面接が終わり、裕基は駅へと向かって歩き出した。今日の面接は予想以上に緊張し、質問に答えるときに少し詰まってしまったが、何とか最後まで乗り切ることができた。面接官の反応が少し固かったことが気になっているが、終わったことを悩んでも仕方ない。少し気を紛らわせようとスマホを取り出し、ひとみにメッセージを送る。
 「面接終わったよ。ちょっと緊張しすぎてヤバかったけど、なんとか無事に終わった。」
 すぐにひとみから返信が来た。
 「お疲れ様!大丈夫だよ、石川君ならきっと伝わってるはず。今日はゆっくり休んでね。」
 その言葉にほっとし、肩の力が抜ける。駅のホームで電車を待ちながら、ようやく気持ちが少し落ち着いてきた。電車に乗り込み、窓際の席に座って一息つく。車内アナウンスが流れ、電車が出発すると、ゆっくりと景色が動き始めた。
 自宅の最寄り駅に着き、少し暗くなり始めた街を歩きながら、今日一日の出来事を振り返る。疲れがじわじわと押し寄せてきて、足取りが重い。自分の中でモヤモヤが晴れないまま、ようやくアパートにたどり着いた。
 「早く部屋に戻って休みたい…」
 玄関の前に立ち、バッグの中を漁って鍵を探す。しかし、ポケットに手を突っ込んでも鍵がない。ズボンの反対側を探しても、やはり見当たらない。少し焦ってバッグの外ポケットを確認するが、そこにもない。
 「嘘だろ…」
 疲れ切った体に追い打ちをかけるように、不安が胸を締め付ける。もしかして、電車の中で落としたのか。いや、そんなはずはないと自分に言い聞かせながら、バッグの中をもう一度チェックする。ポーチや書類をどけて、ポケットの中まで探すが、手に触れるのはボールペンやハンカチだけ。
 「どこに入れたんだっけ…」
 頭を抱えながら、もう一度カバンの中身を出してみる。面接用の資料、折りたたみ傘、飲みかけのペットボトル、そして雑然とした書類。ひとつひとつ確認しながら、底の方まで手を伸ばした瞬間、冷たい金属の感触が指先に触れる。
 「これか!」
 カバンの一番底に押し込まれるようにして入っていた鍵をようやく発見した。安心感と同時に、なんでこんな場所に入れたのかと自分を責める気持ちが湧き上がる。
 「ほんと、なんでこんなとこに…」
 安堵と同時に、少し情けない気持ちが混ざり合う。ようやくドアを開けて中に入り、靴を脱いでリビングに直行。疲れた体をソファに預けて、思わず天井を見上げる。
 「なんでこう、肝心な時に限って忘れ物するんだろう…」
 そんな愚痴を零しながら、再びスマホを取り出す。ひとみに鍵騒動を報告すると、すぐに「私もこの前やったよ!バッグの底にあって、焦ったよね(笑)」と返信が来た。
 「やっぱり、そういうことあるんだな…」
 人間らしさというか、誰でも失敗するんだと感じると、不思議と心が軽くなる。ひとみも同じようなミスをするのだと思うと、なんとなく親近感が湧いてきた。
 「ほんと、焦ったよ。でも、無事見つかってよかった。三木さんも同じ経験あるなら、少し安心したかも。」
 ひとみから「お疲れ様!ゆっくり休んでね!」とメッセージが届き、裕基は思わず微笑む。心の中で張り詰めていたものがほぐれていき、少しだけ元気が出た。
 ソファから立ち上がり、キッチンに向かって冷蔵庫を開ける。昨日買っておいた栄養ドリンクを取り出し、一気に飲み干す。甘さと酸っぱさが混ざった味が喉を潤し、体にエネルギーが戻ってくる気がした。
 「明日はもう少し落ち着いて行動しよう…」
 今日の失敗を反省しつつも、こうして笑い合える仲間がいることで、失敗も少しだけ愛おしく感じられる。部屋の窓から見える夜空には、薄く光る星がいくつか瞬いている。静かな夜風がカーテンを揺らし、少し冷たい空気が部屋に流れ込む。
 「よし、今日もなんとか乗り切ったな…」
 充実感と少しの疲れが入り混じる中で、裕基はそっと目を閉じた。明日はもっと冷静に行動できる自分でありたいと願いながら、ひとみの応援が心の支えになっていることを実感していた。きっとまた失敗することもあるだろうけど、こうして支え合いながら進んでいけば、どんな困難も乗り越えられる気がする。
 終