そのまま待っていると、マリーとアメリアがやってきたので特別訓練施設に向かう。
 そして、特別訓練施設をマリーとランディの案内で歩いていく。

「ウィル、回復ポーションはどうですか?」

 アメリアが聞いてくる。

「20個できたよ。Cランクも1個だけできた」
「Cランクはすごいですわね。わたくしはDランクが15個です」

 あと15個か。

「この調子なら今日中にはできそうだね」
「ええ。あとは毛皮です」

 毛皮もなめし液はできている。

「ランディ、頼むよ」
「ファイトですわ」

 もちろん、毛皮を剥ぐ作業ね。

「はいはい。覚えて損はないからやるよ」

 ランディ、かっこいい。

 僕達がそのまま歩いていくと、高い外壁が見えてきた。
 ただ、一部分だけには外壁がない。

「あれが外に繋がっているっていうやつ?」
「ああ。俺とマリーは初日に案内されたが、あそこから外に行ける」

 魔物はともかく、敵兵が来たらどうするんだろ?

「外は魔物がうじゃうじゃ?」
「そんなことないぞ。というか、ウィルはアルゼリーから来たから知ってるだろ」
「それもそうか」

 そのまま歩いていくと、外壁までやってくる。
 それで気付いたのだが、外壁がない部分は確かに外に繋がっているのだが、とんでもない大きさの扉があり、ただ閉じていないだけだった。

「なるほど。何かあれば閉じるわけだ…………閉じる?」
「どうやって閉じるんでしょうか?」

 アメリアとと共に首を傾げる。
 外壁も門も10メートル以上はあるように見えるし、あんなでっかい扉をどうやって閉じるのか。

「そういう魔道具があるらしいぞ。スイッチ一つで閉じるらしい」
「へー……」

 すごいな。
 これも錬金術の力なんだろうか?

「森が見えますわね?」

 アメリアがそう言ったので門の先を見ると、数百メートル先に森が見えた。

「ホントだ。魔物はあそこから来るんだろうね」
「だと思います」

 怖いね。

「あそこに行くの?」
「森の中に入るのも1つの手だが、先輩から教わった方法がある」

 先輩?

「ランディはよく先輩と話せるね。僕なんかクラスメイトともしゃべったことがないのに」
「それはそれでどうなんだ? あ、いや、俺は地元って言っただろ。元々知り合いの先輩も多いんだよ」

 あ、なるほど。

「それでランディ、森に入らない方法っていうのは?」

 マリーがランディに聞く。

「エサを森の近くに置いておくと、来るんだってさ」
「エサ? ゴブリンが来るんじゃないの?」
「そのゴブリンを狙って来るんだと」
「へー」

 へー。

 僕達はその案を採用するにし、森に近づいていく。

「ちょっと待ってろ。エサを置いてくる」
「エサって?」
「食堂のおばちゃんに弁当もらったろ。1つは残り物の残飯だ」

 あ、だから2つも受け取っていたのか。

「なるほどねー」
「じゃあ、行ってくる」

 ランディが歩いていくと、アメリアが敷物を取り出し、地面に敷く。
 そして、マリーと共に腰かけたので僕もマリーの横に腰かけた。

「用意良いね」
「外で食べることになると思ったので用意してたんです。ここで待ってましょう」
「ウィル、お茶いる?」
「あ、うん」

 僕達はマリーがくれたお茶を飲みながら地面にエサをばら撒いているランディを待つ。
 すると、準備を終えたランディが戻ってきた。

「いや、ピクニックかよ」

 ランディが僕達を見て、ツッコむ。

「淑女というものはいついかなる時も優雅さを忘れてはいけませんわ」
「そうよ。大事なのは余裕」

 へー……

「ったく、女子3人は……」

 あれ? また僕も?
 エリーゼのことだよね?

 僕達はそのままエサの方を眺めながら待つ。

「暇ですわね。わたくしは回復ポーションでも作ってます」

 アメリアがそう言って材料を取り出し、錬金術を始めた。

「優雅さはどうした?」

 ランディがツッコむ。

「優雅に錬金術をするんです」
「あっそ……」

 横でカチャカチャという音を聞きながらさらにそのまま待ち続ける。

「暇ね。ウィル、トランプでも作ってよ」
「それは良いね。でも、材料がないよ」

 紙がいる。

「ハァ……つまんないわね」
「余裕はどうした?」

 またもやランディがツッコんだ。

「余裕すぎるのよ」
「あっそ……」

 本当に暇なのでエリーゼを撫でていると、気持ちよさそうな顔をしていたエリーゼが急に起き上がった。

「どうしたの?」
「ゴブリンが来たわよ」

 エリーゼがそう言うと、暇そうにしていたマリーが立ち上がり、ランディも身構える。
 ただ、アメリアは錬金術に集中していた。

「来たわね……」
「ああ」

 ランディが頷くと、森の中から1匹の小鬼が出てきた。
 ゴブリンである。
 ゴブリンは僕達を一瞥したが、すぐに地面に落ちているエサを拾い、食べだした。

「本当に知能が低いんだね」

 ゴブリンもスライムと同様にポピュラーな雑魚敵であり、そう聞いている。

「ゴブリンだからね……ウルフも来ているわ」
「そうなの?」
「ええ。3匹いる」

 エリーゼがそう言った瞬間、森から3匹の狼が飛び出し、ゴブリンを襲う。

「グギャッ!」

 ゴブリンは悲鳴を上げ、身体を振り回すが、喉元を噛まれ、倒れた。
 そして、その隙に狼がゴブリンを捕食している。

「ひえー、自然だ」
「そういうものよ。マリー、ランディ、食べ終わったら次は私達よ」

 ウルフはゴブリンを食べているが、こちらを見ているのだ。

「わかってるわ」
「どうする? 毛皮目的だから傷は付けられないぞ」
「私がやる。ランディは討ち漏らしに備えて」
「わかった」

 マリーは1歩前に出ると、手を掲げる。

「マリー!」

 エリーゼが叫ぶと同時にゴブリンを食べていた3匹のウルフが一斉にマリーのもとに駆けだした。

「エアハンマー!」

 マリーが魔法を使うと、一瞬にしてウルフ達が吹き飛んで空中に投げ出される。
 そして、そのまま地面に落ちると、ピクリとも動かなくなった。

「マリー、すごーい!」
「ふふふ、褒めるんじゃないわよ。たいしたことないわ」

 マリーは頬を染めて、満足そうに頷いている。

「死んだな……じゃあ、汚れ仕事をしてくる」
「ランディ、すごーい!」

 褒めとこ。

「いいから警戒しておいてくれ。まだエサは残っているし、来るぞ」
「わかった」

 僕達は毛皮の剥ぎ取りをランディに任せ、エサや周りを注視する。
 なお、我関せずのアメリアはできた回復ポーションを眺めて、満足そうに頷いていた。