするのも気分転換になるよ。」
 そのやり取りをしながら、店を後にして家に帰る道すがら、自然と気持ちが軽くなっているのを感じた。ひとみの言う通り、別の方法で気分転換すればいいだけだ。
 アパートに戻り、冷蔵庫からアイスを取り出してソファに座る。ふと、ひとみから再びメッセージが届いた。
 「映画がダメなら、ちょっとしたお菓子パーティーとかどう?好きなお菓子並べて、のんびりするのもアリだよ!」
 「それいいな。ちょうどアイスがあるし、ポテチもある。お菓子パーティーやってみるか。」
 「ナイスアイデアでしょ?好きなもの食べて、音楽とか流しながらリラックスしよう!」
 「ありがとう、三木さん。おかげで気持ちが楽になったよ。」
 「うんうん、リラックスが一番大事だからね!」
 お菓子をテーブルに並べ、スマホでお気に入りのプレイリストを流しながら、ゆったりとした時間を楽しむ。映画に固執しなくなったことで、逆に気持ちが解放されたようだ。
 アイスを一口食べ、冷たさが体に染み渡る。ポテチの塩気と交互に食べることで、なんとも言えない幸福感が湧き上がる。こんな風に気持ちを切り替えるのも悪くない。
 「次、映画観るときはもっと早めに借りに行こう。」
 そう思いながら、ひとみに再びメッセージを送る。
 「アイス食べながら音楽聴いてる。これ、意外とリラックスできるな。」
 「やっぱり!ちょっとした贅沢が一番リフレッシュになるんだよね。」
 ひとみのその言葉に納得しながら、自然と笑顔がこぼれる。自分一人で抱え込むとどうしても焦ってしまうけれど、こうして誰かに気持ちを打ち明けるだけで、解決方法が見えてくるのだと実感した。
 窓の外には夜風が吹き、カーテンがわずかに揺れている。映画を観られなかったことが、今ではどうでもよく感じられる。大事なのは、リラックスして過ごす時間だ。ひとみのおかげで、気持ちを切り替えられたことに感謝しながら、もう一口アイスを食べた。
 「今日はこれで良かったかもな。」
 そんなささやかな満足感を味わいながら、日常の小さな幸福をかみしめていた。
 終