町の門に近づいていくと、槍を持っている門番の兵士がこちらを注意深く、じーっと見ていた。

「……警戒してる?」

 小声でエリーゼに聞く。

「飛んでた私が見えてたんでしょ。いきなり攻撃してくることはないと思うからちゃんと話しなさい」
「……名乗って良いものかな?」

 サクヤのあの2人の反応のことがある。
 エリーゼが言うようにアシュクロフトの悪名は結構知れ渡っているようだ。

「学校に入学するわけだし、嘘はマズいでしょ。素直に言いましょう」
「……わかった」

 頷くと、そのまま近づいていく。
 門番は相変わらず、こちらをじーっと見ているが、槍を向けてくるようなことはしなかった。

「こ、こんにちはー」

 敵意がないことを示すためにまず、挨拶をする。

「ああ……こんにちは。すまないが、まず確認させてほしい。先程上空を飛んでいたのは貴殿らか?」

 魔物の可能性があるからね。

「はい。この子はエリーゼって言って、僕の使い魔なんです」
「使い魔……ということは魔法使いか……申し訳ない。身なりからして、それなりの身分のように思えますが、どちら様でしょうか?」

 来たか……

「ウィリアム・アシュクロフトと言います」

 そう答えると、兵士さんの背筋が伸びた。

「これは失礼しました! しかし、アシュクロフトの方が何故、この町に?」
「いえ……実は家を出たんです。それでこの町で錬金術を学ぼうかと思ったんです」
「家を出たのですか? 何故?」

 理由か……

「小さい頃から錬金術師に憧れていまして……跡取りは兄がしますし、やりたいことをしようと思ったんです。父にも話し、認めていただきましたので家を出たんです」
「そうなんですか……ここまで大変だったでしょう」
「いえ、見ていたと思いますが、使い魔に乗ってきたので大丈夫です」

 迷子になりかけたけど。

「さようですか……錬金術を学ぶということは魔法学校に入学するということでしょうか?」
「ええ。そのつもりです」
「ふむ……」

 兵士さんが考え込む。

「どうしました? まさかもう受け付けていないとか?」
「いえ、期限は来週だったはずなのでまだ大丈夫ですよ。一応、確認ですが、試験があるのは御存じで?」
「ええ。適性試験と筆記試験があるのは知っています」

 錬金術科はその2つだ。
 適性試験は単純に魔力があるかどうかのチェック程度であり、筆記試験は授業についていけるかどうかの試験。
 魔法科の場合はここに魔法の実技試験もある。

「把握しておられるなら問題ありません。ですが、これだけは忠告しておきます」
「何でしょう?」
「ウィリアム殿はアシュクロフトの評判をご存じですかな?」

 あー、この兵士さんは心配してくれているんだ。

「知らなかったんですが、家を出る時に町でものすごく避けられました」
「アシュクロフトはこの国では5指に入る大きな家です。しかし、あまりこういうことを言いたくありませんが、評判的にはあまりよろしくありません。そんな中、魔法学校では平民だけでなく、他所の領地の貴族もおります。中にはリットからの留学生もいます。何かあるとは言いませんが、ある程度の覚悟はしておいた方がいいかもしれません」

 イジメかな?
 まあ、気にしなくていいだろう。
 自分は友達を作りにきたんじゃない。
 独り立ちするための技術を学びに来たんだ。
 それに何より、僕にはエリーゼがいる。

「わかってます。お心遣いに感謝します」
「いえ……もう一つアドバイスですが、服装を変えた方が良いかもしれません。貴族の服というだけで委縮する者もいますし、家を出たからには自分は平民になったんだと意識が大事です。もちろん、これは対外的にアピールのためです」

 確かにその通りだな。
 着の身着のままできたが、ちょっと身なりを整えるか。

「何やら何までありがとうございます」
「いえ、夢を持ち、家を出てまで何かを成そうという心は尊敬に値します。頑張ってください。それではお通りください」

 兵士さんが勧めてくれたので門を抜ける。
 門を抜けた先はやはりアルゼリー程の都会って感じではないが、賑わっており、田舎って感じでもなかった。
 そんな町並みを歩き、町人らしき人や冒険者らしき人とすれ違ったのだが、誰もこちらを見てこない。
 アルゼリーのようにあからさまに避けられるっていう感じではないが、関わりたくないって感じだ。

「アシュクロフトじゃなくて、貴族の子供だからかな?」

 エリーゼに聞いてみる。

「さすがに他所の町であんたを知っている人間はいないからね。門番の人が言ってたように服を変えた方がいいんじゃない? 将来的にアトリエを開きたいならマイナスでしかないわ」
「先に服屋に行こうか」
「場所はわかる?」
「多分ね」

 そのまま歩いていき、服屋の前までやってくると、看板を見上げる。

「ゲームの世界、か……」

 エリーゼがぽつりとつぶやいた。

「どうしたの?」
「あんたの言っていることは本当なんだなって改めて思っただけ。あんたはアルゼリーと王都しか行ったことないのに初めて来たこの町で迷わずに服屋に来れた」 
「まあ、知ってるからね。実際、これまでもゲームと一緒だったよ」

 多少、町の大きさが違ったり、建物が変わってたりしたが、町の作りは一緒だった。

「そう……」
「服を変えたらちょっと町を見て回ろうか。一応、その辺を確認しておきたい」
「わかったわ。時間もあるし、そうしましょう」

 僕達は店に入り、適当な服を購入すると、町を巡ることにした。
 やはり服を変えると、町の人達もこちらを一切、気にしなくなったので見た目って大事なんだなって思った。