「いえ。むしろ逆です」
「え? 逆ですか?」
「はい」
俺が少し驚いてみせると、顔を上げたリオーネは笑みを絶やさず頷く。
「私は、父がそういった気持ちを持っているなんて、考えもしませんでした。父が何故亡くなってしまったのか。離れている間に一体何があったのか。私が父を苦しませてしまったんじゃないか。私はその答えを知りたいとしか、考えてなかったんです」
彼女が視線を逸らし、目を細め星空を眺める。
切なげな、だけどどこか嬉しそうな顔をして。
「でも、セルリックさんは違いました。ちゃんと私の想いだけでなく、父の想いも汲んで、こんな素敵な魂灯を創ってくれました。そこまでの気遣いを見せてくれたあなたに、幻滅なんてするはずありません」
はっきりとそう言いきったリオーネは、改めて俺に向き直ると。
「父のことまで考えてくださり、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げた。
……ここまで言ってもらえたなら、きっと俺が魂灯を創るのに悩んだのにも、意味があったって事だよな。
内心ほっとしたせいで、自然に頬が緩む。
っていうか。ちょっと褒められただけでにやけてどうするんだって。
俺はコホンと咳払いをして気持ちを切り替えると、できる限り自然な笑顔になるよう心がける。
「こちらこそ。俺の初仕事にも関わらず、仕事を託してくださりありがとうございます」
言葉を聞いて顔を上げたリオーネが、微笑みを見せ、再び俺達は無言になった──はずだった。
「……あっ」
突然はっとした彼女が、急にバツの悪そうな顔をする。何か問題でもあったのか?
思い当たる事といえば、やっぱり魂灯の出来。
でも、リオーネが手に持っている魂灯から感じる父親の想いには、今でも不安を感じさせるような想いは一切視えない。
魂灯の出来に問題はないと思うけど、他に何かあっただろうか?
思わず首を傾げた俺に、上目遣いになったリオーネがおずおずと口を開いた。
「あ、あの…… 魂灯の、お代なんですが……」
「……あ」
そういやそんな話が残ってたじゃないか。
魂灯を創る事に必死ですっかり忘れてたな。
──「あんたねぇ。何やってんだい」
もし隣に師匠がいたら、腰に手を当て間違いなくそう苦言を呈してくるのが見え見え。
確かにただ働きなんて、職人としては失格だ。
……失格、か。
ま、最初の仕事なんだし、それもいいか。
「要りませんよ」
「え? そ、それは駄目ですよ!」
頭を掻きながら苦笑いしてみせると、さすがのリオーネも狼狽える。
「こんなに素晴らしい魂灯なんです! ちゃんと金額を教えて下さい! 今すぐに払えなくても、ちゃんと働いてでもお支払いしますから!」
「ちゃんと働いてでも、ですか?」
「はい!」
こっちの言葉に気後れすることなく、信じてほしいと真剣な瞳を向けてくるリオーネ。
……ほんと。彼女は最初からずっと人が良すぎる。
だからこそ、俺もここまで頑張って応えたいと思えたんだけど。
だったら。
「でしたら、この間作っていたアーセラの彫り物をいただけませんか?」
「え? あの彫り物を?」
真面目な彼女に不釣り合いな笑みを浮かべたまま、俺はそんな事を言ってみた。
予想外だったんだろう。リオーネは少し呆気にとられていたけれど、すぐに現実に戻り声を上げる。
「あ、あんな物、この魂灯に見合わないです!」
「そんな事ないですよ」
「あれのどこにそんな価値が──」
「ありますよ」
言葉を遮り俺がさらりとそう返すと、リオーネがまた言葉を失う。
だけど、俺は構わず理由を語って聞かせた。
「この先、リオーネさんが装飾職人になり有名になれば、あの彫り物にも価値が出るかもしれませんし。そうならなくても、俺に初仕事を与えてくれたのはリオーネさんだって、いつでも振り返れます。俺にとってそれだけの価値があるからこそ、創った魂灯の価値に見合ってるんです」
そう。結局物の価値なんて、人それぞれだ。
今回創った魂灯だって、リオーネさんにとって価値があっても、他の人はそこに刻まれた魂の想いを見れはしない。
魂灯がどこまで貴重だとしても、魂灯かわからない者にとってその価値は、ただの宝珠灯と大差ないんだ。
勿論、リオーネが価値を感じてくれているのは感謝しているけど、彼女の価値と俺の価値もまた異なる。
だったら、俺は最初に持っていた想い──リオーネを路頭に迷わせるような事だけはしたくない。それだけは依頼主として曲げたくないんだ。
「リオーネさんが価値を気にして、嫌々職人を目指してほしくはありません。あなたのご両親は、あなたに笑顔を望んだんですから。だから、リオーネさんはお父さんの思いに応えられるよう、自分が思うがまま、笑顔になれるよう生きてください。創った魂灯を大事にしてくれれば、俺にとっては十分なんで。勿論、次に別の魂灯の依頼をしてくるなんて事があったら、相応のお金を払ってもらいますけどね」
真面目に話し過ぎれば、リオーネに重荷を背負わせかねない。
最後にそんな冗談を付け足し笑い話にしてみたけど、それを聞いた彼女の瞳が潤み、感極まったのか。ぐっと奥歯を噛んだ後、じっとこちらを見つめてくる。
そよ風にふわりとなびく栗毛色の髪と、熱のこもった視線。
リオーネが感極まっているのは間違いない。
正直こんな反応をすると思ってなかった。ちょっと伝え方が悪かっただろうか?
まあでも、また泣くところを見られるのは彼女もきっと嫌だろうしな。
俺はそのまま彼女から顔を逸らし、工房の方に向き直る。
「これで話は終わりです。彫り物は後で──」
沈黙を嫌い口を開いた俺が、歩き出した瞬間。言葉と歩みを止めさせたのは、背後から抱きしめてきた細い腕だった。
回された手に持ったたままの魂灯が、突然の事に愕然とした俺の顔を、より明るく照らし出す。
「リ、リオーネさん──」
「セルリックさんは優しすぎます」
今まで聞いたことのない艶のある声に、俺はさっきとは違う意味でどきりとする。
背中に感じる彼女が触れている感触。
クロークも着ているからぬくもりまで感じはしないけれど、彼女が密着しているっていう現実が、俺の体を緊張で強張らせる。
「こんなに優しくされたら、もう……」
そう囁いたリオーネが、ぎゅっと腕の力を強くする。
だけど、その後に続く言葉はない。
……こ、この状況、どうすればいいんだ?
多分、さっきの答えが悪い意味に捉えられたりはしなかったよな?
だ、だけど。彼女は何でこんな行動に出たんだ? 嬉しさに感極まっただけか?
振り払ったら気分を悪くするだろうか?
だけど、このままでもいいのか?
どうする? どうすればいい?
頭の中に浮かぶ疑問の数々に混乱して答えが出せず、俺はただその場で固まることしかできない。
「セルリックさん。私──」
「あれ? お兄ちゃん?」
沈黙を破ったリオーネの声を遮り、遠くから聞こえた声は、リセッタか!?
はっとした瞬間、俺は抱きしめられた腕から解放された。
咄嗟に声のした方に顔を向けると、丘の街道から、宝珠灯の灯りが近づいてくるのが見えた。
ちらりと横目で見れば、リオーネは申し訳ない気持ちになったのか。俺に背を向けている。
さ、さすがにこの状況はちょっと気まずい。
リオーネにどう声を掛けて良いかもわからないでいると、灯りで顔の見えるようになったリセッタが食材を買ったであろう紙袋を抱え、こっちに歩み寄ってきた。
「あ。リセッタさんもいたんだ」
「そうだけど」
「でも、何で二人して外にいるの?」
「いや、魂灯の出来を確認してもらおうかと思ってさ」
矢継ぎ早の質問に顔を背けながら答えを返していると、リセッタはどこか訝しむようにこっちを覗ここんでくる。
「……リオーネさん。お兄ちゃんに、変なことされてないよね?」
「も、勿論です! こんな素敵な魂灯を創ってもらって私が喜んでいたのを、セルリックさんは見守ってくれていただけで」
しどろもどろとは言わないものの、リセッタに向き直り必死に弁解するリオーネの姿には焦りを感じる。
口にした理由はある意味じゃ真実だけど、これで信用してもらえるのか?
内心不安になりながら見守っていると、リオーネはリセッタの顔の高さに魂灯を持って行く。
「見てください。どうですか? この魂灯」
「うわぁ! ほんとに凄い! お兄ちゃん。これ持ってて」
「え? おっと!」
突然手渡された紙袋を慌てて受け取るとと、リセッタは目を爛々と輝かせながら魂灯を見た。
「本体って、確かメルゼーネさんの作った物だよね?」
「ああ。時間もなかったしな」
「やっぱりあの人って凄いよねー。この辺の装飾とか凄く素敵だし」
魂灯を舐めるように見ながら、リセッタが感嘆の声をあげる……って、師匠のことしか褒めてないじゃないか。
まあ、確かに俺がした調光とかは地味だし、成果も見えにくいけど……。
少し複雑な気持ちになりながらリセッタの反応を見ていると、あいつがこっちの視線に気づいて顔を上げた。
「あ、ごめんごめん。お兄ちゃんが頑張ったんだもんね」
リセッタが苦笑いしながらフォローしてきたけど、取ってつけたような反応が俺の不満をより強くする。
「ま、ほぼ師匠のお陰だけどな。じゃ、そろそろ家に戻るぞ」
リオーネと違い、魂灯の魂が視えるわけじゃないんだ。
師匠の作った宝珠灯本体の出来に目がいくのも当然。仕方ないって。
どこか投げやりな気持ちになりながら、彼女達に背を向け家の方に歩き出すと、慌ててリセッタが俺の脇に並んだ。
「ご。ごめんね。お兄ちゃん、気分悪くした?」
「別に」
「嘘。顔に出てるもん」
「だから。お前が思う感想は間違ってないし、別に普通だって」
「でも……」
あいつが言う通り、はっきりと顔に不満が出ているのがわかる。
リオーネに魂灯の出来で喜んでもらえた後だから、尚更なんだけど。
とはいえ、ずっとこんなんじゃ大人気ないか。
「あのな。本気で気にするなよ」
「ほんと? 本当に大丈夫?」
「大丈夫だって言ってるだろ。ったく」
両腕が塞がっている状態のまま肩を竦め笑ってやると、リセッタがほっと胸を撫で下ろす。
「うふふっ」
それを見ていたであろうリオーネが、後ろでちょっと楽しげに笑う。
さっきのリオーネの態度には流石にドキッとしたけど、リセッタのお陰で変な気持ちにならなくって済んで助かった。
二人の普段通りの声や反応に心が落ち着いた俺は、さっきまでの緊張を忘れ、自然に笑って見せたんだ。
「え? 逆ですか?」
「はい」
俺が少し驚いてみせると、顔を上げたリオーネは笑みを絶やさず頷く。
「私は、父がそういった気持ちを持っているなんて、考えもしませんでした。父が何故亡くなってしまったのか。離れている間に一体何があったのか。私が父を苦しませてしまったんじゃないか。私はその答えを知りたいとしか、考えてなかったんです」
彼女が視線を逸らし、目を細め星空を眺める。
切なげな、だけどどこか嬉しそうな顔をして。
「でも、セルリックさんは違いました。ちゃんと私の想いだけでなく、父の想いも汲んで、こんな素敵な魂灯を創ってくれました。そこまでの気遣いを見せてくれたあなたに、幻滅なんてするはずありません」
はっきりとそう言いきったリオーネは、改めて俺に向き直ると。
「父のことまで考えてくださり、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げた。
……ここまで言ってもらえたなら、きっと俺が魂灯を創るのに悩んだのにも、意味があったって事だよな。
内心ほっとしたせいで、自然に頬が緩む。
っていうか。ちょっと褒められただけでにやけてどうするんだって。
俺はコホンと咳払いをして気持ちを切り替えると、できる限り自然な笑顔になるよう心がける。
「こちらこそ。俺の初仕事にも関わらず、仕事を託してくださりありがとうございます」
言葉を聞いて顔を上げたリオーネが、微笑みを見せ、再び俺達は無言になった──はずだった。
「……あっ」
突然はっとした彼女が、急にバツの悪そうな顔をする。何か問題でもあったのか?
思い当たる事といえば、やっぱり魂灯の出来。
でも、リオーネが手に持っている魂灯から感じる父親の想いには、今でも不安を感じさせるような想いは一切視えない。
魂灯の出来に問題はないと思うけど、他に何かあっただろうか?
思わず首を傾げた俺に、上目遣いになったリオーネがおずおずと口を開いた。
「あ、あの…… 魂灯の、お代なんですが……」
「……あ」
そういやそんな話が残ってたじゃないか。
魂灯を創る事に必死ですっかり忘れてたな。
──「あんたねぇ。何やってんだい」
もし隣に師匠がいたら、腰に手を当て間違いなくそう苦言を呈してくるのが見え見え。
確かにただ働きなんて、職人としては失格だ。
……失格、か。
ま、最初の仕事なんだし、それもいいか。
「要りませんよ」
「え? そ、それは駄目ですよ!」
頭を掻きながら苦笑いしてみせると、さすがのリオーネも狼狽える。
「こんなに素晴らしい魂灯なんです! ちゃんと金額を教えて下さい! 今すぐに払えなくても、ちゃんと働いてでもお支払いしますから!」
「ちゃんと働いてでも、ですか?」
「はい!」
こっちの言葉に気後れすることなく、信じてほしいと真剣な瞳を向けてくるリオーネ。
……ほんと。彼女は最初からずっと人が良すぎる。
だからこそ、俺もここまで頑張って応えたいと思えたんだけど。
だったら。
「でしたら、この間作っていたアーセラの彫り物をいただけませんか?」
「え? あの彫り物を?」
真面目な彼女に不釣り合いな笑みを浮かべたまま、俺はそんな事を言ってみた。
予想外だったんだろう。リオーネは少し呆気にとられていたけれど、すぐに現実に戻り声を上げる。
「あ、あんな物、この魂灯に見合わないです!」
「そんな事ないですよ」
「あれのどこにそんな価値が──」
「ありますよ」
言葉を遮り俺がさらりとそう返すと、リオーネがまた言葉を失う。
だけど、俺は構わず理由を語って聞かせた。
「この先、リオーネさんが装飾職人になり有名になれば、あの彫り物にも価値が出るかもしれませんし。そうならなくても、俺に初仕事を与えてくれたのはリオーネさんだって、いつでも振り返れます。俺にとってそれだけの価値があるからこそ、創った魂灯の価値に見合ってるんです」
そう。結局物の価値なんて、人それぞれだ。
今回創った魂灯だって、リオーネさんにとって価値があっても、他の人はそこに刻まれた魂の想いを見れはしない。
魂灯がどこまで貴重だとしても、魂灯かわからない者にとってその価値は、ただの宝珠灯と大差ないんだ。
勿論、リオーネが価値を感じてくれているのは感謝しているけど、彼女の価値と俺の価値もまた異なる。
だったら、俺は最初に持っていた想い──リオーネを路頭に迷わせるような事だけはしたくない。それだけは依頼主として曲げたくないんだ。
「リオーネさんが価値を気にして、嫌々職人を目指してほしくはありません。あなたのご両親は、あなたに笑顔を望んだんですから。だから、リオーネさんはお父さんの思いに応えられるよう、自分が思うがまま、笑顔になれるよう生きてください。創った魂灯を大事にしてくれれば、俺にとっては十分なんで。勿論、次に別の魂灯の依頼をしてくるなんて事があったら、相応のお金を払ってもらいますけどね」
真面目に話し過ぎれば、リオーネに重荷を背負わせかねない。
最後にそんな冗談を付け足し笑い話にしてみたけど、それを聞いた彼女の瞳が潤み、感極まったのか。ぐっと奥歯を噛んだ後、じっとこちらを見つめてくる。
そよ風にふわりとなびく栗毛色の髪と、熱のこもった視線。
リオーネが感極まっているのは間違いない。
正直こんな反応をすると思ってなかった。ちょっと伝え方が悪かっただろうか?
まあでも、また泣くところを見られるのは彼女もきっと嫌だろうしな。
俺はそのまま彼女から顔を逸らし、工房の方に向き直る。
「これで話は終わりです。彫り物は後で──」
沈黙を嫌い口を開いた俺が、歩き出した瞬間。言葉と歩みを止めさせたのは、背後から抱きしめてきた細い腕だった。
回された手に持ったたままの魂灯が、突然の事に愕然とした俺の顔を、より明るく照らし出す。
「リ、リオーネさん──」
「セルリックさんは優しすぎます」
今まで聞いたことのない艶のある声に、俺はさっきとは違う意味でどきりとする。
背中に感じる彼女が触れている感触。
クロークも着ているからぬくもりまで感じはしないけれど、彼女が密着しているっていう現実が、俺の体を緊張で強張らせる。
「こんなに優しくされたら、もう……」
そう囁いたリオーネが、ぎゅっと腕の力を強くする。
だけど、その後に続く言葉はない。
……こ、この状況、どうすればいいんだ?
多分、さっきの答えが悪い意味に捉えられたりはしなかったよな?
だ、だけど。彼女は何でこんな行動に出たんだ? 嬉しさに感極まっただけか?
振り払ったら気分を悪くするだろうか?
だけど、このままでもいいのか?
どうする? どうすればいい?
頭の中に浮かぶ疑問の数々に混乱して答えが出せず、俺はただその場で固まることしかできない。
「セルリックさん。私──」
「あれ? お兄ちゃん?」
沈黙を破ったリオーネの声を遮り、遠くから聞こえた声は、リセッタか!?
はっとした瞬間、俺は抱きしめられた腕から解放された。
咄嗟に声のした方に顔を向けると、丘の街道から、宝珠灯の灯りが近づいてくるのが見えた。
ちらりと横目で見れば、リオーネは申し訳ない気持ちになったのか。俺に背を向けている。
さ、さすがにこの状況はちょっと気まずい。
リオーネにどう声を掛けて良いかもわからないでいると、灯りで顔の見えるようになったリセッタが食材を買ったであろう紙袋を抱え、こっちに歩み寄ってきた。
「あ。リセッタさんもいたんだ」
「そうだけど」
「でも、何で二人して外にいるの?」
「いや、魂灯の出来を確認してもらおうかと思ってさ」
矢継ぎ早の質問に顔を背けながら答えを返していると、リセッタはどこか訝しむようにこっちを覗ここんでくる。
「……リオーネさん。お兄ちゃんに、変なことされてないよね?」
「も、勿論です! こんな素敵な魂灯を創ってもらって私が喜んでいたのを、セルリックさんは見守ってくれていただけで」
しどろもどろとは言わないものの、リセッタに向き直り必死に弁解するリオーネの姿には焦りを感じる。
口にした理由はある意味じゃ真実だけど、これで信用してもらえるのか?
内心不安になりながら見守っていると、リオーネはリセッタの顔の高さに魂灯を持って行く。
「見てください。どうですか? この魂灯」
「うわぁ! ほんとに凄い! お兄ちゃん。これ持ってて」
「え? おっと!」
突然手渡された紙袋を慌てて受け取るとと、リセッタは目を爛々と輝かせながら魂灯を見た。
「本体って、確かメルゼーネさんの作った物だよね?」
「ああ。時間もなかったしな」
「やっぱりあの人って凄いよねー。この辺の装飾とか凄く素敵だし」
魂灯を舐めるように見ながら、リセッタが感嘆の声をあげる……って、師匠のことしか褒めてないじゃないか。
まあ、確かに俺がした調光とかは地味だし、成果も見えにくいけど……。
少し複雑な気持ちになりながらリセッタの反応を見ていると、あいつがこっちの視線に気づいて顔を上げた。
「あ、ごめんごめん。お兄ちゃんが頑張ったんだもんね」
リセッタが苦笑いしながらフォローしてきたけど、取ってつけたような反応が俺の不満をより強くする。
「ま、ほぼ師匠のお陰だけどな。じゃ、そろそろ家に戻るぞ」
リオーネと違い、魂灯の魂が視えるわけじゃないんだ。
師匠の作った宝珠灯本体の出来に目がいくのも当然。仕方ないって。
どこか投げやりな気持ちになりながら、彼女達に背を向け家の方に歩き出すと、慌ててリセッタが俺の脇に並んだ。
「ご。ごめんね。お兄ちゃん、気分悪くした?」
「別に」
「嘘。顔に出てるもん」
「だから。お前が思う感想は間違ってないし、別に普通だって」
「でも……」
あいつが言う通り、はっきりと顔に不満が出ているのがわかる。
リオーネに魂灯の出来で喜んでもらえた後だから、尚更なんだけど。
とはいえ、ずっとこんなんじゃ大人気ないか。
「あのな。本気で気にするなよ」
「ほんと? 本当に大丈夫?」
「大丈夫だって言ってるだろ。ったく」
両腕が塞がっている状態のまま肩を竦め笑ってやると、リセッタがほっと胸を撫で下ろす。
「うふふっ」
それを見ていたであろうリオーネが、後ろでちょっと楽しげに笑う。
さっきのリオーネの態度には流石にドキッとしたけど、リセッタのお陰で変な気持ちにならなくって済んで助かった。
二人の普段通りの声や反応に心が落ち着いた俺は、さっきまでの緊張を忘れ、自然に笑って見せたんだ。


