その日の昼、裕基は就活で訪れたオフィス街の一角にあるコンビニに立ち寄っていた。次の説明会まで少し時間があり、軽く腹ごしらえをしようとおにぎりを二つとお茶を買った。レジを通り、店の外にあるベンチに腰を下ろすと、心地よい春風が吹き抜けていく。
「よし、さっさと食べて準備しよう。」
リュックを脇に置き、まずは一つ目のおにぎりに手を伸ばす。選んだのは定番の「ツナマヨ」だ。包装を剥がそうと両端を持ち、中央の矢印部分を引っ張る。しかし、フィルムが思ったよりも固く、力を入れてもピリッと開かない。
「なんでこんなに固いんだよ…」
少しイラつきながら、今度は慎重に角度を変えて引っ張るが、フィルムが中途半端に裂け、海苔が一部剥がれてしまった。途端にテンションが下がる。
「マジか…せっかくのパリパリ感が…」
何とか破れた部分を持ち直して引き続き剥がそうとするが、今度は反対側が妙に粘着力を発揮し、フィルムと海苔が一体化している。
「もう勘弁してくれよ…」
最終的に中途半端に剥がれた海苔がごちゃごちゃになり、白米の部分がむき出しになってしまった。仕方なく、そのままかじりつくが、パリッとした食感が失われているため、なんとも言えない虚しさが込み上げてくる。
「なんか、負けた気分だ…」
ふとスマホを取り出し、ひとみにメッセージを送る。
「コンビニのおにぎり、海苔が上手く剥がれなくてボロボロになっちゃった…」
するとすぐに返信が来た。
「わかる!あれ、コツがいるんだよね。私もたまに失敗するよ。中途半端に破けちゃうと、もうやり直し効かないし…」
「そうなんだよ…なんか情けない。」
「大丈夫!味は変わらないし、気にしない気にしない!」
ひとみのその一言に、少しだけ気が楽になる。彼女の軽やかな言葉が、どうしてこうも心を癒すのだろうか。気を取り直して二つ目のおにぎりを手に取る。今度は「鮭」だ。慎重に中央の矢印をつまみ、ゆっくりと引っ張る。すると、今度はきれいにフィルムが外れ、海苔もパリッとしたまま保たれている。
「やった…成功だ!」
小さくガッツポーズをしながら、鮭おにぎりを一口かじる。パリパリの海苔の音とともに、塩味がしっかり効いた鮭の旨味が口の中に広がる。先ほどの失敗が嘘のように、心が晴れやかになった。
「やっぱりこうでなくちゃな。」
嬉しさをそのままひとみに報告する。
「二つ目は成功した!やっぱり、最初に力を入れすぎてたみたいだ。」
ひとみからもすぐに返信が来た。
「よかったね!力を入れすぎると、逆に破けやすいんだよね。次からはバッチリだね!」
「三木さんのおかげで元気出たよ。」
「ふふ、そんなことないよ。でも、次一緒に食べるときは、私がうまく剥がしてあげるね!」
そのメッセージに少し照れつつ、自然と笑顔がこぼれる。こうして誰かと共有できる何気ない失敗が、こんなにも楽しく感じられるのは、きっとひとみの存在があってこそだ。
ベンチに座りながら、冷たいお茶で喉を潤す。春の日差しが心地よく、疲れた体を優しく包み込んでくれる。コンビニのビニール袋が風に揺れ、どこかのんびりとした時間が流れている。
「今日は、このままのんびり過ごしたいな…」
そう思ったが、次の説明会の時間が迫っていることを思い出し、重い腰を上げる。おにぎりを食べ終えたことで、少しだけ元気が戻ってきた。これもひとみのおかげだと思いながら、スマホをポケットにしまう。
「よし、もう一頑張りだ。」
ベンチを立ち、駅へ向かう道すがら、心の中で小さくつぶやいた。日常の小さな失敗も、誰かと共有できれば笑い話になる。それを教えてくれたひとみに感謝しながら、裕基は次の目的地へと歩き出した。
終
「よし、さっさと食べて準備しよう。」
リュックを脇に置き、まずは一つ目のおにぎりに手を伸ばす。選んだのは定番の「ツナマヨ」だ。包装を剥がそうと両端を持ち、中央の矢印部分を引っ張る。しかし、フィルムが思ったよりも固く、力を入れてもピリッと開かない。
「なんでこんなに固いんだよ…」
少しイラつきながら、今度は慎重に角度を変えて引っ張るが、フィルムが中途半端に裂け、海苔が一部剥がれてしまった。途端にテンションが下がる。
「マジか…せっかくのパリパリ感が…」
何とか破れた部分を持ち直して引き続き剥がそうとするが、今度は反対側が妙に粘着力を発揮し、フィルムと海苔が一体化している。
「もう勘弁してくれよ…」
最終的に中途半端に剥がれた海苔がごちゃごちゃになり、白米の部分がむき出しになってしまった。仕方なく、そのままかじりつくが、パリッとした食感が失われているため、なんとも言えない虚しさが込み上げてくる。
「なんか、負けた気分だ…」
ふとスマホを取り出し、ひとみにメッセージを送る。
「コンビニのおにぎり、海苔が上手く剥がれなくてボロボロになっちゃった…」
するとすぐに返信が来た。
「わかる!あれ、コツがいるんだよね。私もたまに失敗するよ。中途半端に破けちゃうと、もうやり直し効かないし…」
「そうなんだよ…なんか情けない。」
「大丈夫!味は変わらないし、気にしない気にしない!」
ひとみのその一言に、少しだけ気が楽になる。彼女の軽やかな言葉が、どうしてこうも心を癒すのだろうか。気を取り直して二つ目のおにぎりを手に取る。今度は「鮭」だ。慎重に中央の矢印をつまみ、ゆっくりと引っ張る。すると、今度はきれいにフィルムが外れ、海苔もパリッとしたまま保たれている。
「やった…成功だ!」
小さくガッツポーズをしながら、鮭おにぎりを一口かじる。パリパリの海苔の音とともに、塩味がしっかり効いた鮭の旨味が口の中に広がる。先ほどの失敗が嘘のように、心が晴れやかになった。
「やっぱりこうでなくちゃな。」
嬉しさをそのままひとみに報告する。
「二つ目は成功した!やっぱり、最初に力を入れすぎてたみたいだ。」
ひとみからもすぐに返信が来た。
「よかったね!力を入れすぎると、逆に破けやすいんだよね。次からはバッチリだね!」
「三木さんのおかげで元気出たよ。」
「ふふ、そんなことないよ。でも、次一緒に食べるときは、私がうまく剥がしてあげるね!」
そのメッセージに少し照れつつ、自然と笑顔がこぼれる。こうして誰かと共有できる何気ない失敗が、こんなにも楽しく感じられるのは、きっとひとみの存在があってこそだ。
ベンチに座りながら、冷たいお茶で喉を潤す。春の日差しが心地よく、疲れた体を優しく包み込んでくれる。コンビニのビニール袋が風に揺れ、どこかのんびりとした時間が流れている。
「今日は、このままのんびり過ごしたいな…」
そう思ったが、次の説明会の時間が迫っていることを思い出し、重い腰を上げる。おにぎりを食べ終えたことで、少しだけ元気が戻ってきた。これもひとみのおかげだと思いながら、スマホをポケットにしまう。
「よし、もう一頑張りだ。」
ベンチを立ち、駅へ向かう道すがら、心の中で小さくつぶやいた。日常の小さな失敗も、誰かと共有できれば笑い話になる。それを教えてくれたひとみに感謝しながら、裕基は次の目的地へと歩き出した。
終



