ようやく動き出した電車に乗り込み、裕基とひとみは運よく座席にありつけた。二人並んで腰を下ろし、ほっと息をつく。さっきまでの混雑と乗り換えの騒ぎで少し疲れたが、こうして席に座れたことで気持ちが和らぐ。車窓からは、春の陽射しが柔らかく差し込み、窓ガラスに反射している。
「さっきはありがとうね、三木さん」
裕基が改めて礼を言うと、ひとみは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「ううん、私こそ。石川君がいてくれたから、迷わず乗り換えられたよ」
裕基はその言葉に少し嬉しくなる。人と一緒にいることで、自分の存在価値を感じられる瞬間がたまらなく心地いい。それは、就職活動の中で失敗続きの自分には特に大きな救いだった。裕基はそんな思いを胸に秘め、スマホを取り出して企業情報を再確認しようとする。
「石川君って、やっぱりしっかりしてるよね」
ひとみがぽつりと言った。裕基は少し驚きながら、苦笑いを浮かべた。
「そう見える?実際は全然だよ。面接、何度も落ちてるし…」
「私も同じ。面接って、緊張しちゃうよね…」
ひとみの声にはどこか諦めが混じっていた。それを聞いて、裕基は自分の不安を共有できる相手がいることに少しだけ安心する。
「でも、こうやって頑張ってるから、きっと報われるよ。三木さんなら優しいし、絶対に受かると思う」
「優しい…かな。自分では、全然そんな風に思えないけど」
ひとみは視線を落とし、指先でスカートの裾をいじっている。その仕草に少し幼さを感じながらも、裕基はなんとなく彼女の気持ちがわかる気がした。自分を信じるのが難しい時期だ。特に、就職活動という未知の壁を前にすると、不安ばかりが先立つ。
そんな時、車内アナウンスが響く。
「次は、〇〇駅、〇〇駅です。お乗り換えの方は…」
その瞬間、二人は顔を見合わせた。
「え、もう次の駅?」
「座れたばかりなのに…」
二人は同時にため息をつき、重い腰を上げた。せっかく座れて安心したところでの乗り換え案内。裕基は心の中で運の悪さを呪ったが、ひとみがクスリと笑っているのを見て、少しだけ気が楽になった。
「不思議だね。こういうこと、ひとりだとすごくイライラするけど、二人だと笑えるんだ」
「ほんとだね。なんでだろう?」
ひとみは考え込むように首をかしげたが、その表情は少し楽しそうだった。裕基も自然と笑顔になり、肩の力が抜けていく。
ホームに降り立ち、次の電車を待つ間、二人はベンチに腰を下ろす。ちょうど桜並木が見える位置で、花びらが風に舞い散っている。その光景に少し癒されながら、裕基は隣に座るひとみをちらりと見る。
「こうやって春の花を見ると、なんか新しいことに挑戦する勇気が湧くよね」
裕基の言葉に、ひとみも頷く。
「うん。でも、その分、不安もついてくるよね。私は、挑戦するのが怖くて…」
「怖いよね。失敗したらどうしようって。でも、失敗しながら成長できるのも、今だけかもしれないし」
裕基の言葉には、どこか自分に言い聞かせるような響きがあった。ひとみはその様子をじっと見つめ、小さな声で言った。
「私も、もう少しだけ頑張ってみる。石川君がそう言うなら…」
その言葉がどこか励ましに聞こえて、裕基は少し照れくさくなった。電車が到着し、二人は再び乗り込む。今度は立ち席だったが、先ほどまでの気まずさや不安は少しだけ薄らいでいた。
裕基はふと、電車の窓に映る自分の姿を見て、思った。こうして誰かと話すことで、少しだけ自分が前を向ける。ひとみも、そんな存在なのかもしれない。もしかしたら、今日の就職説明会もうまくいくかもしれないと、ほんの少しだけ希望が芽生えた。
終
「さっきはありがとうね、三木さん」
裕基が改めて礼を言うと、ひとみは恥ずかしそうに頬を赤らめた。
「ううん、私こそ。石川君がいてくれたから、迷わず乗り換えられたよ」
裕基はその言葉に少し嬉しくなる。人と一緒にいることで、自分の存在価値を感じられる瞬間がたまらなく心地いい。それは、就職活動の中で失敗続きの自分には特に大きな救いだった。裕基はそんな思いを胸に秘め、スマホを取り出して企業情報を再確認しようとする。
「石川君って、やっぱりしっかりしてるよね」
ひとみがぽつりと言った。裕基は少し驚きながら、苦笑いを浮かべた。
「そう見える?実際は全然だよ。面接、何度も落ちてるし…」
「私も同じ。面接って、緊張しちゃうよね…」
ひとみの声にはどこか諦めが混じっていた。それを聞いて、裕基は自分の不安を共有できる相手がいることに少しだけ安心する。
「でも、こうやって頑張ってるから、きっと報われるよ。三木さんなら優しいし、絶対に受かると思う」
「優しい…かな。自分では、全然そんな風に思えないけど」
ひとみは視線を落とし、指先でスカートの裾をいじっている。その仕草に少し幼さを感じながらも、裕基はなんとなく彼女の気持ちがわかる気がした。自分を信じるのが難しい時期だ。特に、就職活動という未知の壁を前にすると、不安ばかりが先立つ。
そんな時、車内アナウンスが響く。
「次は、〇〇駅、〇〇駅です。お乗り換えの方は…」
その瞬間、二人は顔を見合わせた。
「え、もう次の駅?」
「座れたばかりなのに…」
二人は同時にため息をつき、重い腰を上げた。せっかく座れて安心したところでの乗り換え案内。裕基は心の中で運の悪さを呪ったが、ひとみがクスリと笑っているのを見て、少しだけ気が楽になった。
「不思議だね。こういうこと、ひとりだとすごくイライラするけど、二人だと笑えるんだ」
「ほんとだね。なんでだろう?」
ひとみは考え込むように首をかしげたが、その表情は少し楽しそうだった。裕基も自然と笑顔になり、肩の力が抜けていく。
ホームに降り立ち、次の電車を待つ間、二人はベンチに腰を下ろす。ちょうど桜並木が見える位置で、花びらが風に舞い散っている。その光景に少し癒されながら、裕基は隣に座るひとみをちらりと見る。
「こうやって春の花を見ると、なんか新しいことに挑戦する勇気が湧くよね」
裕基の言葉に、ひとみも頷く。
「うん。でも、その分、不安もついてくるよね。私は、挑戦するのが怖くて…」
「怖いよね。失敗したらどうしようって。でも、失敗しながら成長できるのも、今だけかもしれないし」
裕基の言葉には、どこか自分に言い聞かせるような響きがあった。ひとみはその様子をじっと見つめ、小さな声で言った。
「私も、もう少しだけ頑張ってみる。石川君がそう言うなら…」
その言葉がどこか励ましに聞こえて、裕基は少し照れくさくなった。電車が到着し、二人は再び乗り込む。今度は立ち席だったが、先ほどまでの気まずさや不安は少しだけ薄らいでいた。
裕基はふと、電車の窓に映る自分の姿を見て、思った。こうして誰かと話すことで、少しだけ自分が前を向ける。ひとみも、そんな存在なのかもしれない。もしかしたら、今日の就職説明会もうまくいくかもしれないと、ほんの少しだけ希望が芽生えた。
終



