ウェイブの町を巡っていき、最後に魔法学校までやってきた。

「どう? ゲームと一緒?」

 エリーゼが聞いてくる。

「うん。大体ね。町の規模がちょっと大きいのはゲームと現実の差で店なんかの建物が簿妙に異なっているのは時代の差だと思う」

 ドラグニアファンタジーは数十年後の世界だからその辺の差はあるだろう。

「大体一緒なわけね。この魔法学校にそのゲームのキャラがいるんだっけ?」
「いや、さすがに数十年後だからいないと思う」
「じゃあ、特に変なイベントには巻き込まれないわけね。となると、問題はアシュクロフトの評判問題か。名乗るのをやめたら?」

 それが一番だろう。

「無理だよ。その辺の冒険者をするっていうならそれでもいいけど、学校に入って、その後、アトリエを開くんだよ? 学校にも商業ギルドにも錬金術ギルドにも申請を出さないといけない。そこで嘘をついたら除名になっちゃうし、最悪は偽証罪になる」

 この国はちゃんと戸籍もあるし、そういうのにうるさいんだ。

「うーん……いじめられるかもよ?」
「いじめはないんじゃないかな? 一応は大きな家だもん。友達ができないだけだよ」

 評判最悪な家だが、逆を言うと、それが許されるだけの力を持っている家ということだ。

「それはそれでどうなの?」
「それでいいよ。あまり他人は信用しないようにする。もうあんなのはごめんだよ」
「友達は大事よ? それに彼女とかもできるかも」
「エリーゼがいるよ」

 君だけが頼り。

「嬉しいような、悲しいような……」
「まあ、なるようになるよ。友達はいらないって言ったけど、何もケンカ腰でいくわけじゃない。適度な距離を保った感じの付き合いをするつもり。その辺は得意なんだ。何しろ、これまでに友達なんかいたことがない引きこもりだから」
「得意そうには聞こえないけど……? まあいいわ。じゃあ、入学手続きをしに行きましょう。どこかしら?」
「多分、事務でしょ。行こう」

 魔法学校の敷地に入ると、事務を目指して歩いていく。

「誰もいないわね?」

 エリーゼが言うように広い敷地には誰もおらず、少し寂しく感じる。

「今は春休みだもん。来月にはそこら中に学生が歩いていると思うよ」

 この世界の学校の長期休みは春と夏にあり、それも一ヶ月以上と長い。
 理由は遠くから来る人も多いし、電車や車がないこの世界では帰省に時間がかかるから。

「ふーん、あんたも本当なら王都に行ってたわけね」

 その予定だった。

「試験もなく入れるところね。貴族しかいないこの国最高の学校」
「そっちの方がいじめられそうね」
「そうかもね。もしかしたらそこで闇落ちして、悪役貴族になるのかも」
「ありえそう」

 ここではそうならないようにしたいなと思いながら歩いていき、事務の方にやってくると、入学受付という看板があったのでそちらの方の受付に向かった。

「こんにちは。来月からの入学希望なんですけど」

 事務員のおばちゃんに声をかける。

「はいはい。まずはこれに触れてもらえる?」

 おばちゃんがカウンターの下から水晶玉を取り出した。
 これは触れた者の魔力を大まかに測定するものだ。
 魔力があれば変色し、白、黄、緑、赤、青と変わっていく。
 白が一番低くて青が一番高い。

「はい」

 水晶玉にそっと手を置くと、透明な水晶玉があっという間に青に変わった。

「青? す、すごいわね……」

 おばちゃんが驚くが、僕はMPが無限だからまあそうかもとは思っていた。

「ありがとうございます」
「とにかく、適性はありそうね。じゃあ、書類に必要事項を書いてくれる?」

 実はこれも適性試験だったりする。
 貴族はもちろん、普通の町民だって文字の読み書きぐらいはできるが、農村出身者などはそういう教育を受けていない可能性がある。
 そういう人達はさすがに入学できない。

「わかりました」

 僕は書類に名前や出身地、希望の学科なんかを書いていく。
 その中には寮に入るかどうかも書いてあったのでチェックマークを付けた。
 そして、最後に奨学金を希望するかどうかの欄があったので手が止まる。

「すみません、入学料や授業料はどれくらいでしょうか?」
「入学料は金貨10枚よ。授業料は毎月、金貨5枚。寮に入るならそこにプラス3枚ね」

 となると、月に金貨8枚か。
 高いが、魔法学校なら仕方がないだろう。
 これでも学問を重視するこの国では補助がかなり入っているはずだ。
 しかし、金貨100枚しか持っていない自分にはちょっと辛い。
 月8枚だと年で96枚だし、これが3年間で300枚近く必要になるということになる。
 持ってきた調度品を売っても厳しい気がする。

「後から申請するのは大丈夫でしょうか?」
「もちろん、大丈夫よ。途中で払えなくなる学生さんは多いからね。でも、奨学金は2種類あって、国から出るものとこの町から出るものがあるわよ」

 町から?

「町っていうのは何でしょう? 国はわかるんですけど」
「この町の領主様は独自にそういう政策をされているのよ。卒業後もこの町に残ってくれるなら最大で半額免除になるわ」

 半額も……なるほど。
 そうすれば優秀な魔法使いや錬金術師がこの町に残り、貢献してくれるからだろう。
 もちろん、最大っていうことは何年以上在住という期間があるということだ。
 これは良いな。
 僕はこの町でアトリエを開くつもりだからずっとここに住む予定だし、それなら最初から奨学金を申請した方が得だ。

「わかりました。町からの奨学金を希望します」
「了解。じゃあ、全部書けた?」

 奨学金申請の欄にチェックをし、最後にもう一回確認する。

「できました」

 書類をカウンターに置くと、おばちゃんが手に取り、確認する。
 でも、いきなり、目の動きが止まった。

「あのー……」
「え? アシュクロフト様ですか?」

 まあ、こうなるよね……