課題を終え、寮に戻ると、ランディと早めに夕食を食べる。
そして、その後はずっとエリーゼのぬいぐるみを作っていた。
ふいにカツンという音が聞こえてきたので顔を上げる。
「ん? エリーゼ、呼んだ?」
ベッドの方でゴロゴロしているエリーゼを見る。
「呼んでないわよ。窓の外から聞こえたし、例のアレでしょ」
「あー、アレかー……」
立ち上がって窓の方に行くと、カーテンを開ける。
すると、メイドさんがぶら下がっていた。
「こんばんは」
さすがに二度目なので特に驚きもせずに窓を開け、声をかける。
「こんばんは。夜分遅くに失礼いたします」
マリーのところのメイドのリサはそう言って、部屋に入ってきた。
「どうしました?」
「特別実習の課題を終えたそうでおめでとうございます。またお嬢様が大変お世話になりました」
リサがうやうやしく頭を下げる。
「僕もお世話になったよ。マリーって魔法がすごいんだね」
「努力されましたから。それにウィリアム様も素晴らしいと思います」
どうも……
「それを言いに来たの?」
「まあ、そんなところです。それと今後ともお嬢様をよろしくとも頼みに来ました。お嬢様はウィリアム様とご一緒されて大変嬉しそうですので」
まあ、僕もそれは思っている。
やはり同じ転生者っていうのは大きいし、心強い。
「引き続き、チームを組んでいくし、そうするよ」
「ありがとうございます。それでは私はこれで失礼します。錬金術の作業中なのに失礼致しました」
「ううん。あ、お土産」
デスクの上にあるエリーゼのぬいぐるみを渡す。
もちろん、依然渡したやつとは別の種だ。
「ありがとうございます。お嬢様も喜ぶでしょう」
「うん。でも、枕元はやめてね。なんか変態チックだから」
よく言えばサンタさんなんだが……
「かしこまりました。そのように致します。では」
リサの姿が一瞬にして消える。
急いで窓の外を覗いたが、やはり姿が見えなかった。
「すごいメイドさんだね」
「ホントにね」
窓を閉めると、デスクに戻り、作業を再開する。
「エリーゼ」
「なーに? もう寝るの?」
エリーゼがベッドからこちらにやってきた。
「昨日さ、あの3人と上手くやれそうかって聞いてきたじゃない?」
「聞いたわね。どう?」
エリーゼが改めて聞いてくる。
「あの3人なら上手くやれそうな気がする」
「それはとても良いことね。どの辺りが?」
どの辺り……
「マリーはさ、やっぱり同じ転生者だから協力しないといけないんだなって思う」
「そうね。ランディは?」
「友人」
はっきりそう言える。
「ふむふむ。アメリアは?」
「まっすぐな良い子だよ」
「そっか。その縁は大事にしなさい」
そうするべきなんだろうなって思う。
前世では上司や同僚に裏切られたし、今世ではそうならないように1人で生きようかと思っていた。
でも、そうじゃなくて、本当の意味で信頼できる人を見つけるべきなんだと思う。
今思えば、上司も同僚も利害関係のみで繋がった会社の関係者に過ぎないのだ。
「よし、今日は寝よう」
「そうしましょう」
エリーゼを抱えると、灯りを消し、ベッドに入る。
「おやすみ、エリーゼ」
「ふわーあ。おやすみー……」
僕は何よりも信用できるエリーゼを抱きしめたまま、目をつぶり、就寝した。
◆◇◆
『商会長、よろしいでしょうか』
部下の女性の声が聞こえてくる。
「いいぞ」
そう答えると、部下が入ってきて、一礼した。
「失礼します」
「どうした?」
そう聞くと、部下がこちらにやってきて、デスクに猫のぬいぐるみを置く。
「こちらが南のウェイブの町で売られており、人気になっているそうです」
ウェイブか。
この国では最南端の町だ。
「ほう……」
ぬいぐるみを手に取り、よく見てみる。
触り心地はふわふわだし、柔らかい。
それに何より、可愛い猫だと思う。
「素材的にも安価であり、量産しやすいです。また、女性や子供にも人気が出そうですし、王都でも売れます。ウチでも同じようなものを作成し、出したらどうでしょうか?」
なるほど。
そういう提案をしに来たわけだ。
「製作者は?」
「そこまでは不明です。ただ、ウェイブの個人店で売られているようです」
その店の主が作ったか?
そこまで特殊なものではないし、十分にありえる。
「猫を作るのか?」
「いえ、そこにこだわらなくても良いと思います」
確かにそうだ。
別に犬でもいい。
しかし、この猫、何かが引っかかるな。
「これの情報は他にないか? 誰が作ったかはわからなくても情報が欲しい」
「そう言われましてもウェイブですからね。王都からも遠いですので情報を仕入れるのも一苦労です。このエリーゼのぬいぐるみにしてもウェイブにいる友人から送られたものでして」
エリーゼのぬいぐるみ?
「待て。これはエリーゼのぬいぐるみという商品なのか?」
「え? はい。10種あるそうです」
ほう……
“エリーゼ”の“ぬいぐるみ”か。
「なるほどな……」
「商会長?」
部下が首を傾げた。
「なんでもない。なんでもないが、少し気になる。馬車を用意しろ。ウェイブに向かう」
「え!? ウェイブですか!?」
「ああ。明日にでも出たい。すぐに用意してくれ」
「か、かしこまりました!」
部下は頷くと、部屋を出ていった。
「引っかかるわけだ」
エリーゼ……そして、ぬいぐるみ……
「やはり私以外にもいたか……」
転生者……
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