焚火を目指して歩いていくと、急に焚火が消えた。

「あれ? おやすみ?」

 寝るために焚火を消したのかな?

「……いや、多分、警戒された。早く声をかけなさい。今、こちらは向こうが見えないけど、向こうは完全にこちらの位置を把握しているわ。奇襲されるわよ?」

 それで火を消したのか……

「す、すみませーん、お聞きしたいことがあるんですけどー。怪しい者じゃないでーす」

 しーん……

「無視……」
「警戒してんだってば。早く事情を話しなさい」
「すみませーん、迷子なんですー。ここ、どこですかー? ウェイブに行きたいんですー」

 そう声をかけると、さっきまで焚火が見えた位置が明るくなった。
 焚火の火ではなく、僕が使っているのと同じライトの魔法だ。
 これで向こうに魔法使いがいることがわかる。

「……どちら様でしょう?」

 先にいるメイドさんが声をかけてきた。
 メイドさんは20歳前後くらいの若い女性に見える。
 黒髪をまとめており、本当にメイド服を着ているので間違いなく、メイドだろう。
 そして、かなり警戒をしているように見えた。
 それもそのはずであり、メイドさんの後ろには僕と同じくらいの歳の銀色の髪をしたお嬢様っぽい子がいて、その子を庇うように立っているのだ。

「ウィリアム・アシュクロフトと申します。この子は使い魔のエリーゼです」
「アシュクロフト!?」
「えっ……」

 あっ……

「……失敗かな?」
「仕方がないでしょ。でも、貴族だってわかってくれたからこれで向こうから攻撃してくることはないと思う。さっさと話をして、立ち去りましょう」

 それが良いな。

「えーっと、アシュクロフトの家を出たただの旅人なんで気にしないでください」
「はい?」
「家を出た……?」

 理由を説明するのは難しいな……

「とにかく、ウェイブに向かっているんです。でも、迷子になったのでここがどこかだけでも教えていただけませんか?」
「ウェイブですか……」

 メイドさんが主であるお嬢様っぽい子を見る。
 すると、お嬢様っぽい子が頷いた。

「アシュクロフト家ということはアルゼリーから来られたんですよね? ここはリット王国との国境沿いです。ウェイブは通り過ぎておられます」

 あ、南に行きすぎたんだ。

「すみません、ウェイブはどこですかね?」
「この街道をまっすぐ行けば看板があります。そこを西に行けばウェイブの町ですよ」

 おー!

「あ、ありがとうございます! 何かをお礼を……」

 お金、お金……

「結構です。こういうのは助け合いですし、道を教えただけですので」

 下手に近づかない方がいいか。
 評判最悪貴族の男だし。

「わかりました。もし、また御縁があればその時はお礼をさせてください。では、失礼します……エリーゼ、行こう」
「そうね」

 僕達はその場で引き返すと、早歩きでこの場を離れた。

「どうする? どっかで野営する?」

 さすがに暗すぎる。

「もうちょっとあの2人から離れましょう」
「あー、警戒させちゃうか」
「いえ、逆よ。あの2人、護衛がいなかったでしょ?」

 いなかったね。

「強いんじゃない?」
「ええ。強いのよ。特にあのメイドはすごいわ。万が一を警戒して奇襲してくるかもしれない。こんなところで戦闘や揉め事があっても目撃者はいないわ。お互いにね……」

 名乗ったのは失敗だったかなー?

「わかった。離れよう」
「乗りなさい」

 エリーゼが地面に降り立ち、大きくなったので跨る。

「わかる?」
「そこまで高く飛ばずに街道を進んでいくわ。それで看板まで行って、そこで野宿にしましょう」
「お願い」

 僕達は数メートル程飛び、ライトで街道を確認しながら進んでいく。
 すると、数十分程度で看板が立てかけられた分かれ道までやってきた。

「ここだね。確かに西にウェイブって書いてある」
「嘘は言わなかったみたいね」
「だね。休もうか」
「そうしましょう」

 僕達は焚火を起こし、パンを食べると、この日もエリーゼに包まれながら就寝した。
 そして、翌朝からは西に向かって進んでいく。

「さすがに疲れたね」
「部屋に引きこもってた子が連日の野宿だからね。しかも、食事はパンだけ」

 我ながらよくやっていると思う。
 でも、これは自分の道を切り開くためだ。

「どんな豪勢な暮らしでも待っている先が破滅なら嫌だからね。頑張るよ」
「ほどほどにね。今日はさすがにウェイブに着くと思うからちゃんとした宿屋に泊まりましょう」

 そうしよう。
 お金ならあるわけだし。

 僕達がその後も上空を進んでいくと、前方に外壁に囲まれた町が見えてきた。

「おー、ウェイブだ!」
「結構、大きいのね」

 ウェイブの町は僕達がいたアルゼリーの町ほど大きくないが、この国でもそこそこに大きい町だ。

「あそこはウチとリット王国の玄関の町なんだよ。ウチの国からリットに行く時もリットからウチの国に来る時も必ず、あそこに寄るって言われている」
「へー……それもゲームの知識?」
「いや、ゲームではただの魔法学校があるってだけ。これは普段の僕の勉強の成果だよ」

 僕は自分で言うのもなんだけど、引きこもりだが、勤勉な子供なんだ。
 これがどうしたらあの悪役貴族になるのかが本当にわからない。

「そういえば、真面目に勉強してたわね。そろそろ降りるわよ」

 門から100メートルくらいの位置でエリーゼが降りる。

「ここまでありがとうね」
「迷子になっちゃったけどね。行きましょう」
「うん」

 小さくなったエリーゼを抱えると、門に向かって歩いていった。