次の日の昼、裕基は午前中の説明会を終え、少し疲れた足を引きずりながら駅近くのカフェに向かっていた。朝から緊張していたせいか、腹の虫が盛大に鳴っている。ビルを出た瞬間から、美味しそうなランチのことしか頭になかった。
「よし、今日はあの限定ランチにしよう…」
カフェの前に着き、黒板に書かれた本日のおすすめメニューを確認する。そこには「限定20食!自家製デミグラスハンバーグセット」と書かれており、裕基のテンションが一気に上がる。
「これだ、これしかない!」
ランチタイムのピークを少し過ぎた時間だが、まだ店内には空席が見える。急いで自動ドアをくぐり、レジカウンターへ向かった。順番待ちの列には数人しかいない。ホッと胸をなでおろし、スマホをポケットにしまう。
「これならまだ大丈夫だな…」
しかし、前に並んでいる男性が注文を終えた瞬間、裕基の耳に店員の声が届いた。
「すみません、本日の限定ランチはただいま売り切れました」
「えっ…」
思わず声を上げそうになり、慌てて口を押さえた。前の男性がラスト一食を注文してしまったらしい。レジ横に立てかけられた「売り切れ」の札が、無情にもカウンターに掲げられる。
「マジかよ…」
裕基はその場に立ち尽くし、ショックで頭が真っ白になる。せっかく心躍らせて店に入ったのに、まさかこんな結末を迎えるとは思わなかった。気持ちを切り替えようとしても、どうしても諦めきれない自分がいる。
仕方なく、代わりのメニューを探すが、どうにも食欲が湧かない。無理やり気を取り直し、「日替わりパスタセット」を注文することにした。
「はぁ…」
席についてパスタが運ばれてきても、まだ未練が残っている。湯気を立てるパスタをフォークで絡めながら、どうしてもあのデミグラスハンバーグが頭をよぎる。ふわっとした肉の食感と濃厚なソースを想像し、ため息をついた。
その時、スマホが震えた。ひとみからのメッセージだ。
「お疲れ様!今日の説明会どうだった?私はまあまあかな。でも、帰りに美味しいカフェ見つけて、限定ランチ食べちゃった!」
その一文に目を凝らし、裕基はぎょっとした。慌てて返信を打つ。
「え?限定ランチって、もしかしてデミグラスハンバーグ?」
すぐにひとみから「そうそう!駅前のカフェのやつ!めちゃくちゃ美味しかったよ!」と返事が来た。その瞬間、裕基は思わず頭を抱えた。
「まさか…三木さんがラスト一食を…」
その事実に気づき、どうしようもない脱力感が襲ってくる。自分が食べたかったランチが、まさかひとみの胃袋に収まっているとは。笑うべきか、泣くべきか。悔しさと面白さが混ざり合い、自然と笑いがこみ上げた。
「俺、さっきそのカフェ行ったんだよ。目の前で売り切れてさ。三木さんが最後の一食か…なんか悔しいけど笑える。」
すぐに返信があり、ひとみは「え!?ごめん!そんな偶然ある?でも、本当に美味しかったから、次一緒に食べに行こう!」と提案してきた。
裕基は少し笑って、「じゃあ、次こそ絶対に食べような」と送信した。ひとみからの「約束ね!」というメッセージを見て、ようやく気持ちが晴れた。
パスタを食べ進めながら、裕基は思う。失敗や不運が続くと、どうしても落ち込んでしまうけれど、こうして誰かと笑い合えると、不思議と前向きになれる。ついていない出来事も、ひとみと共有できれば、少しは楽になる。そんな日常が、少しだけ愛おしく感じられた。
食後のコーヒーを飲みながら、裕基は次回の楽しみを心に描いた。次はひとみと一緒に来て、二人で限定ランチを食べよう。そんな小さな約束が、なんだかとても大切に思えた。
窓の外を見ると、春の陽射しがやわらかく差し込んでいる。季節が少しずつ移ろう中で、自分自身も変わり始めているのかもしれない。就職活動の不安や焦りを抱えながらも、少しずつ笑える自分がいる。それがひとみの存在によってもたらされたものだと気づき、裕基は自然と頬を緩めた。
「次は、絶対に一緒に食べよう」
そう呟き、コーヒーの温かさを感じながら、裕基は次の一歩を踏み出すために心を整えた。
終
「よし、今日はあの限定ランチにしよう…」
カフェの前に着き、黒板に書かれた本日のおすすめメニューを確認する。そこには「限定20食!自家製デミグラスハンバーグセット」と書かれており、裕基のテンションが一気に上がる。
「これだ、これしかない!」
ランチタイムのピークを少し過ぎた時間だが、まだ店内には空席が見える。急いで自動ドアをくぐり、レジカウンターへ向かった。順番待ちの列には数人しかいない。ホッと胸をなでおろし、スマホをポケットにしまう。
「これならまだ大丈夫だな…」
しかし、前に並んでいる男性が注文を終えた瞬間、裕基の耳に店員の声が届いた。
「すみません、本日の限定ランチはただいま売り切れました」
「えっ…」
思わず声を上げそうになり、慌てて口を押さえた。前の男性がラスト一食を注文してしまったらしい。レジ横に立てかけられた「売り切れ」の札が、無情にもカウンターに掲げられる。
「マジかよ…」
裕基はその場に立ち尽くし、ショックで頭が真っ白になる。せっかく心躍らせて店に入ったのに、まさかこんな結末を迎えるとは思わなかった。気持ちを切り替えようとしても、どうしても諦めきれない自分がいる。
仕方なく、代わりのメニューを探すが、どうにも食欲が湧かない。無理やり気を取り直し、「日替わりパスタセット」を注文することにした。
「はぁ…」
席についてパスタが運ばれてきても、まだ未練が残っている。湯気を立てるパスタをフォークで絡めながら、どうしてもあのデミグラスハンバーグが頭をよぎる。ふわっとした肉の食感と濃厚なソースを想像し、ため息をついた。
その時、スマホが震えた。ひとみからのメッセージだ。
「お疲れ様!今日の説明会どうだった?私はまあまあかな。でも、帰りに美味しいカフェ見つけて、限定ランチ食べちゃった!」
その一文に目を凝らし、裕基はぎょっとした。慌てて返信を打つ。
「え?限定ランチって、もしかしてデミグラスハンバーグ?」
すぐにひとみから「そうそう!駅前のカフェのやつ!めちゃくちゃ美味しかったよ!」と返事が来た。その瞬間、裕基は思わず頭を抱えた。
「まさか…三木さんがラスト一食を…」
その事実に気づき、どうしようもない脱力感が襲ってくる。自分が食べたかったランチが、まさかひとみの胃袋に収まっているとは。笑うべきか、泣くべきか。悔しさと面白さが混ざり合い、自然と笑いがこみ上げた。
「俺、さっきそのカフェ行ったんだよ。目の前で売り切れてさ。三木さんが最後の一食か…なんか悔しいけど笑える。」
すぐに返信があり、ひとみは「え!?ごめん!そんな偶然ある?でも、本当に美味しかったから、次一緒に食べに行こう!」と提案してきた。
裕基は少し笑って、「じゃあ、次こそ絶対に食べような」と送信した。ひとみからの「約束ね!」というメッセージを見て、ようやく気持ちが晴れた。
パスタを食べ進めながら、裕基は思う。失敗や不運が続くと、どうしても落ち込んでしまうけれど、こうして誰かと笑い合えると、不思議と前向きになれる。ついていない出来事も、ひとみと共有できれば、少しは楽になる。そんな日常が、少しだけ愛おしく感じられた。
食後のコーヒーを飲みながら、裕基は次回の楽しみを心に描いた。次はひとみと一緒に来て、二人で限定ランチを食べよう。そんな小さな約束が、なんだかとても大切に思えた。
窓の外を見ると、春の陽射しがやわらかく差し込んでいる。季節が少しずつ移ろう中で、自分自身も変わり始めているのかもしれない。就職活動の不安や焦りを抱えながらも、少しずつ笑える自分がいる。それがひとみの存在によってもたらされたものだと気づき、裕基は自然と頬を緩めた。
「次は、絶対に一緒に食べよう」
そう呟き、コーヒーの温かさを感じながら、裕基は次の一歩を踏み出すために心を整えた。
終



