その日の夜、裕基は面接の疲れを癒すために、リビングでソファに腰を下ろしていた。今日は特に長い一日で、複数の企業を回ったせいか、足がだるくて仕方がない。ようやく落ち着いた時間が訪れ、スマホを手に取りながら、ひとみからのメッセージを確認する。
「今日もお疲れ様!面接どうだった?」
「ありがとう。なんとか乗り切ったけど、さすがに疲れた…」
すぐに返信が来た。
「お疲れ様!今日は甘いものでも食べてリラックスしてね。」
その一言が嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。そういえば、昨日コンビニで買ったクッキーがあったはずだと思い出し、テーブルの上の袋を探る。ようやく見つけたパッケージを取り出し、袋を開ける。
「よし、甘いもの補給だ…」
中を覗き込むと、もう残り一個しかないことに気づく。昨日、帰宅後に少しずつ食べていたため、最後の一枚になっていたのだ。
「まあ、最後の一個だし、大事に食べよう。」
慎重に袋を傾けてクッキーを取り出そうとした瞬間、予想外の事態が待っていた。袋の中から出てきたのは、無残にも粉々に砕け散ったクッキーの欠片だった。
「え、嘘だろ…」
手のひらに載せたその姿は、もはやクッキーというよりもクッキーの残骸で、サクサク感を期待していた気持ちが一気にしぼんでいく。
「マジか…最後の一個がこれって…」
がっかりしながらも、粉々のクッキーをそっと口に運ぶ。ポロポロと崩れる食感が寂しく、期待していた満足感には程遠い。やりきれない気持ちでため息をつき、スマホに手を伸ばす。
「クッキーの最後の一枚が粉々だった…」
ひとみに報告すると、すぐに返信が来た。
「それ、めっちゃショックだよね!最後の一個が割れてる時の絶望感、わかる!」
「ほんとだよ。なんか今日の疲れが一気にきた感じ…」
「でもね、割れてても味は同じだし、気にしないで!私もよくポテチの最後の一枚が粉々でがっかりすることあるし。」
その共感が嬉しくて、少しだけ気が楽になる。
「確かに、味は変わらないもんな。ちょっと気持ちが楽になったよ、ありがとう。」
「うんうん!むしろ、粉々になったのをスプーンで食べるのも意外と美味しいよ?」
その意見に、思わず笑ってしまう。確かに、最後の一枚が砕けているのは悲しいけれど、それをポジティブに捉える方法もあるのかもしれない。
「なるほどね、スプーンで食べるって発想はなかったな。」
「やってみて!意外とサクサクしていい感じだから。」
試しにキッチンからスプーンを持ってきて、砕けたクッキーをすくって食べてみる。口の中でホロホロと崩れていく食感が意外に心地よく、味も変わらず甘い。
「確かに、これもアリかも。」
「でしょ?割れてるのを逆に楽しむっていうのもアリだよね。」
そのポジティブさが羨ましく、同時に元気をもらえる自分がいる。就職活動でうまくいかないことがあっても、こうして何気ないことを笑い合える存在がいるだけで、ずいぶん救われているのだと感じた。
「ありがとう、三木さんのおかげで少し元気出たよ。」
「ふふ、良かった!甘いもの食べて、今日はゆっくり休んでね。」
「うん、そうする。」
クッキーの最後が割れていたことで一瞬落ち込んだけれど、ひとみの一言でその気持ちが軽くなった。人生も、こうやって思い通りにならないことが多いけれど、誰かと笑い合えるだけで救われるものだ。
ソファに身を預け、スマホを持ったまましばしぼんやりと過ごす。外から聞こえる電車の音が静かな部屋に響き、少しだけ眠気が差し込んでくる。
「また、何か甘いもの買っておこうかな…」
そんな他愛のないことを考えながら、窓の外を眺めた。夜の街が少しずつ暗さを増していき、遠くのビルの明かりが瞬いている。こうして小さな失敗や不運があっても、それを笑い合える相手がいるだけで、心が軽くなる。
「次は一緒に甘いもの食べに行きたいな…」
そんなささやかな願いを胸に抱きながら、裕基はクッキーの粉を最後まで食べきり、ようやく落ち着いた気持ちでソファに身を沈めた。
終
「今日もお疲れ様!面接どうだった?」
「ありがとう。なんとか乗り切ったけど、さすがに疲れた…」
すぐに返信が来た。
「お疲れ様!今日は甘いものでも食べてリラックスしてね。」
その一言が嬉しくて、自然と笑みがこぼれる。そういえば、昨日コンビニで買ったクッキーがあったはずだと思い出し、テーブルの上の袋を探る。ようやく見つけたパッケージを取り出し、袋を開ける。
「よし、甘いもの補給だ…」
中を覗き込むと、もう残り一個しかないことに気づく。昨日、帰宅後に少しずつ食べていたため、最後の一枚になっていたのだ。
「まあ、最後の一個だし、大事に食べよう。」
慎重に袋を傾けてクッキーを取り出そうとした瞬間、予想外の事態が待っていた。袋の中から出てきたのは、無残にも粉々に砕け散ったクッキーの欠片だった。
「え、嘘だろ…」
手のひらに載せたその姿は、もはやクッキーというよりもクッキーの残骸で、サクサク感を期待していた気持ちが一気にしぼんでいく。
「マジか…最後の一個がこれって…」
がっかりしながらも、粉々のクッキーをそっと口に運ぶ。ポロポロと崩れる食感が寂しく、期待していた満足感には程遠い。やりきれない気持ちでため息をつき、スマホに手を伸ばす。
「クッキーの最後の一枚が粉々だった…」
ひとみに報告すると、すぐに返信が来た。
「それ、めっちゃショックだよね!最後の一個が割れてる時の絶望感、わかる!」
「ほんとだよ。なんか今日の疲れが一気にきた感じ…」
「でもね、割れてても味は同じだし、気にしないで!私もよくポテチの最後の一枚が粉々でがっかりすることあるし。」
その共感が嬉しくて、少しだけ気が楽になる。
「確かに、味は変わらないもんな。ちょっと気持ちが楽になったよ、ありがとう。」
「うんうん!むしろ、粉々になったのをスプーンで食べるのも意外と美味しいよ?」
その意見に、思わず笑ってしまう。確かに、最後の一枚が砕けているのは悲しいけれど、それをポジティブに捉える方法もあるのかもしれない。
「なるほどね、スプーンで食べるって発想はなかったな。」
「やってみて!意外とサクサクしていい感じだから。」
試しにキッチンからスプーンを持ってきて、砕けたクッキーをすくって食べてみる。口の中でホロホロと崩れていく食感が意外に心地よく、味も変わらず甘い。
「確かに、これもアリかも。」
「でしょ?割れてるのを逆に楽しむっていうのもアリだよね。」
そのポジティブさが羨ましく、同時に元気をもらえる自分がいる。就職活動でうまくいかないことがあっても、こうして何気ないことを笑い合える存在がいるだけで、ずいぶん救われているのだと感じた。
「ありがとう、三木さんのおかげで少し元気出たよ。」
「ふふ、良かった!甘いもの食べて、今日はゆっくり休んでね。」
「うん、そうする。」
クッキーの最後が割れていたことで一瞬落ち込んだけれど、ひとみの一言でその気持ちが軽くなった。人生も、こうやって思い通りにならないことが多いけれど、誰かと笑い合えるだけで救われるものだ。
ソファに身を預け、スマホを持ったまましばしぼんやりと過ごす。外から聞こえる電車の音が静かな部屋に響き、少しだけ眠気が差し込んでくる。
「また、何か甘いもの買っておこうかな…」
そんな他愛のないことを考えながら、窓の外を眺めた。夜の街が少しずつ暗さを増していき、遠くのビルの明かりが瞬いている。こうして小さな失敗や不運があっても、それを笑い合える相手がいるだけで、心が軽くなる。
「次は一緒に甘いもの食べに行きたいな…」
そんなささやかな願いを胸に抱きながら、裕基はクッキーの粉を最後まで食べきり、ようやく落ち着いた気持ちでソファに身を沈めた。
終



